最弱伝説俺

第二章 噂が広まるのは早いもので

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「うう、べとべと……」

　ハンカチで耳を拭く。何故こんな目に遭わないといけないのだ。快は何をしたのか記憶にないという顔で弁当を頬張っている。早弁したのにもう二つ弁当を買ってきている兄を見て、もっと自分も見習わなければと思う。思うだけだが。

「今度される時は昴君にちゃんと抵抗しろよぉ。いや、葵じゃ勝てないか。ははッ」
「ははッじゃないし……」
「じゃあ、はいこれ」

　反射で手のひらを出すと、鍵が落とされた。葵も持っている、寮の鍵だ。

「それ俺の部屋の鍵ね。スペアキー。落とすなよ」
「くれるの？　分かった」

　大事な物をほいほい渡してしまったいいのかとも考えたが、兄弟なのだから問題ないだろう。三年は一人部屋で、暇だから遊びに来いということらしい。

「クラスじゃ不良だって勘違いされて遊んでくれる友だちあまりいないから、快君いてくれてよかった」
「そん時は筋肉で解決しろ。筋肉があればどうとでもなるぞぉ」
「ならないから」

　快のクラスはスポーツ特待生が集まっているからそうなのかもしれないが、そちらが異常なのであって、同じ原理がこちらで通用するはずもない。その時、ふと思い出した。





『ガタイが良かったし何より俺を負かすくらいだから、スポーツ特待の奴らの誰かだと思ってる』





――西谷先輩が言ってたお面の生徒って、もしかして快君、とか……？

　頭を振る。スポーツ特待生かもしれないが、快以外にも百人近くいる。それに、彼には不良を狙う理由が無い。

――気のせいか。

「ごちそうさま。じゃあ体育館行くか」
「行かないって言ったけど！？」
「じゃあちゅうするか」
「しねぇよ！」

　本気なのか違うのか、快は最後まで笑いながら去っていった。不安の残る兄弟との再会だったが、それでも知り合いがいるのといないのとでは全く違う。しかも、寮にいるのだ。西谷あたりとエンカウントした時は是非活用させてもらおう。

　にやにやする顔面を引き締めながら教室への道を歩いていたら、山田と会った。聞くところによると山田もぼっち飯らしいので、明日の昼食の約束をした。教室内に入る頃には、さらに顔面がゆるゆるになってしまった。