この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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24.あいつが一番危険なんだよ

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 夕食も食べ終わった頃、ノックの音にドアを開けた。

「遅くに悪いな」

「いえ大丈夫です。どうされたんですか先生?」

 開けた先には担任の帽子野マット先生が立っていて、差し入れだとスナック菓子をくれた。

「ちょっと確認したい事があるんだ……」

「はい」

 スナック菓子を受け取り礼を言って、帽子野先生の顔を見る。
 優しげな笑顔を浮かべているが、どこか困った様子にも見えた。

「これ受理していいのか迷ってさ、木戸はこれに心当たりあるか?」

「これって……、同室許可書?」

 寮での規則に他生徒の部屋へ入るのは許可書がいる。
 友人との交流は談話室や食堂を使うのが一般的なのだ。
 でも今回、俺とヤンキーこと白伊先輩は俺の部屋で勉強会をする約束をしているから許可書を提出していたのだ。

「問題が無いのであれば受理して欲しいんですけど」

「……良いのか?」

「はい、勉強するって約束しているので」

「勉強って、白伊に勉強聞いても無駄だと思うけどな」

「いえ、俺が先輩に教えるんです」

「……そうか」

 俺がそう言うと、先生は苦笑いを浮かべながらも妙に納得した様子だった。

「じゃあ……受理して良いんだな?」

「はい、お願いします」

「……何か脅されてるとかじゃ無いんだな?」

「違います」

「弱みを握られてるとか……」

「違います」

 先生からの先輩の信用度が見えてくる。日頃の行いって大切である。

「そっか……そんじゃ受理しとくよ」

「よろしくお願いします」

「あぁ……。あ、これもついでに木戸に渡しとくな」

「はい? 何ですかこれ」

 許可書をファイルにしまった後、二つの小さな機械を俺に渡してきた。漫画やドラマで見たことがあるような機械だった。

「防犯ブザーとスタンガンだよ」

「はい……、はいっ!?」

 何だろうこれと眺めていたら物騒な名前を当たり前に出されてつい大声を上げてしまった。
 スタンガンって、こんなの生徒が持ってて良いのか。

「いいか、この紐引っ張ったらブザーが鳴るから何かあったらすぐ鳴らせよ? これは俺の部屋にも連携してるからすぐに駆けつける。もしくはブザーが鳴らせない時はこのスタンガンで反撃しても良い。上のカバー外してこのボタン押しながら相手に引っ付けろ。狙うなら首だ」

「いや、え? これスタンガン……。防犯ブザーはともかくスタンガンなんて危なくないですか? そもそも俺にどんな危険が?」

 もしかして俺って命を狙われるほど皆から嫌われてるの?
 まさかそれほどまでは、と思うが先生の真剣な様子に寒くもないのにブルリと体が震えた。

「スタンガンは特別許可されてるから大丈夫だ。使うときは躊躇するな。まぁなるべく防犯ブザーを使えな。特に明日は気をつけろよ」

「き、気をつけます……。あ、でも明日は朝から白伊先輩居るし大丈夫と思いますよ?」

 流石に先輩からはそこまで嫌われていないはず。友達でいてくれてるし、大丈夫だよね。
 先生には不安な顔をされたが、先輩は友達は大切にしてくれる人だと思う。
 しかし先生からの信用度が底辺なのは不良なんてしているからだろう。

「心配してくれてありがとうございます。なんかあったら先生を頼るんでお願いしますね」

「あぁ、分かった。約束だぞ? 必ず俺を頼れな」

 不安気な顔を緩ませ少し頬を染めて俺の頭を撫でて帰っていった。
 やっぱり教師として生徒に頼られるのは嬉しかったのだろう。
 渡された物はだいぶ物騒だが、これも先生の優しさと思えば嬉しくなる。
 出来れば使う事が無ければ良いと願いながら、俺は明日に備えて早めにベッドへ入ったのだった。


 
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