15 / 119
15.もう来ない?
しおりを挟む食堂はだんだんと人が増えてきた。いつもこんなに賑わっているのだろうか。
不意に『ホントに姫が居る……!』と声が聞こえてきた。
食堂に来たばかりの生徒が言った言葉みたいだ。
姫? と思ってすぐピンときた。
夢野アリスの事だ。間違いない。
ゲーム中のなんかのイベントで姫と呼ばれていたはずだから。
それに彼なら姫と呼ばれるのにピッタリだ。
そう思い人と目が合わないよう気をつけながら食堂を見渡すと案の定、夢野が奥の席に座って他の生徒と話していた。
なるほど、夢野目当てで人が集まっていたのか。
なら早々に退却しよう。せっかく夢野目当てで来た人も俺が居たら視界的にも邪魔で仕方ないだろう。
もらった缶珈琲を飲み干し、早足で食堂を後にした。
兎月生徒会長からもらった缶珈琲のおかげなのかは分からないが、とりあえず授業で居眠りする失態は免れた。
* * *
さて来てしまった昼休み。
つまりヤンキー先輩、もとい白伊先輩に会う時間だ。
昨日あんな事があったから少し、いやだいぶ、いや凄く、すごーく気まずい。
先輩は昨日は何でもない感じだったけど、俺も同じように出来るだろうか。
何なら今日は先輩は来ないなんて事にならないだろうか。
試験前だし忙しくて来れない、なんて可能性も無くはないはず。
そんな逃げの思考のままパンをかじっていたのだけど、なんと、本当に来なかった。いつも来る時間になっても姿が見えないのだ。
あれ、本当に来ないぞ、ラッキー。なんて思っていたのに、だんだんと気持ちがざわついてくる。
本当に来ないのだろうか。もしかして、もう二度と……?
「……どうしよ」
ざわつく胸の意味も分からず、でもつい溢れた言葉に驚いた。
来ないで欲しいと思ったはずなのに、いざ先輩が来ないと嫌だなんて我ながら自分勝手だな。
「何がだ?」
「………っ! せ、先輩」
来た!
先輩の姿にざわついていた胸が別の意味で騒ぎ出す。
「何が『どうしよ』なんだよ」
「いや別に……そ、それより今日ずいぶん遅かったですね!」
「ああ、食堂にジュース買いに行ったらすげぇ混んでてよ……なんか安売りとかしてんのか?」
「へー……あまり食堂行かないので知りませんけど、何でですかね」
朝に夢野が居たから昼も夢野が居ると思って人が殺到したとか?
だとしたら夢野も罪づくりな男だ。サイン会とかしたらいいのに。
どかりといつもの様に先輩は俺の隣に座る。
いつも通りの先輩の様子にホッとする。避けられている訳じゃなくて良かった。
なんて油断してたら、また手に持ってたパンを食べられてしまった。
いや人が食べてるのが美味しそうに見えるってのは分かるけど、だからって毎回奪うのはどうかと思います。
そして代わりに渡されたのはカツサンド。毎度思うけど物じゃなくて言葉で謝るべきだ。貰うけど。
「毎回俺の食べないでくださいよ」
「良いじゃねえか、代わりのやってんだろ。ケチケチすんな」
ケチじゃない正当な抗議だ。
って事をカツサンドを食べ終わってから言った。じゃあ返せって言われたら困るから。
「おらこれもやるよ」
「だからコーラはいらな……カルピス?」
またコーラを押し付けてきたのかと思ったら白いカルピスだった。カルピスは好きだ。
「ありがとうございます!」
素直に受け取ってお礼を言う。先輩もやっと俺にコーラを飲ませる事に飽きてくれたらしい。何が楽しかったんだか。
プシッとペットボトルの蓋を開けニコニコしながらカルピスを飲んで──
「っ!?」
──吐き出しかけた。
炭酸入ってる! 何で! とペットボトルをまじまじ見ると、カルピスソーダと英語で書いてた。
こんなのあるのか。炭酸に興味なかったから知らなかった、てか騙された!
「~~~っ」
「ほーら頑張れ」
口元を押さえて吐き出さないように堪えてる俺の横で、先輩はニヤニヤと腹の立つ笑いを浮かべていた。
この不良、許すまじ。
予想外の炭酸の刺激にうっすら涙を浮かべながら、少しずつコクリコクリと飲み込んでいく。
ホントに何が楽しいんだこの先輩は。
口に含んでいた液体を全て飲み込み、俺は安堵から大きく息を吐いた。
そして怒りを込めて先輩を睨んでやった。しかし、先輩の顔が何故かとても真剣な顔をしていて驚く。てっきりまだニヤニヤ面白がっていると思っていたものだから、予想外の表情に怒りよりどうしたのだろうと言う疑問が勝った。
「あの、先輩……?」
「……やべぇな……」
「は? ちょっ、んんっ!」
口元に吹き出しかけたカルピスが付いていたらしく、先輩にベロリと舐められてそのまま唇を塞がれた。
逃げようとする俺の腰と頭を先輩がホールドする。
昨日の今日でまたキスをされている事実に思考が追いつかない。
ただ、昨日より長くて呼吸が苦しくなる。酸素を求めて口を開けばぬるりと先輩の舌が入ってきて、嘘だろ! と思い体が強張った。
何がどうなってこうなったのかと混乱している間に、縮こまっていた舌を絡め取らる。舌同士を擦りつけられたり吸われたりされたら、苦しいだけじゃない別の感覚が込み上がってきた。
押し返そうとしていた俺の腕は、いつの間にかすがるように先輩の胸元の服を掴んでいた。
196
お気に入りに追加
3,781
あなたにおすすめの小説
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

最強様が溺愛したのは軟派で最弱な俺でした
7瀬
BL
『白蘭高校』
不良ばかりが集まるその高校は、学校同士の喧嘩なんて日常茶飯事。校内には『力』による絶対的な上下関係があり、弱い者は強い者に自らの意思で付き従う。
そんな喧嘩の能力だけが人を測る基準となる世界に、転校生がやってきた。緩い笑顔・緩い態度。ついでに軽い拳。白蘭高校において『底辺』でしかない筈の瑠夏は、何故か『最強』に気に入られてしまい………!?
「瑠夏、大人しくしてろ」
「嫌だ!!女の子と遊びたい!こんなむさ苦しいとこ居たくない!」
「………今千早が唐揚げ揚げてる」
「唐揚げ!?わーい!」
「「「単純………」」」」
溺愛系最強リーダー×軟派系最弱転校生の甘々(?)学園物語開幕!
※受けが割とクズな女好きです。
※不良高校の話なので、喧嘩や出血の描写があります。
※誤字脱字が多く申し訳ないです!ご指摘いただけるととても助かります!
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる