この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

文字の大きさ
上 下
29 / 119

【バレンタイン番外編】

しおりを挟む
 

 ※バレンタインデー記念の番外編です。本編とは関係ありませんので読み飛ばしていただいてもかまいません。
 ほぼ会話文です。



「おっはよールイちゃん!」

「チエおはよう」

 今日はバレンタインデーだねー! 俺に愛のこもったチョコちょうだい! なんて言えないのが俺、猫野チェシーである。
 だって引かれて嫌われたら怖いじゃん!?

「ルイおはよー! バレンタインのチョコちょうだいっ!!」

 ……凄えアリス、さすが特攻隊長と呼ばれるだけあるな。

「えっ、チョコ? バレンタイン……って、アリスチョコ好きなの?」

「うん好き! すっごい好き! 誰よりも愛してるからルイちょうだいっ!!」

「う、うん……すっごい好き、なんだね……。でもどうしよ、チョコ持ってなくて……」

「なんならチョコの代わりにチョコのように甘いキスでも……」

「売店のチョコでもいいかな?」

「え、うん、いいよ、全然うん……」

 しかし撃沈していた。
 もらえるだけ良いじゃないか! たとえそれが駄菓子のチョコ詰め合わせでも!
 よし俺は送る側に回ろう。
 そんでホワイトデーはルイを貰おう。
 そうと決まれば媚薬入りのチョコを……どこに売ってんだろ。



 ※ ※ ※



「これやるよ」

 昼休みのいつもの場所、白伊先輩から紙パックのジュースを渡されて警戒心が芽生える。

「……ココアに炭酸は入ってねぇよ」

「そう……ですね」

 よく見るココアのパッケージであることを確認し、どこかに炭酸飲料と書かれていないかも丹念に確認してからストローを刺した。
 でも念の為少量を口に含んで本当に炭酸が入っていないと確信したので先輩に礼を言った。

「ホントにココアだ……ありがとうございます先輩!」

「……どんだけ疑ってんだよお前」

 それは日頃の行いが悪いからだろう。
 今まで何度苦手な炭酸を飲まされた事か。しかもその後はかなりの確率で苦しいぐらいの深いキスをされるし。あの屈辱は忘れないぞ。
 しかしまぁ害が無いのであれば貰えるものは貰っておこう。ココア美味しい。

「んで? 俺には無いのかよ?」

「へ?」

 ココアを飲みきったタイミングで先輩が言った。

「せっかくバレンタインとかのくだらないイベントに付き合ってやったってのにお前からは何も無しかよ。つめてーなおい」

 言葉だけを聞くと怒っているように思えるが先輩はとても楽しそうに意地の悪い笑みを浮べて迫ってきた。
 ヤバい、これは何か良からぬ事を考えている時の先輩だ。と言うかこのココアはバレンタインのチョコ代わりだったのか。

「あのっ、すみません! 今から売店で買ってきますから!」

 階段に並んで座ったまま肩を引かれて慌てて両腕を突っ張る。

「今からじゃ間に合わねぇだろ。チョコが無いならホワイトデーにお返しとしてくれるんだよな?」

「は、はい! もちろんです!」

「なら前払いでもらっとくぞ」

「ちょっ、近いっ……や、んぐっ!」

 精一杯腕を突っ張ったところで力でかなうはずもなく、あっさり唇を奪われてしまった。
 舌で唇を突かれたら条件反射で口を開いて迎い入れてしまう自分が嫌だ。
 口腔内を好き勝手されているようで、きちんと俺の感じてしまう所を攻められるからすぐに脱力してしまって、先輩の力強い腕に体を預けてしまう。
 ココアの味がすっかり無くなり先輩の味で満たされた頃に唇が離れていった。

「はぁ……、その顔クるな……」

「はっ、はぁっ、もうっ……な、長すぎです……っ」

 眉間にシワを寄せながら俺のぐちょぐちょになった顔を眺めるのはやめてほしい。嫌なら見なきゃいいだろ。
 なのに互いの吐息を感じるほど近いから恥ずかしくて下を向いたら先輩の胸に甘えたように顔を埋める格好になってしまって、これはこれで恥ずかしい。

 またからかわれるだろうかと身構えていたけれど、先輩は何も言わずに優しく抱きしめてくれて、悔しいがキュンとしてしまった。
 やめてくれ、そう言うモテテクは主人公にしてくれ。俺にしてどうすんだ。

「……今日はこれぐらいにしといてやるよ」

「はぁ……ありがとうござ……ーー今日は?」

 あれ、今日はって何だ?
 まるでまだ終わってないとでも言っているようじゃないか。

「お前これで返したつもりかよ? ホワイトデーは倍返しが基本だろうが」

「はぁ!? だったらココアを三個でも四個でも買ってきますよ!」

「いらねぇよ! どうしてもってなら口移しで飲ませろ」

「無理です!」

「あとココアじゃなくてコーラにしろ」

「もっと無理ですっ!」

「お前あれも無理これも無理ってやる気あんのか!」

「何で俺が怒られるんですか!? 無茶な要望を勝手に押し付けてるのは先輩でしょ!」

「ちっ……生意気言うようになったじゃねえか。しょうがねぇから飴で勘弁してやる」

「飴ですか? それなら……」

「ちゃんと全部溶けるまで口離すなよ」

「だからっ! 何でっ! 口移しが前提なんですかっ!!」

 駄目だ、この人の思考回路が理解出来ない。
 だからと言って了承は出来ないので予鈴が鳴るまで俺は先輩と言い争ったのだった。



[おわり]

 
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

セントアール魔法学院~大好きな義兄との学院生活かと思いきや何故だかイケメンがちょっかいかけてきます~

カニ蒲鉾
BL
『ラウ…かわいい僕のラウル…この身体の事は絶対に知られてはいけない僕とラウル二人だけの秘密』 『は、い…誰にも――』    この国には魔力を持つ男が通うことを義務付けられた全寮制魔法学校が存在する。そこに新入生として入学したラウルは離れ離れになっていた大好きで尊敬する義兄リカルドと再び一緒の空間で生活できることだけを楽しみにドキドキワクワク胸を膨らませていた。そんなラウルに待つ、新たな出会いと自分の身体そして出生の秘密とは――  圧倒的光の元気っ子ラウルに、性格真反対のイケメン二人が溺愛執着する青春魔法学園ファンタジー物語 (受)ラウル・ラポワント《1年生》 リカ様大好き元気っ子、圧倒的光 (攻)リカルド・ラポワント《3年生》 優しいお義兄様、溺愛隠れ執着系、策略家 (攻)アルフレッド・プルースト《3年生》 ツンデレ俺様、素行不良な学年1位 (友)レオンハルト・プルースト《1年生》 爽やかイケメン、ラウルの初友達、アルの従兄弟

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

異世界で騎士団寮長になりまして

円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎ 天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。 王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。 異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。 「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」 「「そういうこと」」 グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。 一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。 やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。 二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...