最弱伝説俺

第二章 噂が広まるのは早いもので

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「お兄ちゃんいるんだ」
「うん、三人」
「三人！？」
「うん、四兄弟で全員男。むさ苦しいでしょ」

　通常の四兄弟でもむさ苦しいだろうが、葵の兄三人は余計にむさ苦しい。三人の筋肉量を足すと、一般男性の十人分くらいありそうだ。

「僕は妹がいる」
「へぇ、どんな感じ？」
「見下されてる感じ」
「へぇ……それはそれは」

　妹に罵倒される姿を想像して、兄に日々投げ飛ばされる自分とどちらが嫌か比べてしまった。各家庭、それなりに我慢しなければならないことがあるらしい。
　部屋のリビングでひとしきり家族の話題で盛り上がり、山田との距離が大分近くなった気がする。純粋に友人と呼べるのが山田だけなので、これは実に嬉しいことだ。妹から言われた科白の数々を聞いた時は寒気がしたけれど。





「ジュース……」

　風呂上り、ジュースが飲みたくなった葵は、一階を目指していた。自販機があるのは食堂と一階の共有場のみ。食堂は閉まっているので、寮の入り口近くにある自販機を目指す。目的の場所に着いたところで、後ろから低い声がした。

「あ～お～い～ちゃぁん～」
「ひぃぃぃッ」

　幽霊か何かかと思ったが、まだ夜中と言うには早いし、何より名前を呼ばれた。恐る恐る振り向くと、幽霊より怖い顔面をした西谷が立っていた。

「出たぁ！」
「うるっせ」

　有無を言わせず、西谷の部屋に連れ込まれた。なんてことはない。共有場の向かいが西谷の部屋だったのだ。入り口から一番近いところだと言っていたのを思い出す。

「殴るな蹴るな。分かったな」
「野生動物じゃないから、そんないきなり殴ったりしないです」

　多分。
　西谷は葵の言葉に微妙な顔で返した。

「さっき二度殴られてる」
「それは食堂でいきなり来られたから」
「やっぱ野生動物じゃねえか」
「うっ……」

　前科があるため、強く出られない。

「埋め合わせするって」
「う……はい」

　何を言われるのだろう。すごく怖い。痛いのは嫌だ。

「……殴らないでください」
「なんで好きな奴殴らないといけないんだよ。俺は一途なんだ」

　そんな情報知らないし、知りたくもなかった。好きな相手に高圧的なのはセーフなのか。一途ならば、ついでに誠実であってほしい。