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第二章 噂が広まるのは早いもので
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「あの」
「すみません! ここから飛び降りますのでどうかお許しください!」
「いやちょっと、待って!」
――ここ四階だから!!
目の前で同室者が自殺とか、一生トラウマになること確実の行動は即刻止めて頂きたい。すでに窓を開け片足を上げている山田の腰に必死で抱き着き叫ぶ。
「今すぐ止めろ! 分かったか!」
「…………っ!」
山田の体が硬直し、やがてふらふらその場に座り込んでしまった。どうやら最悪な事態は免れそうで安心する。
窓の鍵を掛けて山田の目の前に座って、恐る恐る相手を確認する。
先ほど抱き着いた時にも思ったが、この男やけに大きい。身長も中々であるし、筋肉もかなり付いている。量の多い髪の毛と黒縁眼鏡で根暗そうに見えているものの、実際の雰囲気はまた違っている気がした。
「なあ、何でこんなことをしたんだ? 俺たち初対面、だよな」
山田が震えながら小さく頷く。
何故、こんなにも怯えられないといけないのか。まるでこちらが悪者だ。葵は自分のチキンさを忘れて説教を始める。
「お前、山田な、いきなり危ないことすんな。別に俺にやましいことがあるわけじゃないんだろ」
「……はい」
「めそめそすんなよ」
念のため、陣からの注意を気にして話しているが、山田相手であれば先ほどの出来事の所為で素の状態でも強気に出られそうな気がする。
一言言っただけで眼鏡の下からぽろぽろ涙を零し始めた山田にため息を吐きつつ、ぽんぽんと頭を撫でてやった。
「とにかく! もう、絶対こっから飛び降りるとか言うな。あと、俺相手に怖がることないからな」
――あれ、もしかして、山田も俺の噂を知っていたから……とか?
今更ながら理由を想像してさあ、と血の気が引く。あの行動に出てしまったことも、自分が原因であったならば大変申し訳ない。そんな心配を余所に、ぐしぐし涙を拭いて山田が口を開けた。
「ぼ、僕、こんなでかいのに、全然役に立たなくって……。小学校の時からいじめられてたんです。だから、せめて目つきが悪いって言われるのを隠すために眼鏡して、なるべく人と距離を置いてたんですけど、ここは家から離れてるから寮に入らないといけなくなっちゃって」
「だから、同室者の俺に迷惑が掛かるんじゃないかと?」
「はい……」
一気に気が抜ける。
自分の所為ではなかった。しかし、目を瞑ってしまっていいものでもなかった。初対面なのに、山田が本当に気の毒に思えて、何か手助けをしたい気分になった。
「すみません! ここから飛び降りますのでどうかお許しください!」
「いやちょっと、待って!」
――ここ四階だから!!
目の前で同室者が自殺とか、一生トラウマになること確実の行動は即刻止めて頂きたい。すでに窓を開け片足を上げている山田の腰に必死で抱き着き叫ぶ。
「今すぐ止めろ! 分かったか!」
「…………っ!」
山田の体が硬直し、やがてふらふらその場に座り込んでしまった。どうやら最悪な事態は免れそうで安心する。
窓の鍵を掛けて山田の目の前に座って、恐る恐る相手を確認する。
先ほど抱き着いた時にも思ったが、この男やけに大きい。身長も中々であるし、筋肉もかなり付いている。量の多い髪の毛と黒縁眼鏡で根暗そうに見えているものの、実際の雰囲気はまた違っている気がした。
「なあ、何でこんなことをしたんだ? 俺たち初対面、だよな」
山田が震えながら小さく頷く。
何故、こんなにも怯えられないといけないのか。まるでこちらが悪者だ。葵は自分のチキンさを忘れて説教を始める。
「お前、山田な、いきなり危ないことすんな。別に俺にやましいことがあるわけじゃないんだろ」
「……はい」
「めそめそすんなよ」
念のため、陣からの注意を気にして話しているが、山田相手であれば先ほどの出来事の所為で素の状態でも強気に出られそうな気がする。
一言言っただけで眼鏡の下からぽろぽろ涙を零し始めた山田にため息を吐きつつ、ぽんぽんと頭を撫でてやった。
「とにかく! もう、絶対こっから飛び降りるとか言うな。あと、俺相手に怖がることないからな」
――あれ、もしかして、山田も俺の噂を知っていたから……とか?
今更ながら理由を想像してさあ、と血の気が引く。あの行動に出てしまったことも、自分が原因であったならば大変申し訳ない。そんな心配を余所に、ぐしぐし涙を拭いて山田が口を開けた。
「ぼ、僕、こんなでかいのに、全然役に立たなくって……。小学校の時からいじめられてたんです。だから、せめて目つきが悪いって言われるのを隠すために眼鏡して、なるべく人と距離を置いてたんですけど、ここは家から離れてるから寮に入らないといけなくなっちゃって」
「だから、同室者の俺に迷惑が掛かるんじゃないかと?」
「はい……」
一気に気が抜ける。
自分の所為ではなかった。しかし、目を瞑ってしまっていいものでもなかった。初対面なのに、山田が本当に気の毒に思えて、何か手助けをしたい気分になった。
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