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12.接触事故
しおりを挟むさて、猫野と連絡先を交換して数日経った。
連絡は、無い。
良いよ別に期待してなかったし……嘘ですめちゃくちゃ期待してました。
ただ、翌日申し訳なさそうにあの後スマホが壊れてしまったのだと言われたらどうしようもなかった。
だったらまた新しいスマホを買った頃にコチラから訊けば良いのだけど、もしスマホが壊れたのが嘘だったら? 俺とラインするのが面倒になった事からの言い訳だったら?
猫野はそんな人間じゃないのは分かっているけれど、どうしても被害妄想が止められなくて、俺は新たに連絡先を交換出来ずにいた。
「何見てんだよ」
「白伊先輩……」
階段の踊り場でパンを食べながら鳴らないスマホを虚しく見ていたら、ヤンキーの白伊先輩がどかりと隣に座った。
そのままパンを持っていた手を掴まれて、俺の手からパンを食べられた。代わりの物をよこせ。コーラはいらないぞ。
「……ンで? 誰とラインしてんだ」
「してませんよ」
「ライン見てたじゃねぇか」
「見てただけです」
本当の事を言ったのに怪訝な顔をされた。まぁ、ぼーっと意味もなくスマホの画面を見ていたら怪訝な顔にもなるか。
「まぁ良いけどよ……それじゃ俺にもライン教えろ」
「えっ!?」
「何だよ、嫌なのか」
「いえっ、嫌じゃ無いです……!」
「じゃあいちいち驚くな。おら教えろ」
「はい!」
夢野に教えられた通り交換用のQRコードを開き、スムーズに出せた事にちょっとドヤ顔になる。予習って大事だな。
しかし白伊先輩はそんな俺の誇らしげな顔にも気づかずさっさと自分のスマホで画面を読み取っていた。
ちょっとぐらい褒めてくれたっていいじゃないか……いや褒められるような事でもないんだけど。
勝手にいじけていたら「何だその不満そうな顔は」と怒られた。
とりあえずまたラインに名前が増えたのだ。嬉しい事だけど、また来ない連絡を待つのは嫌だなって思っていたら、ピロンと着信音が鳴って肩が跳ねた。
「お前驚きすぎだろ」
隣で笑われて恥ずかしいが、過剰反応した自覚はあるから何も言えない。
くそう誰だよこんなタイミングで連絡してくるのはって思ったら、先輩だった。
目つきの悪いウサギが中指立ててるスタンプだ。
「………」
可愛いのか可愛くないのかよく分からないウサギが、画面越しに俺を睨んでいる。
「……ぷっ、フフ」
これを先輩が送ったのかと思うとおかしくて面白くて、でもそれとは違う他の感情が笑いを誘うのだ。
「あははっ……変なスタンプ……」
「そうか? 無料のヤツで似たようなのたくさんあんだろ」
「そうなんですか? でもこれ……ふふ、先輩にちょっと似てる……」
「喧嘩売ってんのか」
いつまでも笑いが治まらない俺を先輩が睨んできたが、それでも止められない。
そんな俺が不満だったのか先輩が更にラインを送ってきた。
『笑うなバーカ』
『このスタンプがそんなにおかしいか』
2通続けて送られてきた言葉にまた笑いがこみ上げる。「笑いすぎだろ!」とまた隣で怒られたが、だってこんなの笑わずにいられない。
だって、だって……
『先輩からのラインが嬉しくて笑っちゃうんです』
友人からのライン、これをどれほど俺が待ちわびていたか先輩には分かるまい。
だから、嬉しくて嬉しくて笑ってしまうのはどうか許してほしいのだ。
そんな思いを込めて送ったメッセージ。ちょっとは分かってもらえただろうかとスマホの画面から先輩へ視線を移すと、見たことのない顔した先輩が俺を見ていた。
「先輩?」
ずいぶん近くに顔があるな、とか、ずいぶん体が密着してるな、とか色々気づいちゃって気になるけど、そんな事より何で先輩はそんな顔をして俺を見ているんだろう。
熱を持ったような瞳に捕らえられて、俺はそらすことが出来ない。
どうしたの? 何がしたいの? と問う前に先輩の顔が近づいてきて、これ以上近づいたらぶつかってしまうと頭を引こうとした。けれどいつの間にか後頭部を大きな手のひらで押さえられていて、とうとう俺と先輩はぶつかってしまった。
「~~~っ!?」
唇と唇が、接触事故を起こしてしまったのだ。
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