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第一章 俺、最弱なんです
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「やっぱ家から時間掛かるね」
適当に答えながらその後も延々と続く陣作プリントを適当に聞き流していれば、今日から通う校舎が見えてくる。
ちなみに、注意点で最後の方に言われた「男はオオカミ」や「男と二人きりにならないこと」などの文は意味が分からなかったので無視をした。
ここに三年間通うのか。
受験に一度訪れただけだったのでどんな校舎か覚えていなかったが、思っていたより普通で安心する。
――よかった。窓ガラス割れてない。
校舎の隣には似た建物が建っているので、恐らくこれが寮だろう。住み慣れた実家を離れなければならないのは未だに納得がいかない。
しかし、自宅から通うとなると車でも電車でも一時間半以上掛かる。車はすでに断られているため、電車となるが一人で毎日早起きして通う自信は全く無かった。やはり寮暮らしは免れそうになく、入学式がとても憂鬱に思えてくる。何より家族がいないのが不安だ。
「はあ、陣君ひどい」
「どれがですか」
「入学式くらい来てくれたっていいじゃん。俺、行事関係で家族来ないとか初めてだし」
陣がひどいと呟く葵に、心当たりがあり過ぎて聞き返せば可愛い答えが返ってきた。
弱いから愛のムチをくれてやると、日々虐げられている葵であるが、その実過保護並に可愛がられている。入学式卒業式はもちろんのこと、授業参観日にまで父母と一緒に兄が来たこともあるくらいだ。それが分かっているので、今回の家族欠席は葵には堪えたことだろう。
ただしスタッフから言わせてもらえば、一挙手一投足漏らさず記録に残すよう言われているので、来ない状態でも十分に過保護は健在だと言える。車の中の様子も、実は車内カメラでばっちり撮影済だ。不安に思う葵の肩をぽんぽん叩きながらスタッフが眉を下げて言った。
「とりあえず、陣さんからの注意点伝えましたから。いろいろ不安でしょうが、皆さんから離れたのも良い機会だと思って高校生活謳歌してください」
「……おう」
校門近くで車から降ろされ、父兄席へ向かうスタッフたちと別れた葵は一人歩き出す。周りを見れば、複数で歩いている者もいるが大抵は一人だ。
同じように友人がいない中進学した者かもしれないと思えば、少し淋しい気持ちも無くなった気がする。
校門をすり抜け、新入生の受付へ並ぶ。内心そわそわしっぱなしの葵は無表情で突っ立っているだけだ。
陣の言うことを真に受けてその通りに行動するのは癪な気がするのだが、如何せん地元も地元、家でも学校でも身内や実家の門下生に囲まれた生活だったので何を参考にしていいのか分からず、とりあえず今日のところは先ほどの注意点に沿うことにした。
一つ、言葉を発するのは最低限に。
言われた通りにしなければと思うと自然に緊張して眉間に皺が寄ってしまう。それ故、本来ならば横にいた新入生に話しかけられるはずだったのに、「あ、完全にこの人不機嫌だわ」と思われ友人第一号を逃すことになるのは該当生徒以外誰も知らない。
「次の人―」
葵の番になり前へ出る。
受付には二名の男子生徒がおり、名簿を見ながら出席を取って胸元に花を一つ一つ付けていた。手が空いた一人が葵に向かって人の良い笑みを向けて事務的な言葉を投げかける。
「えーと、名前を言ってください」
「……小日向葵、です」
適当に答えながらその後も延々と続く陣作プリントを適当に聞き流していれば、今日から通う校舎が見えてくる。
ちなみに、注意点で最後の方に言われた「男はオオカミ」や「男と二人きりにならないこと」などの文は意味が分からなかったので無視をした。
ここに三年間通うのか。
受験に一度訪れただけだったのでどんな校舎か覚えていなかったが、思っていたより普通で安心する。
――よかった。窓ガラス割れてない。
校舎の隣には似た建物が建っているので、恐らくこれが寮だろう。住み慣れた実家を離れなければならないのは未だに納得がいかない。
しかし、自宅から通うとなると車でも電車でも一時間半以上掛かる。車はすでに断られているため、電車となるが一人で毎日早起きして通う自信は全く無かった。やはり寮暮らしは免れそうになく、入学式がとても憂鬱に思えてくる。何より家族がいないのが不安だ。
「はあ、陣君ひどい」
「どれがですか」
「入学式くらい来てくれたっていいじゃん。俺、行事関係で家族来ないとか初めてだし」
陣がひどいと呟く葵に、心当たりがあり過ぎて聞き返せば可愛い答えが返ってきた。
弱いから愛のムチをくれてやると、日々虐げられている葵であるが、その実過保護並に可愛がられている。入学式卒業式はもちろんのこと、授業参観日にまで父母と一緒に兄が来たこともあるくらいだ。それが分かっているので、今回の家族欠席は葵には堪えたことだろう。
ただしスタッフから言わせてもらえば、一挙手一投足漏らさず記録に残すよう言われているので、来ない状態でも十分に過保護は健在だと言える。車の中の様子も、実は車内カメラでばっちり撮影済だ。不安に思う葵の肩をぽんぽん叩きながらスタッフが眉を下げて言った。
「とりあえず、陣さんからの注意点伝えましたから。いろいろ不安でしょうが、皆さんから離れたのも良い機会だと思って高校生活謳歌してください」
「……おう」
校門近くで車から降ろされ、父兄席へ向かうスタッフたちと別れた葵は一人歩き出す。周りを見れば、複数で歩いている者もいるが大抵は一人だ。
同じように友人がいない中進学した者かもしれないと思えば、少し淋しい気持ちも無くなった気がする。
校門をすり抜け、新入生の受付へ並ぶ。内心そわそわしっぱなしの葵は無表情で突っ立っているだけだ。
陣の言うことを真に受けてその通りに行動するのは癪な気がするのだが、如何せん地元も地元、家でも学校でも身内や実家の門下生に囲まれた生活だったので何を参考にしていいのか分からず、とりあえず今日のところは先ほどの注意点に沿うことにした。
一つ、言葉を発するのは最低限に。
言われた通りにしなければと思うと自然に緊張して眉間に皺が寄ってしまう。それ故、本来ならば横にいた新入生に話しかけられるはずだったのに、「あ、完全にこの人不機嫌だわ」と思われ友人第一号を逃すことになるのは該当生徒以外誰も知らない。
「次の人―」
葵の番になり前へ出る。
受付には二名の男子生徒がおり、名簿を見ながら出席を取って胸元に花を一つ一つ付けていた。手が空いた一人が葵に向かって人の良い笑みを向けて事務的な言葉を投げかける。
「えーと、名前を言ってください」
「……小日向葵、です」
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