この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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25.おあづけ

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「おぅ、来たぞ」

「…………おはようございます……」

 翌朝、約束通り白伊先輩が来た。
 時間は午前六時を少し過ぎたぐらい……早すぎだろ。
 先輩が来るのを見越して早めに起きたつもりだったけど、まだ洗顔しか済ませていない。

「すみません、まだ何も準備してなくて……」

「良い、お前のメシも持ってきてやったから先に食うぞ」

 先輩が差し出してきたビニール袋を受け取るとまだ温かくていい匂いが漂う。

「食堂で詰めてもらってきた」

「こんな早くから開いてるんですね」

「部活の朝練する奴らが使うんだろ」

 なるほどと納得していたが、袋を受け取った後も先輩の視線がずっと下方にある事に気づいて何を見ているのかと思い、ハッとする。

「いやあのっ、これは……っ」

 慌てて隠そうとするが、隠せるものが無い。
 俺は昨日貰ったやたら可愛いルームウェアを着ていて、太もも半分から生足が出てしまい誰得だよと言う姿だったから。

「……そんなのも着んだなお前」

「違……っ、あの、違うくてですね!? これはたまたまでいつもは普通の寝巻着てるんですよ! ホントですからね!」

 昨日、これは無いわぁと思いながらもあまりの手触りの良さに好奇心で着てみたら、これまた抜群の着心地で脱ぐのが惜しくなりそのまま寝てしまった。
 だから決してこの可愛すぎるルームウェアが気に入った訳では無い。断じて違う。着心地は良いけども。

「すぐジャージに着替えるんでっ」

「待てっ! そのままで良い!」

「いやそれはちょっと……」

「そのままでいろ。メシやんねぇぞ」

 俺の腰に手を添えてズカズカと入ってきた先輩にそこまで言われては着替えられない。
 まぁ見た目さえ気にしなければ快適だから俺は良いのだけど先輩は見苦しく無いのだろうか。
 先輩が良いと言っているのだから良いか。

「朝ごはんありがとうございます」

「あぁ、足りるか?」

「十分ですよ」

 テーブルに持ってきてくれた朝ごはんを置き、クッションの上に並んで座る。
 向かい側に行きたかったけど先輩が俺の腰を離さないから隣にしか座れなかった。
 密着しすぎて食べづらいな、と思い少し離れてほしくて顔を上げたら至近距離に先輩の顔があって咄嗟に手で先輩の口を覆う。

「………おい」

 いつの間にか後頭部を引き寄せられていたからやっぱりキスしようとしていたらしい。
 阻止されて不機嫌な声を上げる先輩は本当にキスが好きだな。この人はそんなにいつも友人同士でチュッチュしているのだろうか、破廉恥な。
 いやこの世界ではこれが普通? 慣れる気がしないのだけど。

「べ……勉強が終わってから、です……」

 拒んで嫌われるのも怖いから先送りにしてみた。何の問題解決にはなっていないが、時間がたったら忘れてくれているかもしれないし、いや忘れていてください。

「……勉強の後のご褒美ってやつか」

「え? ご褒美とか準備してな……あ、ジュースぐらいなら奢りますよ」

「………」

 少し間があいて、ゆっくり先輩が離れていきホッと息を吐く。
 この世界は友人同士だとやたら距離が近いけど先輩は群を抜いて、いや群を抜くほど友達はいないのだけど、とにかく誰よりも距離が近すぎて心臓に悪い。
 やっぱり向かい側に行きたいけれど動こうとしたら先輩から腕を引かれ戻される。
 寂しがりやか。
 しかし先輩が袋から朝ごはんを取出しテーブル広げるとそんな事などどうでも良くなった。
 初めて食堂の料理を見るがとても美味しそうだ。

「さっさと食ってやるぞ」

「そうですね!」

 元気な返事をしてさっそく口をつける。
 久しぶりの出来たての料理を俺はホクホク顔で堪能したのだった。


 
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