上 下
15 / 22

15.面倒くさい事になった

しおりを挟む
 
「秋ー、今日ってバイトか?」

「あぁ、何か用事あった?」

 講義を終え教材をバッグにしまう秋に、ゲーム友達の飛鳥が話しかける。

「今日飲みに行けねーかと思ってよ。何人か誘ってんだけど秋もバイト後に来るか? どうせ二次会三次会までしてるしな」

「悪いな、今日はまっすぐ帰らないといけないからまた誘ってくれ」

 予定に無い誘いは断る。今朝の占いを意識している訳では無いが行けばまた夏がめんどくさそうなので、秋はやんわり断った。

「お前バイトの後に行くのが面倒くさいだけだろ」

「……んな事ねぇよ」

 実のところの一番の本音を見抜かれ、秋は視線を泳がせて席を立った。
 のらりくらりと誤魔化しながら飛鳥と別れ、さてまだ早いがバイト先に向かうかと考えている秋に、背後からキラキラとした声がかかる。

「秋さーん!」

 自分の名をこんなキラキラとした声で呼ぶ人物は一人しか居ない。

「夏、どうした? 俺は今からバイト行くけど」

「どうしてもお渡ししたい物がありまして」

 秋に駆け寄った夏は持っていた小さな紙袋をゴソゴソと探り、取り出した物を俺の手首に付けた。
 付けられたのはシンプルなブレスレットだった。
 黒の革紐が二重になっているそれは、日頃アクセサリーなどつけない秋でも抵抗が無いほど腕に馴染む。
 ただ気になるのは、金具の部分に印字された見た事のある有名ブランドのロゴマークだ。

「……これいくらしたんだ?」

「ペアで五万ほどです」

「返品してこいっ!!」

 腕にしっかり色違いのブレスレットを付けた夏が得意げに言うが、秋は頭をかかえる。

「お前な、五万稼ぐのにどれだけバイトしないといけないのか分かってるのか。いちいち占いごときに散財してたら破綻するだろ」

「俺のポケットマネーはこの程度では少しも痛みません。それに俺は占いで言っていたから買った訳ではありません。秋さんとお揃いの何かを身に着けたいと前々から思ったていたので買ったのです。占いはきっかけにすぎません」

「言い訳が長い!」

 秋が叱っても夏は嬉しそうにお互いのブレスレットを見比べて引く気は無いようだ。

「いいか夏。お互いが使う物は二人でお金を出し合う。これを今後の決まりにするぞ」

「秋さんに負担をかけさせる訳にはいきません」

「でも二人で使う物だろ? 二人で使う物は二人で負担、これは恋人同士として当然の事だ」

「っ! なるほど! 恋人同士として当然の事ですねっ!」

 目を輝かせ納得した夏に、秋は胸をなでおろす。
 自分と金銭感覚の違う夏にこれで少しはブレーキがかかるだろう。

「じゃあ俺はバイト行くから」

「送ります」

「いらん! 家で美味い飯でも作っててくれよ」

「秋さんがそうおっしゃるのなら……」

 ついて来そうになる夏を止めて、秋は今度こそバイト先に向かう。
 早めに行けば店長からまかないを食べさせてもらえるのだ。
 バスに乗っている間も今日のまかないに思いを馳せるていたが、目的地で降りた秋のテンションはだだ下がりする。

「よーう、狂犬の飼い主さん」

「……」

 たっくんこと不良グループの頭、龍也。愉快な仲間たちも引き連れて何故か秋を出迎えた。
 今まで自分に直接絡んできた事は無いのに、なぜ今更になって接触して来たのだろう。
 理由は知らないが面倒くさい予感しかしない秋は、冷めた目を龍也に送った。

「夏は居ないぞ」

「あぁ知ってるさ。俺たちはアンタに用があって来たんだからな」

 にやにや笑う男たちは、付いて来いとアゴで指示する。
 拒否したいが、したらしたでまた面倒くさそうだと、秋はため息を吐きながら仕方無しに男たちの後を付いて行った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

告白ゲーム

茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった 他サイトにも公開しています

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

記憶喪失の君と…

R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。 ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。 順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…! ハッピーエンド保証

処理中です...