35 / 57
波乱4
しおりを挟む
集まっていた学生たちの視線もさっと潮が引くように霧散していくのを見計らって、ひなは唯に今にも土下座しそうな勢いで謝り始めていた。
「唯、ごめんね! フミヤがあんな暴走するなんて思わなくて……」
「ううん、大丈夫。助けてくれてありがとう」
ひなは、視線を落として首を振り「唯。ちょっと、こっちきて」と食堂の学生達から逃れるように校舎を出た。
中庭のベンチに並んで座ると唯はひなに亮のことを謝ろうと口を開こうとした。けれど、それより早く「唯、この前の本当にごめん!」ひなが叫ぶようにいった。
「この前のことずっと謝ろうと思ってたんだけど、あんな酷いこと言っちゃった手前どんな顔して会えばいいのかわからなくなっちゃって……。唯はそんな人じゃないってわかってるのに。
前さ、宮川亮の熱愛スクープ出たでしょ? あの時、憧れの彼があんな胡散臭いキラキラアナウンサーなんかに引っかかったんだって、正直幻滅してたの。やっぱ、宮川亮もただの小さい人間だったなって。それが、蓋を開けてみたらそんなんじゃなくて、本当の相手は唯だったって……もう驚きで頭の中は大混乱。しかも、私の目の前に本人いるし、気が動転して何が何だかわからなくなっちゃって。気付いたら思ってもみなかったこと口走ってた……。本当にごめん!」
「ううん。私が悪かったのよ。嘘ついて……ひなには本当のことちゃんと言うべきだったのに。私こそ、ごめんね」
唯がそういえば、ひなはブンブン首を振って言った。
「唯は当然のことしたまでで、唯は悪くない」
神妙な面持ちだったひなの顔が、急ににやけ始める。そんな様子のひなに唯が首をかしげていると、ひなの瞳は恋する乙女に変わって頬を赤くし染めあげていた。
「時間が経って冷静になってみたら、益々彼素敵だって思えてきてね。あんな芸能界に首突っ込んだ派手な人なんかじゃなくて、ずっと前から付き合ってる幼馴染を愛し続けるなんて! やっぱ、亮さん素敵。益々、彼の株が上がっちゃった! それに、よくよく考えてみたら……親友の恋人が彼だなんて、私めちゃくちゃラッキーじゃない?」
そういえば、この前私どさくさに紛れて触っちゃったし……と呟くと、頭から湯気が本当に見えそうなほど真っ赤にさせて興奮冷めやらない様子で続けた。
「しかも、唯を介せばいつだって会えるってことよね? もう最高! 唯、絶対別れないでよ」
唯は困り顔で乾いた笑みを浮かべると、忘れていた痛みが舞い戻ってきた。それを蹴散らしながら「善処します」と答えるのに精一杯だった。
「唯、このあと授業だっけ?」
「うん。一コマ出て、そのあとバイト」
唯が答えると、ひなの顔の中心に皺が寄り始めていた。急にどうしたのだろうと思っていたら
「唯、顔色悪いけど大丈夫?」
突然そんなことを言われて驚きながら、唯は笑いながら答える。
「うん。昨日レポート終わらなくて寝不足気味なのよ」
「授業終わったら、帰ったほうがいいんじゃない? 顔真っ白だよ」
そういわれて、今朝鏡に映った酷い顔が蘇った。化粧でも誤魔化しきれないレベルになっているのだろうか。そんな不安を吹き飛ばすように、唯は明るく笑って見せた。
「それは目の下にクマができちゃってさ、ファンデーション塗りたくってきたからよ」
「そうなのかなぁ? だとしたら、その化粧失敗してるよ」
容赦なくそう言われて、唯は苦笑するとひなは、スマホに目をやって「あ、もうバイト行かなきゃ。唯、またね。無理しないでよ」と元気に手を振って、小柄な背中を揺らして駆けていった。
それを見送ってほうっと息を吐きながら、唯はベンチに背中を預けるとズキズキ頭に不快な痛みが駆け巡る。
そこに、ふと昨晩のメモが蘇った。
あれはフミヤの仕業だったのかもしれない。着信拒否をした私に腹立った挙げ句のあのメモならば、すべて辻褄が通る。
フミヤは、ひなにあんなにこっぴどくやられたのだ。もう、あんな嫌がらせはきっとしないだろう。それに、犯人の正体さえわかれば何とかなるだろうし。ひなとも仲直りできたこともあり、そんな根拠のない楽観が唯にじわりと浸透していく。 そして、ほうっと息を吐くと、張っていた気が急激に抜けた反動なのか、朝より数倍の威力となった頭痛が舞い戻ってきた。
痛い……だけど、この後は必須授業。痛みに耐えながら、授業を何とか凌いだころにちょうど亮から電話がかかってきて、スマホが震え始めていた。
「唯、ごめんね! フミヤがあんな暴走するなんて思わなくて……」
「ううん、大丈夫。助けてくれてありがとう」
ひなは、視線を落として首を振り「唯。ちょっと、こっちきて」と食堂の学生達から逃れるように校舎を出た。
中庭のベンチに並んで座ると唯はひなに亮のことを謝ろうと口を開こうとした。けれど、それより早く「唯、この前の本当にごめん!」ひなが叫ぶようにいった。
「この前のことずっと謝ろうと思ってたんだけど、あんな酷いこと言っちゃった手前どんな顔して会えばいいのかわからなくなっちゃって……。唯はそんな人じゃないってわかってるのに。
前さ、宮川亮の熱愛スクープ出たでしょ? あの時、憧れの彼があんな胡散臭いキラキラアナウンサーなんかに引っかかったんだって、正直幻滅してたの。やっぱ、宮川亮もただの小さい人間だったなって。それが、蓋を開けてみたらそんなんじゃなくて、本当の相手は唯だったって……もう驚きで頭の中は大混乱。しかも、私の目の前に本人いるし、気が動転して何が何だかわからなくなっちゃって。気付いたら思ってもみなかったこと口走ってた……。本当にごめん!」
「ううん。私が悪かったのよ。嘘ついて……ひなには本当のことちゃんと言うべきだったのに。私こそ、ごめんね」
唯がそういえば、ひなはブンブン首を振って言った。
「唯は当然のことしたまでで、唯は悪くない」
神妙な面持ちだったひなの顔が、急ににやけ始める。そんな様子のひなに唯が首をかしげていると、ひなの瞳は恋する乙女に変わって頬を赤くし染めあげていた。
「時間が経って冷静になってみたら、益々彼素敵だって思えてきてね。あんな芸能界に首突っ込んだ派手な人なんかじゃなくて、ずっと前から付き合ってる幼馴染を愛し続けるなんて! やっぱ、亮さん素敵。益々、彼の株が上がっちゃった! それに、よくよく考えてみたら……親友の恋人が彼だなんて、私めちゃくちゃラッキーじゃない?」
そういえば、この前私どさくさに紛れて触っちゃったし……と呟くと、頭から湯気が本当に見えそうなほど真っ赤にさせて興奮冷めやらない様子で続けた。
「しかも、唯を介せばいつだって会えるってことよね? もう最高! 唯、絶対別れないでよ」
唯は困り顔で乾いた笑みを浮かべると、忘れていた痛みが舞い戻ってきた。それを蹴散らしながら「善処します」と答えるのに精一杯だった。
「唯、このあと授業だっけ?」
「うん。一コマ出て、そのあとバイト」
唯が答えると、ひなの顔の中心に皺が寄り始めていた。急にどうしたのだろうと思っていたら
「唯、顔色悪いけど大丈夫?」
突然そんなことを言われて驚きながら、唯は笑いながら答える。
「うん。昨日レポート終わらなくて寝不足気味なのよ」
「授業終わったら、帰ったほうがいいんじゃない? 顔真っ白だよ」
そういわれて、今朝鏡に映った酷い顔が蘇った。化粧でも誤魔化しきれないレベルになっているのだろうか。そんな不安を吹き飛ばすように、唯は明るく笑って見せた。
「それは目の下にクマができちゃってさ、ファンデーション塗りたくってきたからよ」
「そうなのかなぁ? だとしたら、その化粧失敗してるよ」
容赦なくそう言われて、唯は苦笑するとひなは、スマホに目をやって「あ、もうバイト行かなきゃ。唯、またね。無理しないでよ」と元気に手を振って、小柄な背中を揺らして駆けていった。
それを見送ってほうっと息を吐きながら、唯はベンチに背中を預けるとズキズキ頭に不快な痛みが駆け巡る。
そこに、ふと昨晩のメモが蘇った。
あれはフミヤの仕業だったのかもしれない。着信拒否をした私に腹立った挙げ句のあのメモならば、すべて辻褄が通る。
フミヤは、ひなにあんなにこっぴどくやられたのだ。もう、あんな嫌がらせはきっとしないだろう。それに、犯人の正体さえわかれば何とかなるだろうし。ひなとも仲直りできたこともあり、そんな根拠のない楽観が唯にじわりと浸透していく。 そして、ほうっと息を吐くと、張っていた気が急激に抜けた反動なのか、朝より数倍の威力となった頭痛が舞い戻ってきた。
痛い……だけど、この後は必須授業。痛みに耐えながら、授業を何とか凌いだころにちょうど亮から電話がかかってきて、スマホが震え始めていた。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる