この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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26.ご褒美よこせ

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 食堂の料理はおいしかった。本当においしかった。
 これがほとんどタダ同然の値段で食べられるのだからやっぱり俺も今後は食堂に行こうかな、なんて考えてしまう。
 行かないけどね、お前なんで来てんだよ空気読めよって目で見られたくないからね。

「さて、どの教科からしましょうか?」

 前回赤点を取った教科全てを教える時間は無いので最も苦手な教科だけ勉強する事になった。
 その中でも数学は最悪だった。もう基礎からダメダメだ。よく再試も受かったな。
 と言うわけで一年の教科書からやり直しながら教える。
 俺が教えたら意外にも素直に問題を解いたり分からない所を聞いたりと真面目に勉強してくれた。
 それはたいへん嬉しいのだけど……

「なんっで……っ、一問解くたびにっ、キスしようとするんですかっ!!」

 頭と腰を掴まれ迫りくる先輩を両腕を使い全力で阻止する。

「うるせぇご褒美ぐらいよこせ!」

「はぁ!? だからジュースぐらい奢るって…ンーーッ!」

 全力の抵抗虚しく、俺の両手首を片手で頭上でまとめられ押し倒されて口付けられる。
 勢いよく唇を押し付けられたかと思えば柔らかさを堪能するように何度も角度を変えて唇を吸われる。
 最後に名残惜しむようにべろりと舐められてやっと離れていった。

 両手が自由になったので起き上がったら不意打ちでチュッとされて思わずチョップをかましてしまう。

「何すんだ」

「それはこっちのセリフです!」

 今日だけでもう五回もキスをされている。つまりまだ五問しか問題を解いていない。
 しかも最初は軽い物だったのにだんだん深い口付けになっている気がして少し怖いのだ。

「キスは一日一回って言ったじゃないですか!」

「それを了承した覚えはねぇよ」

 なんだその俺様な態度は! そんな態度が許されるのは漫画の中だけでしかも“ただしイケメンに限る”って言葉が付くんだからな! イケメンだけど。解せん。

「と、とにかく! こんな調子じゃ全然勉強が進まないですよ!」

「時間はたっぷりあるだろ」

「せめて三教科は勉強したいんで駄目ですっ」

 押しの強すぎる先輩に負けじと言い返せば黙ってしまったが、ここで引く訳にはいかない。
 勉強を教えると言ったからには責任を持って最後まで面倒を見なくてはいけないと思うから。

「……ちっ」

「うわっ!! ちょ、せんぱ……っ、何ですか!?」

 舌打ちされて態度悪いなこの不良なんて思ってる間もなくいきなり抱えられて焦りの声が上がる。
 何すんだと暴れる前にストンと降ろされて、先輩の胡座をかいた足の上にちょこんと座ってしまった。

「え? 何ですかこれ……?」

 いつもではあるが先輩の意味不明な行動は未だに困惑する。
 説明を求める為に後ろを振り返ったら近距離に先輩の顔があって慌てて前を向いた。

「おら、勉強すんだろ」

「このままするんですか!?」

「あと一教科終わったらキスな」

「え、えー……」

「お前からしろよ」

「えぇぇぇっ!?」

「嫌なら一問終わるごとに俺からする」

「………」

 俺の無言を承諾と受け取ったのか、先輩はペンを動かし問題を解き始める。
 ちょっと待って俺この状況にも一教科終わるごとに俺からキスもまだ受け入れきれてないのですが? と言いたいが言ったところで聞き入れるとも思えない。
 どうしよう逃げたい、防犯ブザー鳴らしちゃおうかなと思っていたら先輩から分からない問題を質問され、教えている内にキスの事も先輩の膝の上の事も忘れてしまっていた。


 
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