この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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30.お前は何も悪くない

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 次の勉強を始めて一時間を過ぎた。
 集中を切らさずに問題集に向かい合えるのはすごいと思う。
 実は先輩勉強が好きなのでは? と思ったが、終わった途端問題集を投げ出しテーブルに突っ伏したのを見ると決してそうでは無かったのだと分かる。

「……疲れた」

「お疲れ様です」

 まだ完璧とは言えないがとりあえず試験範囲は終えたので良いだろう。
 ノンストップで慣れない事をし続けるのはかなりのストレスだと思うし。

「いい加減昼ごはん食べましょうか」

 気がつけば時計はもうすぐ一時を指す。
 もう胃は空っぽである。何かと体力を使った気もするし。

「その前に……」

「う……分かりましたよ……」

 駄目だろうとは思っていたがやはりうやむやにはしてくれなかった。
 そんなに俺の情けない姿を見て爆笑したいのか。

 観念してフードをかぶる。
 ほらこれで満足かとふくれっ面で先輩を見たらいつの間にかスマホを構えられていた。

「ちょっ! 何撮ってんですか!」

 こんな姿を画像に残されるなんてどんだけ鬼畜の所業だこの人は!

「ほら可愛い顔しろ」

「どんな顔だよ!?」

 思わず敬語が抜けてしまうのはしょうが無いだろう。
 先に滅茶苦茶な事を言ってるのは先輩だ。
 写真から逃れる為フードを引っ張って顔を隠したらとても怒られた。

「……よっぽどキスの方をお望みのようだな?」

「……っ!」

 不穏な言葉にビクッと反応して、仕方なくゆっくりと真っ赤な顔を出した。恥ずかしくてちょっと泣きそうだ。
 その際に目の前に垂れている耳が憎くなってギュッと握ったら連写された。何故だ。

「も……もう良いでしょ!? お腹空きました……」

「まぁ、悪くねぇな……。じゃあメシ食いに行くか」

 スマホを降ろされてホッと息を吐きすぐさま耳付きフードを脱いだ。
 やっぱりこの耳はもぎ取っておくべきか、でもせっかくもらった物を破いてしまうのは申し訳ないし……と思いながら先輩の言葉に遅れて反応しハッとする。

 メシを食いに“行く”?

「あの……ここで食べないんですか?」

 素朴な疑問を言ったら先輩は俺を見て、にやりと笑った。

「なんだ、二人っきりが良いならまたメシ買ってきて……ーー」

「ーーいえそうじゃなくてですね」

 先輩の顔がまた不機嫌そうになった。何だよ面倒くさいなこの人。

「俺が行くと、ほら、周りの迷惑になるかなって……」

 先輩や猫野や夢野と居ると忘れてしまうが、俺は居るだけで迷惑になるほどの嫌われ者だ。
 だから俺がそう言ったら、先輩の顔は不機嫌から少し驚いたものに変わり、口元に手をやって「あぁ……」とか「そういやこいつ……」とか小声で呟いている。
 先輩も俺が周りから嫌われている事を思い出したようだ。

 自分で言っておいてちょっと傷ついていたら先輩から腕を取られ立ち上がらせられた。

「あんまり周りの目を気にし過ぎるな。それじゃ何にも出来ないだろが。そもそもお前が悪いことしてる訳でもねぇんだし、お前はやりたい事を好きなようにしたら良いだろ」

「そう、ですね……」

 先輩から予想外に優しい言葉が返ってきて驚いてしまい、気の利いた返事も出来なかった。
 そんな俺の頭にフードを被せポンと大きな手のひらで撫でられて、いつも乱暴にグチャグチャにするくせに弱ってる時にそれは反則だ。
 今は耳付きフードを被せられても文句は言えない。だってたぶん今ちょっと泣きそうな顔になっているから。

「だがその服は着替えろよ」

「もちろんです」

 先輩の言葉に即答する。
 いくら周りの目を気にするなと言ってもこれを着ていけるほどの度胸は無い。

「あの……」

「あ?」

「すぐ着替えるんで外で待っててもらえますか?」

「……別に良いじゃねぇか男同士なんだしよ」

 俺もそう思うけれど先輩の手に握られたスマホが何となく怪しいのでグイグイと押して何とか追い出す事に成功した。
 先程の優しさはどうした。
 舌打ちしたの聞こえたからな。





 ※おまけ ~ウサ耳に落ちるヤンキー~


 真っ赤な顔に潤んだ瞳。
 恥ずかしそうにそっぽを向いて頼りなさげにふわふわのウサ耳を掴んだ、庇護欲と狩猟本能を刺激するその姿。

 とりあえず新しい待ち受けにしておいた。



 
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