記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー

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14.どさくさに紛れて

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「そろそろ行くか」

 珈琲も飲み終え秋達は家を出る支度をする。
 バッグを持つと目の前に上着を構えた夏が居たのでそのまま着せてもらう。そして秋も夏に上着を手渡した。

「今日バイトで遅くなるから」

 本日の予定を伝えると、夏は冷蔵庫内のチェックをしながら返事をした。

「分かりました。夕食を作ったら店の裏口でお待ちしてます」

「だから迎えはいらねえって!」

「いいえ! コレは彼氏としての義務であり特権でもあるんです!」

 冷蔵庫を閉めて勢いよく振り向いた夏が、真剣な顔で秋に詰め寄る。

「特権って何だよ……」

 そんな夏を呆れ顔で見上げるが、これ以上言ったところで意見は変えないだろうと考えて秋が折れた。

「まぁいいか……」

 お前の好きにしたら良いよと思いを込めて夏の肩を叩き、玄関に向かった。

「秋さん……」

「ん?」

 靴を履こうとした時にまた名を呼ばれたので振り返れば、またもや真剣な顔をした夏と目が合った。
 しかし、先程とは違いどこか迷いがあるような、そんな印象を受けて思わず体ごと夏と向き合う。

「俺の事好きですか?」

「は?」

 呼ばれて向き合って、夏の言葉を待って、夏の口から出てきた言葉が唐突すぎて秋は目を見開いた。

「……どうしたんだよ急に」

「いえ……」

 ゆっくり、夏が体を寄せた。
 抱きしめるでもなく秋の肩に顔を埋めるだけの夏は、やはりどこか弱々しい。

「ただ、秋さんの言葉が欲しいだけです」

「……夏」

「はい」

 秋は、そんな夏の手をそっと握った。

「どさくさに紛れて腕にナイフ忍ばせようとすんな」

「……しかし」

「あとお前の腕からも取っとけよそんな物騒なもん。ほら、アホな事してないで行くぞ」

 軽く夏の頭をはたいて今度こそ靴を履く。
 後ろから落ち込む夏の気配を感じて、秋は迷いながらもボソリと呟いた。

「……迎えはともかく、飯はいつもありがとな……」

「そう言う所も好きです秋さん!!」

「だから言わんで良いっての! あといきなり抱きつくな!」

 背後から大型犬彼氏に抱きつかれ倒れないように踏ん張り、秋ははにかむ男の髪をワシワシと乱した。
 自分の恋人だと言い張る男が何を悩んでいるのかは知らないが、少々面倒くさいこの男を可愛いと思うほどには自分は絆されているようだ。
 そして、そんな状況もまあ悪くないなと秋は思うのだった。
 
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