この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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14.生徒会長と珈琲

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 夜に何度か白伊先輩からラインが来た。
 ホントにどうでも良い、くだらない内容のラインだったけど、いやきっと、だからこそより嬉しかった。
 なんかくだらない事をラインで報告し合うってすごく友達っぽい。
 先輩の真似をして無料のスタンプを取り、意味不明なスタンプを送り合ったりもした。
 そんなくだらなくも楽しい時間を過ごしたから、寝る時間は少し遅くなった。

 * * *

 あくびをしながら登校する。
 ほんの少し睡眠時間が短くなっただけなのにやたら眠い。
 常日頃から規則正しい生活をしていると少しずれただけで体に響くようだ。
 とは言え授業中寝るわけにもいかない。
 この時期は授業で「ここテストにでるぞー」なんてサラッと言ってくる教師がいそうだからだ。
 聞き逃しても教えてくれる友達が居ない俺は聞き逃すわけにはいかないのである。

 と言うわけで俺は初めて食堂へ向かった。
 もちろん食堂でご飯を食べるなんて迷惑行為をするわけではなく、自販機が目的である。
 効くかどうかは分からないが、気休めでもいいから珈琲を飲んでおこう。効いてくれカフェイン。
 食堂へ一歩踏み入れると、朝から賑わう食堂が僅かに静まった気がした。

 朝から俺みたいなのが来てすみませんねー、と早足で自販機へ向かい、さてどれを買おうかと悩む。思った以上に自販機が多い。
 かと言ってあまり時間をかけたら迷惑になるので、とりあえず手近の自販機で買うかと財布から小銭を出していたら、すぐ隣でピッとスマホを自販機にかざして購入する生徒がいた。
 眠気覚ましに! と手書きのPOPが貼られた缶珈琲を買っていて、なるほど真似しようと少し離れて見てたら、その缶珈琲を差し出された。

「……ん?」

「受け取りなさい」

「え、なんで……、あっ、兎月先輩!」

 あまり人と目を合わせないようにしてたから顔を見てなかったが、缶珈琲を差し出すのは兎月生徒会長だった。
 けどなぜ生徒会長が缶珈琲を俺にくれようとしているのだろうか。
 そんな疑問が残って差し出された物を受け取れずにいたが、生徒会長も俺が受け取るまで動く気がないようで、とりあえず受け取った。

「そんな眠たそうな顔では授業に身が入らないでしょう」

「……っ」

 そして不意に頬と目元に触れられる。
 その手は頭を撫でられた時と同じように優しくて、ついときめいてしまう。しかしそれは俺じゃなくて女子にしてあげてくれって思う。もしくは夢野。
 俺には刺激が強すぎるから。あと周りの視線が怖いから。

「ありがとうございます……」

 俺が礼を言うと、生徒会長はそのまま去ってしまった。
 そう言えば今更だけど、最近図書室の準備室に行けてない事を謝罪するべきだっただろうか。
 いやでも、使って良いとは言われたが来いと言われた訳じゃない。なのにいちいち謝罪なんておかしいだろうか。
 そもそも生徒会長だってべつに俺を待ってるわけじゃないだろうに、そこで謝ったらなんだか自意識過剰に思われる気もする。
 でもいつか俺も生徒会へ差し入れを持って、あの時はありがとうございましたって言おうかな。
 だってあの時は嬉しかったから。
 謝罪じゃなくて感謝の言葉を送ろう。
 生徒会長から渡された缶珈琲は砂糖控えめでちょっと苦かったけど、不思議と優しい味がした。
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