この世界で姫と呼ばれている事を俺はまだ知らない

キトー

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9.白伊先輩とコーラ

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 次の日も来た。ヤンキーの白伊先輩が。

「よぉ」

「ども……」

 いつものように階段の踊り場でおにぎりを食べようとしていたらポケットに手を突っ込んだままの先輩が登ってきた。
 先輩の姿を見て、喜んでいる自分がいた。
 だって、本当に来てくれた。
 正直期待していなかったし、きっとまたすぐに距離を置かれるのだろうと思っていたから。

「お前メシそれだけか?」

「はい」

「そんなんで足りるのか」

「まぁ……」

 足りない。食べざかりの男子高校生には足りません。
 しかし売店で全部済ませようとすると割と高くつく。
 本当は食堂の方がタダ同然なほど安いし量もあるのだけど、俺が行くと食堂の和気あいあいとしていた雰囲気が悪くなるから行けずにいるのだ。

「……おら」

「はい?」

 突然目の前に差し出されたペットボトルを反射的に掴む。
「ちったぁ腹ふくれるだろ。やるから飲め」

「え、でも……」

「うるせぇ飲め」

 どうやら奢ってくれるらしい。
 乱暴な言葉で優しい事をしてくれる先輩が嬉しかった。
 だがしかし……

「……すみません俺炭酸苦手なんです」

「………」

 二人でコーラを見つめながら沈黙が訪れた。
 き、気まずい。

「……せ、先輩……ホントすみませ──」

「──うっせぇ飲めっ!」

「うぐぅ……っ!」

 やっぱヤンキーだこの人!
 無理やりペットボトルを口に突っ込まれたもんだから、甘くてよく冷えた液体が口腔内に流れ込んでくる。
 味は嫌いじゃないんだ味は。問題は喉を刺激する炭酸である。

「うぅ……」

「吐き出すなよ? ほら頑張って飲み込め」

 隣でニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる先輩が憎い。明らかに面白がってるじゃないか。
 やっぱり全然優しくない。この野郎。
 かと言って吐き出すわけにもいかず、手で口を押さえて何とか少しずつ飲み込む。
 コクリコクリと喉を鳴らして炭酸の刺激にちょっと涙目になりながら俺はやりとげた。
 良かった吐き出さなくて。

 どうだ! と先輩を見上げれば、思った以上に近くに先輩の顔があり驚いた。
 しかし、先輩の顔がなんか変だ。あの意地悪い笑みも消えて俺の顔を凝視していて、ゴクリ……っと先輩の喉が鳴る。
 あ、先輩も喉渇いてんのかな?

「……白伊先輩?」

「………あ?」

 先輩の視線が、ゆっくり移動して俺の視線と絡む。
 絡んで、顔をそらされた。
 それ傷つくから止めてくれないかな。

「………あー……、上手に飲めたじゃねえか」

「先輩は思ったよりいじわるですね」

「……あんま可愛い事言うな」

「は?」

「何でもねえよ」

 よく分からない事を言いながらチョコレートを渡された。
 謝罪のつもりかな?
 本当は物ではなく言葉で言わないといけないんだぞと思ったが、チョコレートは好きなのでもらっておく。
 これで一応仲直り……あ、ちょっと友達っぽい。
 そう思うと胸がポカポカしてくる。なんだか青春してるって感じだ。
 不器用だけど、先輩は優しいと思う。
 無理やり飲ませられたけど、コーラをくれたのも優しさからだ。

「なぁ、もっかい飲んでみろよ」

「絶対いやです」

 優しい……いややっぱりいじわるだ。
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