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答え合わせ7
しおりを挟むほろ酔い気分で、店を出る。
来た時は、店を探す方に注力していて、周りが見えていなかった。
クリスマス前で、イルミネーションに彩られた夜景が広がった。世界が一転。煌めいて見える。
「やっぱり、来てよかったね。すっごく美味しかった」
「本当だな。予想の遥か上を行ったな」
陽斗の少し前で、子供のように飛び跳ねる。勝手に、どこかへ飛んで行ってしまいそうな気分になってくる。これは、重症だなと自覚しながら、持っていた鞄の柄をぐっと握った。
「彩芽」
「うん?」
くるりと振り返ったその顔が、一層眩しい。それに引き換え、鞄の中で今か今かと待ち構えているものは、色褪せてしまっている。怯んで、動作が止まりそうになるが、あの日の若さよ思い出せと、思い切って鞄の中から取り出した。彩芽は、手の中のものに丸い瞳を何度も瞬かせる。
「八年前。渡したくても渡せなかったプレゼント。高校当時の俺が選んだやつで、たいしたことないけどさ。何ていうか……とりあえず、これまでもなんとなく一緒にいたわけだけど、この先は『なんとなく』じゃなくて、ちゃんと隣にいたいと思う。ずっと止まっていた時間を、ここからまた動かしたい。だから、今更だけど、貰ってくれないかな?」
陽斗のこんな色褪せてしまった包装紙を見て、百年の夢も覚めると思われるところかもしれないという危惧を、彩芽は今日一番の笑顔であっさりと取り払ってしまう。
「もちろん」
彩芽は笑顔で、受け取る。繊細なガラス細工を壊してしまわないような手つきで、陽斗の手から自分の手のひらへ移す。
細い指先で、かけられたリボンを解いて、変色してしまったセロハンテープと包装紙を外していく。少し歪んでいる外箱の蓋を開けると、八年前からタイムスリップしてきたかのように、当時のままの真っ白な小箱が姿を現した。
中身は無事だったと、陽斗が安堵していると、彩芽は外箱から小箱をゆっくりと取り出して開けていく。そして、飛び出したのは、彩芽の声ではなく、陽斗の絶望の声だった。
「何で」
想像していた数分後のほわっと輝く未来は、粉々に崩れ去る。出てきた中身は、ペンダントは真っ黒だった。しかもペンダントトップの星の真ん中にあしらわれた水色の石は、何とか頑張って輝こうとしているようだが、そんな努力など水の泡だ。ともかく、黒い。
陽斗は、そのあと続く言葉が出ず、ただ、魚のように口をパクパクさせる。よくよく考えれば、当然だ。シルバーは酸化するに決まっている。それに比べて、彩芽は何の驚きも浮かんでおらず、陽斗の反応に呆れたようにいう。
「そりゃあ、八年も放置してればそうなるでしょうね。陽斗って、ここぞって時にツメが甘いよね。大体、予想つくでしょ」
彩芽は、平然といてのけて、陽斗の反応はどうでもいいというように、再び手の中にあるネックレスへ視線を移して目を細めていった。
「八年間の思いが詰まってる。ちゃんと、大事にするよ。ありがとう」
彩芽は、胸に刻むようにそっと蓋を閉じて、大事そうに両手で包み込む。そして、蓋を閉じた方の手をおずおずと伸ばし、きゅっと陽斗の服を掴んでいた。俯いた表情はわからない。陽斗は、そのまま彩芽を腕の中に閉じ込める。一瞬、硬直する華奢な身体は、少しずつ力が抜けて、陽斗の背に彩芽の手が回っていく。優しいぬくもりが心のずっと奥に、穏やかに染みわたっていった。
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