最弱伝説俺

第二章 噂が広まるのは早いもので

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　葵が歩くたびに、人が避けていき道が出来ることに泣きそうになりながら入口を目指す。寮監の人すら名前を言っただけでびくつかれたのには参った。
　これだけ分かりやすく避けられて、泣かなかっただけえらいと自分でも思う。恐らく、すでに入寮した一年生の誰かがチクったに違いない。

　受け取った鍵（寮についての説明は一切してもらえなかった）で部屋番号を確認してエレベーターに乗り込む。四階に着き廊下に出て部屋を探すべく辺りを見回すと、一人の生徒が座り込んでいた。

――もしかして「ぼっち」？　やった！　友だちになってもらおう！

　一年生で学校も終わっているので、恐らく暇しているのだろう。そう思った葵は小走りで近づいた。近づいたことを後悔した。

「おめぇ……」

――ぎゃー！！　出たぁぁ！

　一瞬でぐるんと百八十度体を捻って走り出す。予想通りというか何というか、相手は葵目がけて追いかけてきた。
　何とぼっちかと思ってこちらから近づいてしまった相手は、入学式前に不可抗力ながら倒してしまった大柄の不良だった。

「おいぃ！　逃げんじゃねぇ！」

――逃げるに決まってんじゃん！　殺し屋の目じゃん！　俺が標的じゃんんんッ！

　しかし、屋内のしかも狭い廊下では逃げる場所も無く、部屋には鍵が掛かっているため誰かの部屋に逃げ込むことも出来ない。そうこうしている内に廊下の端まで追い詰められてしまう。

「ひっ……いい！　殺さないで……！」

　陣との約束もあったもんじゃない。なりふり構わず首をふるふる振って命乞いをする。
　追い付いた不良は、葵の行動に首を傾げながらも一歩また一歩と近づいてくる。

「はあ……っ手間取らせやがって」
「はい！　すみませんすみません、あれは俺の所為っていうか偶然と言いますか」
「は？　何訳分かんねぇこと言ってんだよ」
「とにかく謝りますんで、命だけは！」
「ああ？　誰がいつお前を殺すなんて言ったよ」

　どかりとその場に座った不良が「誤解すんじゃねぇ」と手招きする。非常に行きたくないが、行かなければもっとひどいことをされるに違いないとおずおず不良の前まで行って座ってみた。

「怒ってねぇし」
「は、はあ……」
「それより聞きたいことがあってよ。てめぇ、偶然って言ったがどっかで格闘技でもやってたのか？　俺を倒すなんざ偶然でもおかしいだろ」
「いえ……そんなことないです」
「急にしおらしくなんじゃねぇ、散々騒いでたろ」
「あ……はい」

　早くも葵のチキンぷりがバレてしまい、変な汗がどばどば出てくる。