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第二章 噂が広まるのは早いもので
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信じられなくて目を擦る。それでも目の前の景色が変わらなくてもっと擦る。その手を止められた。
「快、君」
おかしい。だってここは家ではない。しかし、確かにこの男は二つ年上の兄、快だった。
「ど、ど、ど」
「どうどう、落ち着け弟よ~」
「どういうこと!?」
胸元を掴んで詰め寄ると、分厚い体で抱きしめてきた。
「俺、ここの生徒なんだよ。知らなかったかぁ?」
「知らない! 同じだって教えてくれればよかったのに!」
「陣君言ってなかったんだぁ。まあいいじゃねぇか、俺にサプライズで会えて嬉しいだろ?」
「嬉しい!」
主人に甘える犬のごとく、葵も広い背中に腕を回しぎゅうぎゅうに抱き着いた。
快は兄三人の中で一番葵に甘い。可愛がっているのは三人とも同じなのだが、方向性が違い過ぎてなかなか分かりづらい。ただし、直接的に愛情を注ぐ快だが、やはり一筋縄ではいかないところもある。
「葵ィ、クラスでは上手くやれてるか? ん? 嫌な奴いたら、兄ちゃんが一年間ずっと通学出来ない体にしてやるから言ってな?」
「うう、うん。大丈夫。友だちも出来たし」
それを聞いて、快が大きな口をにんまりと歪ませた。
「そっかそっか。葵も今度一緒に稽古しよう。俺スポーツ特待だから第二体育館使い放題なんだよ。なんなら今からでも」
「遠慮する! それよりほら、お昼だから一緒に食べよ! 快君もう食べちゃった?」
「一時間前に早弁したけど、また追加で買ったから一緒に食べる~」
「やった!」
ぼっち飯でなくなったことを素直に喜ぶ。しかも相手は懐かしの我が家族。まだ会わなくなって数日だというのに、すでに家族が恋しかった。
中庭で仲良く並んで座り、サンドイッチを頬張る。それでは足りないと、快が買ってきた弁当を一つ足されてしまった。
「心配すんな。もう一つ弁当買ってあっから」
「ありがとう! これもいただきます!」
「おう……あ? んだそれぇ」
「へ?」
急に怪訝な顔をされ、耳を触られる。数日前にされたそこはまだじくじくと痛む。
「聞いてくれよ! 昴君が勝手に開けたんだよ。おかげでお風呂入る時とか染みて痛いし……」
「ああ? 昴君がぁ?」
止めてほしくて説明したのに、それを聞いた快がさらにしつこく触ってくる。
「あ、あ、痛いって」
「じゃあ舐めて治してやるよ」
べろん、肉厚な舌が本当に舐めてきた。生温い感触と痛みと、たまに甘噛みをされて訳が分からなくなる。
「やだ、快、く、あっ」
胸元を何度も叩くと、ようやく舌が離れていった。
「快、君」
おかしい。だってここは家ではない。しかし、確かにこの男は二つ年上の兄、快だった。
「ど、ど、ど」
「どうどう、落ち着け弟よ~」
「どういうこと!?」
胸元を掴んで詰め寄ると、分厚い体で抱きしめてきた。
「俺、ここの生徒なんだよ。知らなかったかぁ?」
「知らない! 同じだって教えてくれればよかったのに!」
「陣君言ってなかったんだぁ。まあいいじゃねぇか、俺にサプライズで会えて嬉しいだろ?」
「嬉しい!」
主人に甘える犬のごとく、葵も広い背中に腕を回しぎゅうぎゅうに抱き着いた。
快は兄三人の中で一番葵に甘い。可愛がっているのは三人とも同じなのだが、方向性が違い過ぎてなかなか分かりづらい。ただし、直接的に愛情を注ぐ快だが、やはり一筋縄ではいかないところもある。
「葵ィ、クラスでは上手くやれてるか? ん? 嫌な奴いたら、兄ちゃんが一年間ずっと通学出来ない体にしてやるから言ってな?」
「うう、うん。大丈夫。友だちも出来たし」
それを聞いて、快が大きな口をにんまりと歪ませた。
「そっかそっか。葵も今度一緒に稽古しよう。俺スポーツ特待だから第二体育館使い放題なんだよ。なんなら今からでも」
「遠慮する! それよりほら、お昼だから一緒に食べよ! 快君もう食べちゃった?」
「一時間前に早弁したけど、また追加で買ったから一緒に食べる~」
「やった!」
ぼっち飯でなくなったことを素直に喜ぶ。しかも相手は懐かしの我が家族。まだ会わなくなって数日だというのに、すでに家族が恋しかった。
中庭で仲良く並んで座り、サンドイッチを頬張る。それでは足りないと、快が買ってきた弁当を一つ足されてしまった。
「心配すんな。もう一つ弁当買ってあっから」
「ありがとう! これもいただきます!」
「おう……あ? んだそれぇ」
「へ?」
急に怪訝な顔をされ、耳を触られる。数日前にされたそこはまだじくじくと痛む。
「聞いてくれよ! 昴君が勝手に開けたんだよ。おかげでお風呂入る時とか染みて痛いし……」
「ああ? 昴君がぁ?」
止めてほしくて説明したのに、それを聞いた快がさらにしつこく触ってくる。
「あ、あ、痛いって」
「じゃあ舐めて治してやるよ」
べろん、肉厚な舌が本当に舐めてきた。生温い感触と痛みと、たまに甘噛みをされて訳が分からなくなる。
「やだ、快、く、あっ」
胸元を何度も叩くと、ようやく舌が離れていった。
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