最弱伝説俺

京香

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第一章 俺、最弱なんです

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 そう、最弱最弱と言われる毎日の葵は実は決して弱いわけではない。
 先ほど述べた通り、その辺のやんちゃな連中など片手で十分なくらいに強い。
 しかしそれに気付かないのは、上の三人の兄と父が人間レベルを超えて強すぎる上、陣から「最弱だ」と言われ続けそれを信じてしまっているのが原因だった。

 加えて父が運営する有名道場があるおかげで、小日向家の周りの家の近所には屈強な子どもが自然と集まっている。道場に通わせて上を目指したいと思っている親たちが、通いやすいように引っ越してきてしまうのだ。それであるから、当然幼馴染も学校の友人も葵よりガタイが良い者が多かった。

 もちろん実力は葵の方が上だ。
 しかしながら、陣による洗脳の所為で「皆が俺に負けるのは、俺が弱いからわざと負けてくれている」と歪んだ思いを生み出してしまうのだった。

「どうしよう……」

 自室に戻った葵が項垂れる。
 すでに季節は春。先月受けた試験は二つで、葵の志望校と滑り止めだと言われて受けた二校だったが、すでにその滑り止めと教えられていたところへ入学金も払ってしまったらしい。とんでもない家族だ。

 とはいっても、志望校の方も本当に行きたいところだったわけではない。
 まだ中学から高校では将来の夢も決まっていないのも当然であるし、はっきり言って頭が良いとは言えない葵は選べる高校自体少なかった。
 これに関しては兄弟ともどっこいどっこいなので「勉強しろ」とは一度も言われたことがなく、むしろ「勉強する時間があるなら体を鍛えろ」となるのが常だ。

「まあ、でも行くはずだったところも誰も一緒の奴いなかったし」

 秒速で気を取り直す葵は、どこか抜けている性格だった。

「おーい、葵ィ」

 ノックも「入るぞ」の声かけも無く、いきなりドアを開けてずかずか入ってきたのは次男の昴。用事があっても無くても、いつもこの調子で入ってきて寛いでいることがしょっちゅうなので、今更驚かない。

「何、昴君」
「陣が勝手に決めちゃって大変だったなぁ」
「そうだよ! 俺、今日初めて聞いたし」
「だよなぁ、びっくりだよなぁ」

 慰めに来てくれたのか、葵は嬉しくなって横に座った昴にすり寄る。すると、昴がポケットに手をやりごそごそ探し出した。

「ん? 何してんの?」
「んーん、何でもない」
「……なんか、何でもなくない予感がするんだけど」
「そーか?」

 のんびりした調子で受け答えをする昴に怪しさを感じ始めた頃、ふいに耳元に違和感を感じた。昴の指ではない何かが当たっている気がするのだ。
 確かめようと左手を挙げた瞬間、「ばちん!」という危険な音と激痛が葵を襲った。

「いっいてぇええええ!」
「あはは、大げさだなぁ葵は」

 へらへら笑う昴の手元を見ると、そこにはピアッサーが握られているではないか。つまりこれは、この激痛の原因はピアスを開けられたということで。

「ピ、ピアス!」
「そう。舐められないように一個くらいはさ。付けるなら奇数がいいと思ったんだけど、三個だと葵が痛がりそうだから一個にしてあげた」
「一個でも痛いわ! つーか、俺付けたいなんて一回も言ったことないし……」

 先ほどから自由過ぎる兄たちに振り回されて、もう怒る気力すら無くその場に崩れ落ちる。それを昴がやはり胡散臭い笑顔を携えながら「どうしたんだよ」と足で蹴ってくるものだから、立ち直る元気が湧くわけがなかった。

「やだよもー……何なのほんと」
「あ、ピアス赤にしてやったよ。目立つっしょ」
「色とか関係無いし! くそっ!」

 腹が立ちすぎてご機嫌真横の葵は近くにあった物を確認せずにベッドへ放り投げた。
 スプリングで勢いよく飛んだそれは、横の壁に当たり鈍い音を立てて床に落ちころころ転がる。

「う、ああああ、スマホォオオ……」
「あーやっちゃったね、あれだけぶつかったらもうダメじゃないの? お前こういう時って異常な力出るから」

 弟の不幸を見て昴がけらけら笑う。
 これでも、昴は葵のことを至極気に入っていたりする。これが最上級の愛情らしい、陣といいはた迷惑な愛である。
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