最弱伝説俺

第二章 噂が広まるのは早いもので

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　一気に脱力した。初対面で結婚を迫ってきた彼が書いたということは、果たし状ではなくラブレターの類だったことになる。今度西谷に会う時は辞書をプレゼントしよう。

「あの、すみません。すっかり忘れてて、思い出したのがついさっきで」
「はぁあ？　忘れてただとぉ？　今日の今日でか！？」
「はい。今日の今日で……」
「鳥かてめぇ」
「人間です」

　早くここから去ってほしい。あれを書いたのが西谷なら、見知らぬ人間からの報復の心配も無い。そんな想いむなしく、西谷は葵の隣の席に座って言った。

「可愛いのは顔だけじゃねぇようだな」
「顔も顔以外も可愛くないです……」

　狂った言動はこの際置いておくとして、とにかく先ほどから圧が強すぎて押し潰されそうで、葵は咄嗟に山田へ視線を送った。助けてもらえるとは思っていない。ただ、状況を共有する仲間が欲しかった。山田は気絶していた。

「やや山田くぅん！！」

　しまった。引きこもりの彼には西谷は刺激が強すぎたらしい。慌てて立ち上がるが、西谷によってまた座らせられた。

「俺がいるのに、俺以外を見るな」
「いや、緊急事態だろ！」
「俺だけが常に最優先事項だ」
「うるっせぇ！」

　バチィィン！！！

　友人の気絶と横からの圧でパニックに陥った葵は、元凶である西谷を今度こそ思い切りひっぱたいた。西谷の体が軽く舞い、椅子から転がり落ちる。辺りがしんと静まり返った。

「いてぇ……」
「はッ……ご、ごめんなさい先輩」
「……やっぱり強いじゃねぇか。ますます気に入ったぜ」

　二度も叩かれたのに笑ってくる西谷が怖い。病気か。

「この埋め合わせは今度するので」
「言ったな」
「ぅわ……はい、どこかで必ず」
「分かった。またな」

　あっけなく帰ってくれた。ほっとした反面、明日以降を思うと不安になる。しかし、言ってしまったのだからどうしようもない。葵は山田を起こして冷め切ったチャーハンを喉に押し込んだ。

「あ～お腹いっぱい」
「僕の所為でご飯冷めちゃったね」
「あれは西谷先輩の顔面が悪い」

　食堂を出たところで、存在感のある集団とすれ違った。思わず目を遣れば、体躯の良い者たち。おそらくスポーツ特待の生徒だろう。集団の中に快がいた。

「あ」
「あ」