最弱伝説俺

第三章 三大イベント

8

――ツライ。こんな時、家にいればあいつが慰めてくれるのに。

　衝撃の発表から二時間、葵は現実逃避をしていた。
　思い出すのは、厳しい兄たちからの稽古のたび頭を撫でてくれた一人の男。彼は小日向家の門下生であり、将来の勉強として葵の世話係を請け負ってくれていた。年齢は知らないものの、まだ大学生くらいだったはずだ。
　大学を卒業したら小日向道場で働くと言っていたので、葵にめっぽう優しい彼が正式に来てくれる日を心待ちにした。それなのに、何故今自分は彼と離れてこんな辺鄙な所にいるのか。

――なんで代表者が危ない連中ばっかなんだ。その中に最弱な俺が放り込まれたら一分でパシリの完成では？

　葵は激しく貧乏ゆすりをした。隣の席の生徒の血圧が百五十を超えた。

「かか、快君……」

　現在、この学校で頼れるのは実質快しかいない。山田は不良じゃない。山上は不良だが、こんな自分を慕うくらいだから恐らく強くない。広田はある意味怖いが不良じゃない。そして西谷には絶対頼りたくなかった。

　快なら葵に甘い方であるので、殴ってくるかもしれないが助けてくれるだろう。殴ってくるかもしれないが。

　そして迎えた放課後、葵は三徹の形相で代表者会議へと向かった。何故か担任も付いてきた。聞いていないのに、「俺は球技大会担当なの。メンドイよな」とか言っていた。

「失礼します」

　律儀な葵は一言添えて会議室に入った。担任は無言で入った。
　会議が始まるのにはまだ十五分早く、室内にいたのは二人だけだった。

「こんにちは。席は自由なので好きなところに座ってください。これ資料ね。谷先生はこちらに」
「はい」

　実行委員か何かだろう。二人の内眼鏡の男に資料を渡された。ちらりと担任―谷―を見遣る。

「谷って言うんだ」
「お前、担任の名前知らなかったのかよ！」
「すみませんッ」

　聞こえていたらしい。適当に謝ってなるべく後ろの席に逃げた。

「はは、小日向葵君は面白いね」

　資料を渡してきた生徒がそう笑った。何故名前を知っているのかと思ったが、代表者の名前が印刷された資料を見て納得がいった。フルネームで呼ばないでほしいと思った。