記憶喪失のふりをしたら後輩が恋人を名乗り出た

キトー

文字の大きさ
上 下
9 / 22

9.世界最強の生き物

しおりを挟む

   ◆◆◆

 いまだ火の手がおさまらぬ王城の門前にて、兵士達が整列していた。
 全員が銃を持ち、パワーアーマーを着ている。
 先ほどまで戦っていたかのような風貌であり、実際その通りであった。
 いまだ銃身が熱を帯びていると錯覚するほどに、兵士達の心はまだ火照っている。
 その熱を帯びた視線は、前方に歩み現れたある一人の男に注がれ始めた。
 その男は普通の風貌では無かった。
 明らかに量産型とは違う、漆黒のパワーアーマーに男は身を包んでいた。
 細かな装飾が多く、高級感すら感じられる。
 しかし背中に背負った巨大な銃剣がその高級感を打ち消し、黒い威圧感だけを残している。
 何者なのか、それを答えるように、兵士の一人が声を上げた。

「ガタノトーア元帥様に敬礼!」

 その声が響いた直後、整列している全兵士が一挙一動そろえて敬礼の姿勢を取った。
 そんな兵士達の前に立ったガタノトーアは大きく声を響かせた。

「諸君、ご苦労であった! 諸君らはいま、歴史の転換点に立っている! ここが新たな始まりの場であり、それを成しえたのは諸君ら一人一人の奮戦によるものである! ゆえに私は誇りに思う!」

 言いながら、ガタノトーアは近くにある壁に視線を誘導するように手で示した。
 その壁には、十名ほどの人間が並び立たされていた。
 全員が縄で拘束されている。
 麻の袋を頭からかぶせられているため顔はわからない。服装から性別だけは判別できる。
 ガタノトーアはその者達を手で示したまま、再び声を上げた。

「その誇りと共に、最後の仕事をかつての英雄の末裔(まつえい)である、アーサーに任せたいと思う!」

 その声と共に、『かつての英雄の末裔』と称された者が前に歩み出た。
 その者もガタノトーアと同じく、量産型とは違うパワーアーマーに身を包んでいた。
 ガタノトーアとは対照的な銀色の装甲。中世の騎士を思わせる形状をしている。
 兜は着けておらず、端正な顔立ちがあらわになっていた。
 その顔は、既に知る誰かに似ていた。性別が違うが、たしかに似ていた。
 アーサーは壁の前に立ち、拘束されている者達に向かってライフルを構えた。
 そしてアーサーは引き金に指をかけながら思った。

(この場にクラリスがいなくて良かった)と。

 こんな姿を妹に晒すことにならなくて本当に良かったと、己をなぐさめながらアーサーは引き金を引いた。 
 
   第八話 ちっちゃいはかわいい。かわいいは正義。ゆえにちっちゃいは正義 に続く
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

まさか「好き」とは思うまい

和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり…… 態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語 *2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

処理中です...