11 / 11
11.キミの隣で
しおりを挟むシャルノと結ばれて数ヶ月。
今日もおはようのキスで目を覚ます。
「おはようディナール。ご飯出来てるよ」
「あぁ……おはよう」
朝から女神のごとく優しく美しい微笑みを拝み、今日も良い日だと確信する。
「今日はディナールも仕事休みだよね? 買い物一緒に行く?」
「そうだな。せっかくだから日持ちする物を買いだめしておこう。今日の夜は何が食べたい?」
「んー、魚かな」
シャルノが作った出来立ての朝ごはんを共に食べながら、休日の過ごし方を相談し合う。
用事は出来るだけ早く済ませてしまいたい。せっかく休日がかぶったのだ。イチャイチャしたいじゃないか。
なので、ご飯を食べ終えたら早速二人で家を出た。
パン屋に行って、卵も買って、日持ちのする野菜は多めに買い込む。
さてあとはご希望の魚を買おうと魚屋で吟味していた時だ。
「シャルノ! やっと見つけたぞっ!」
俺の背後で、聞きたくもない声が聞こえてきた。
「エドワード様……?」
驚いた顔のシャルノが、声の主の名を呼ぶ。
エドワード殿下。シャルノの元婚約者。頭の弱いクズ王子。
「まったく、どれだけ私に手間をかけさせるつもりだ……」
怒ったような様子でシャルノに近づくクズ王子に、俺は殴り倒してやろうかと拳を握ったが、シャルノが俺に大丈夫だと目配せする。
俺は握っていた拳をグッと我慢して、すぐに駆け寄れる距離で様子を見た。
「わざわざ探してやったんだぞ。さっさと戻ってこい」
「戻るって……どこへです?」
「お前は……どんくさいのは変わらないな。城に決まってるだろ。あまり手間をかけさせるんじゃない! 私は今とても大変なんだ!」
「そうですか……私は今とても幸せです」
「へぁ……?」
クズ王子の間抜けな声に、俺は吹き出しそうになる。
そして、今度こそシャルノに近づき、そっと肩を引き寄せた。
二人で見つめ合えば、シャルノは幸せそうに微笑む。
「彼と出会えて私はとても幸せなのです。ですからエドワード殿下の幸せも、私は心より願っております」
「は? し、シャルノ……!? 待て! その男は何だ!? シャルノっ!」
当然のように自分の手を取ると思っていたのだろう。
クズ王子はシャルノが他の者に微笑んだ事も、自分を無視して背を向け歩き出してしまった事も信じられないようだった。
「ま、待てと言っているだろ! 貴様! 不敬で処されたいのかっ!」
クズ王子の言葉にピクリと肩を揺らしたシャルノだったが、今度は俺が大丈夫だと目配せすれば、シャルノは安心したようにまた歩き出す。
「シャルノっ!!」
一国の王子が癇癪を起こしても誰も助ける者はおらず、皆そそくさと避けて通るのだった。
「ディナールのこと分からなかったみたいだね」
クズ王子の姿が見えなくなると、シャルノが面白そうに言った。
俺はシャルノの肩を抱いたまま、あの日の事を思い出す。
「そうだろな……俺、あの後バカ王子の金玉潰してすぐ学園を辞めたから」
「……今なんて?」
「王子の金玉潰して学園辞めた」
シャルノが、歩きながら口をポカンと開ける。
「えー……っと、詳しくお願い」
動揺を隠せず、シャルノは目を白黒させながら俺に問う。
あまり思い出したくもない出来事であるが、このままではシャルノも不安だろう。
そう思い、俺はあの忌々しい日を語った。
「シャルノを婚約破棄した後さ、あのバカ俺を城に呼びやがった。だから強い酒で酔わせて金玉潰して不能にしてやったんだよ」
成長期前の俺は発情猿王子のお眼鏡に叶ったらしい。まぁ、だからハニートラップをしかけたわけだが。
「その後は『王子が酔って庭の番犬に抱きついてあそこを噛まれた!』って大袈裟に騒いどいた」
バカを庭に転がして股間にソーセージを乗せてやれば番犬は喜んで噛んだ。王子もバカなら番犬もバカだ。
「今じゃ社交界では王子はバカ過ぎて関わると自分までバカ扱いされるって敬遠されてるんだ」
「たったそれだけで?」
「あー……他にも有る事無い事……いやほとんどホントにあった事だけど、あいつのバカみたいな噂を広めたかな……それこそ陛下が見捨てるほどのヤツ」
だから街であれほど騒いでも誰も王子を助けないのだ。
「でも、どうやって!? あれからすぐディナールは学園を辞めたんでしょう?」
信じられないような話にシャルノは動揺したまま更に尋ねてきた。
俺は話を続けたが、本当はこの話、隠しておきたかったんだけどな。
「学園時代にシャルノに助けられたのは俺だけじゃないからな。だからけっこういろんな奴がシャルノを助けようとしたんだ。そいつらがここぞとばかりに噂を広めたらしい……実はシャルノに最初に贈った資金さ、そんな奴らから募ったものなんだ」
「えぇ!?」
「で、でも家は俺が用意した物だからな!!」
「それはありがとう、感謝してる……でもどうしよ! 私、彼らにお礼も言えていない!」
「お礼なんていらねぇよ。シャルノが今幸せならあいつら満足だと思うぞ」
「そ、そうかな……」
ほら、やっぱり気にし出した。きっとシャルノの事だから、なんとか礼をしようとすると思ったんだ。
どうお礼をしようかとうんうん頭をひねるシャルノに、俺は話題を変えようと話しかけた。
「シャルノの家も潰そうか?」
「へ?」
突然出た実家の話に、シャルノは頭をひねるのを止め俺を見る。
「あの家族もシャルノを捨てただろ。悔しくねぇのか?」
「……それは、そうだね……でも、うん……私は大丈夫」
「良いのか?」
シャルノの気を紛らすための話題だったが、俺は本気であの家を潰そうかと思っている。あの家の黒い噂は掴んでいるのだ。シャルノを蔑ろにした事を後悔すれば良い。
だが、シャルノはそんな俺のどろどろとした思いからは程遠い、綺麗な微笑みを浮かべた。
「うん、だって、私は今幸せだから」
シャルノのあまりにも綺麗な微笑みにしばし見惚れ、俺も自然と微笑んでいた。
「…………そうか……」
シャルノがそう言うのなら、あの家の跡取りは性病を持っていると噂を広げるだけにしておこう。
そう心の中で決めて、幸せそうに笑うシャルノに口づけた。
『幸せだから──』愛する人から、そう隣で言ってもらえる俺は世界一の幸せ者だろう。
だからこれからも、シャルノが胸を張って幸せだと言える、そんな世界を今度こそ俺が守るから。
【end】
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
198
お気に入りに追加
1,363
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。
うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!!
高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。
ムーン様にも投稿してます。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした
水瀬かずか
BL
仕事をクビになった。住んでいるところも追い出された。そしたら恋人に捨てられた。最後のお給料も全部奪われた。「役立たず」と蹴られて。
好きって言ってくれたのに。かわいいって言ってくれたのに。やっぱり、僕は駄目な子なんだ。
行き場をなくした僕を見つけてくれたのは、優しい騎士様だった。
強面騎士×不憫美青年
【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。
白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。
僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。
けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。
どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。
「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」
神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。
これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。
本編は三人称です。
R−18に該当するページには※を付けます。
毎日20時更新
登場人物
ラファエル・ローデン
金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。
ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。
首筋で脈を取るのがクセ。
アルフレッド
茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。
剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。
神様
ガラが悪い大男。
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話
紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。
理想の彼氏はスパダリよ!
スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。
受:安田陽向
天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。
社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。
社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。
ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。
攻:長船政景
35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。
いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。
妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。
サブキャラ
長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。
抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。
兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。
高田寿也:28歳、美咲の彼氏。
そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。
義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
soa様コメントありがとうございます!
数ある婚約破棄断罪ものの中から選んでいただき、新鮮と思ってもらえるのはとても光栄です🙏✨
そして末永く幸せに暮らしたんだな…と余韻を感じてもらえるなんて💕
素敵なコメントをありがとうございます!(^^)
これからも幸せな物語が書けるように頑張りますね✨
くっそ!
もっと続きが見たいぜ!!!!、!、!、
ニノな様嬉しいお言葉ありがとうございます~💕
続きが読みたいと思ってもらえるのは作者としてすっごく光栄です……😭
もし次の展開が思いついたら書かせていただきますね!
嬉しすぎるコメントありがとうございました!
皆の血液様はじめまして!
けっこう前に完結した作品ですがお目に留めて頂けて物凄く有り難いです…!
そして話の展開に驚いてもらえたのも作者として嬉しいです〜♡
ずっと書きたいと思っていた話なのですがそのように言ってもらえたら書いてよかったと思えます💕
もちろん二人は末永く幸せになってますよ!
しかしDV男は駄目ですよね。その後は路頭に迷えば良いと思います笑
王子のその後🤣
おバカなのでまた懲りずにおバカをやらかして国からも見放されそうですね!
展開が思いついたら書いちゃおうかな……✨
面白いとのお言葉にもうかなり浮かれております!
また面白いと思ってもらえるような作品が書けるよう頑張りますね✨
嬉しいコメントありがとうございました!