この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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13.友達付き合い?

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 ぶつかってしまった唇が熱い。
 この後の対応なんて分かるはずもない俺は固まってしまって、そんな俺の下唇を先輩の唇が食むもんだからビクリと体が揺れる。

「んん……っ!」

 離れようとするのに後頭部を押さえる先輩の手の力が緩まず、むしろ更に強く押し付けられてしまった。
 この大惨事をどうすれば良い? だってこんなの、キスしてるみたいになってるじゃないか。
 先輩の手の力が弱まり、やっと離れられたと思ったら角度を変えてまたぶつかる。
 どれだけそうしていたかは分からないが俺にはとても長い時間に感じた頃に、先輩の唇が音もなく離れていった。

「………お前が悪い……」

「……へ?」

 見つめ合う形になり気まずさで何も言えない俺に、先輩が不機嫌な声で言う。
 え、俺が悪いの?
 俺の何が駄目だったのかを聞こうとしたが、その前に先輩は焼きそばパンとコーラを押し付けてきた。

「……ありがとうございます」

 お腹が空いていたのでありがたく受け取るが、元はと言えば先輩が俺のパンを食べちゃったのが悪いんだからな。
 そしてコーラはいらない。
 ……じゃなくて、さっきの大惨事は何だったんだ。
 焦る俺に反して、先輩は何事も無かったかのように惣菜パンを食べながらスマホでゲームを始めてしまった。
 だから俺も焼きそばパンを食べながら先輩のゲームを隣で見ることにした。
 だってゲームしてる時に邪魔されたら嫌だろうし。
 ゲームが済んだ先輩はまた俺にコーラを飲ませようとしてちょっとした攻防戦があり、その後はテレビの話題とか他愛ない話をして休み時間は終わってしまった。
 先輩があまりにも普通にしてるからなんだか先程の大惨事を蒸し返すのもどうかと思って、結局聞けずじまいだ。

「……ラインぐらいいくらでも送ってやる」

 去り際、目を合さず言われた言葉に後になってじわじわと嬉しさがこみ上げた。
 意味の分からない行動もあるが、何だかんだやっぱり優しいと思う。

 * * *

 その後の授業はいつもの如く隣に誰も座られず、ポツリと隅の席で講義を聞く。
 もうみんな自分の座る席が決まっているみたいで、今後も隣に誰かが座ってくれる事はないのだろう。
 授業が終われば即寮へ。
 上着だけ脱いでベッドへ寝っ転がり、さて現実逃避を止めてあの大惨事を考えなくては。

 あれは、まぁ、どう考えてもキスだ。
 しかしなぜ?
 普通、友人同士でするものじゃないと思うのだけど、俺の認識が間違っているのだろうか。
 だって、あの後の先輩は本当に何事も無かったみたいにゲームしてたし、その後も普通に俺と話してた。
 俺の常識とこの世界の常識は違うのだろうか。
 なんせここはBLゲームの世界だ。俺が考えるより同性との距離が近いのかもしれない。

 誰かに相談出来れば良いのだけど、残念ながらそんな友人は居ない。ましてや親になんてこんな話が出来るはずもない。テレビで突然ラブシーンが始まったとき並に気まずくなる予感がする。

 ……やはり先輩に直接聞くべきなのかな?
 だけど、それは正解なのだろうか。友人としてそんな事をいちいち気にするのは間違っている?
 分からない、この世界での友達付き合いが。
 何より、先輩との友人関係を壊したくない。やっと出来た、隣を許してもらえる存在を失うのが怖いのだ。
 黙っていよう。気にしないでいよう。
 先輩だって気にしてなさそうだったから、俺もそれに倣えば良いのだ。
 それに先輩だって本当に俺が嫌う事はしない……いやされたな。コーラ飲まされたわ。

 まぁ良い。もうすぐ試験だし、とりあえず今は勉強をしておこう。
 再び現実逃避した俺だったが、考えた所で答えは出ないように思えたから、一時保留とした。
 あくまで保留である。
 いつか先輩の他にも友人が出来たなら、自然と分かる事だろう。
 そんな日が来るかは分からないが、そんな日が来る事を望んで、俺は勉強机へと向かった。
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