最弱伝説俺

第二章 噂が広まるのは早いもので

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　HRが終わり、仕方なく席を立とうとするところへ、担任の声がかかった。

「昨日配ったプリントの通り、今日の掃除当番は一班だからな。ちゃんとやってから帰れよ～」

――一班……。

　そんなこと書いてあっただろうか。昨日の記憶を呼び起こすが、ほとんどの記憶を恐怖と緊張が占めていて全く役に立たなかった。というより、プリントを最後まで読んでいない。しかし、知らなかったとはいえ、掃除をサボるのは他の当番の人間から恨まれてしまう。

　ロッカーから箒を取り出すと、近くの数人が速足で逃げていった。実際にはサボると思われた不良が掃除に参加したため、他の一班の班員から恨まれはしなかったが盛大に怯えられることとなった。

「掃除が終わったら中庭に行こう。忘れないようにしなくちゃ」

　頷きながら黙々と掃除をする。約十五分後、しっかり机と椅子を並べ終えた葵は満足した顔で寮へと帰っていった。





「はッッ」

――待ち合わせ！！

　あんなに忘れないよう頭で反芻していたのに、すっかり忘れて部屋で寛いでいた。時間を確認すると十七時半。がっくりと項垂れる。昔から勉強が苦手だとは思っていたが、こんなところまでとは。

「封筒届けてくれた人大丈夫かな……」

　心配しつつも、顔も名前も覚えていないので謝ることすら出来ない。ということは、封筒を渡した相手も同じだろう。そう願うばかりだ。ただ、葵のことは知られているわけで、明日にも待ち合わせ場所に行かなかった報復が待っているかもしれない。葵は震えた。

「ああああああ」
「ひぃッ」

　錯乱しておかしな声を上げたら、ちょうど自室から出てきた山田がノートを落としてしまった。

「ご、ごめん！　ちょっと見知らぬ人との待ち合わせすっぽかしたの思い出して変な声でちゃった」
「大丈夫なの……？」
「大丈夫では、ないね」

　困ったことになった。いやしかし、名乗りもせず紙切れ一枚だけ寄越してきた怪しい人間だ。こちらが従う必要は無い。多分。そう自分に言い聞かせて、葵はソファから立ち上がった。

「まあいいや、誰かも分からないやつだったから。夜ご飯行こ」
「う、うん……うッ」

　手を繋いだら、山田に呻き声を上げられた。しまった。家族の癖でつい手を繋いでしまった。ぱっと離す。

「ごめん！　家族と間違えちゃった。気持ち悪かった？」
「うううううううん気持ち悪くないです！　こっちこそ変な声上げてごめんなさい！」
「ほんとごめんね」

　部屋で二人謝り合うおかしなことを繰り返し、気付いた時には十八時を過ぎていた。