手に余るほどの幸せ

雨宮 瑞樹

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暴露4

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 花蓮と潤の発言が突き抜けていこうとしたのを何とか思考回路に乗せてみる。
 しかし、理解しようとすればするほど、春馬の思考回路は、ショートして発火していた。
「どう考えたっておかしいだろう! だって、お前ら何歳だよ?」
 この二人はどう見ても、自分とそう歳は変わらないはずだ。
「俺ら、双子なんだ。ということで、二人とも二十歳」
 潤が答えると花蓮も、頷いていた。間違いないということだろう。
 だとしたら、猶更おかしな話だ。こんなバカげた話あるはずがない。
「俺は、二十一だぞ? 親に隠し子がいて兄弟がいたんだって言われるのなら、まだ理解できる。だが、そうじゃなくて、俺が父親だって? 俺がたった一歳の赤ん坊の時に、子供を作ったとでもいうのかよ?」
 常識はずれにも程がある。つくなら、もっとうまい嘘を考えて来いよ。内心で、悪態をつきながら、馬鹿らしくて、鼻で笑う。
 潤は、やけに納得したように何度もうなずいていた。
 頷く度に、落ちてきた長い前髪が目元にかかってくるのを、かきあげると、びしっと春馬を指さした。
「親父。それ、おもしろい発想だな」
 潤が春馬を指さしている人差し指を花蓮は思い切り、叩き落として睨み付けている。
「本当に潤の思考回路、父さん似よね」
 花蓮は、軽蔑した冷たい視線を潤と春馬交互に向け、大きくため息をつく。
「もうこれ以上馬鹿らしい想像してほしくないから、はっきり言っとく」
 花蓮は、春馬を見据える。真剣な眼差しで、逃げ場はない。だから、ちゃんと受け止めろと、いっているかのようだった。
 春馬は、どんな言葉が飛んできてもいいように、準備しながらゴクリと固唾をのむ。
 そして、花蓮はいった。
「私たち、未来からやってきたの」

 花蓮の声は、よく響いて、何度も頭の中で木霊する。花蓮の顔はどこまでも真面目なのに、出てきた言葉はあまりに現実離れしている。春馬から、自然とははっと乾いた笑い声が出た。
「何バカなこと言ってるんだよ? そんなこと、現実でありえるはずがないだろ? 寝言は寝てから言えよ」
「そりゃあ、信じられないのも無理はないさ。俺だって、これは現実なのかって思ったし」
 潤は肩を竦めてそういうと、ポケットを探って、財布を取り出していた。
「でも、実際にそうなんだから、信じられなくても信じてもらうしかないんだよな」
 折り畳み式の財布を広げると、その中からカードらしきものを手にする。それを、春馬へと差し出した。
 春馬は受け取り、促されるがままにそれを見つめる。
 身分証明書だった。
『新庄潤』
 花蓮が言った通りの名前がそこに刻まれている。そこに気を取られていると、注目すべきはそこじゃないと指摘が入っていた。
「名前じゃなくて、生年月日に注目してくれよ」
 指示された場所へ視線を移動させる。すると、そこには今の現実ではありえない数字が記載されていた。
 その先の生年月日は、今から約十五年後の日付になっている。
 どうひっくり返し見ても、そこに記載されている事実は変わらない。
「偽物だろ?」
 思わずそういえば、すかさず花蓮から「そんなうまいこと、作れないわよ」と、反論が聞こえてきてきていた。
 だが、しかし。これを見せられても、全面的に信じろという方が無理な話だろう。
 そんな思いを見透かすように、花蓮は突然春馬の昔話を始めていた。
「あなたが高校二年生の時、咲良さんとオーブンキャンパスに行ったのよね? そこで、知らずに並んだ行列がお化け屋敷で……」
「何? その話、俺聞いたことない」
 潤が興味津々の顔をしているが、あの時の大失態をこんな奴らに知られたくない。たまらず春馬が遮った。
「そんな昔の話、掘り起こすなよ!」
「なら、妹の芽依さんの話にしましょうか。彼女、今斎藤っていう先輩に片思いしてるでしょ?」
 驚きのあまり、息が詰まった。この話は、芽依自身友達にも話せないと嘆いていた。つまり、本当の身内しか知らないはずだ。
「今日、芽依おばさん先輩に告白されて帰ってくる。今日の夜は、お祭り騒ぎになってるはずよ」
「あー、そういえばこっち来る前に叔母さん言ってたな。その時期に、行くのかって。恥ずかしいから、絶対会いに行くなとか、顔真っ赤にして叫んでたぜ」
 その話なら知っていると、潤が頷いていていた。
 
 もう何が何だか、わからない。
 この二人の話を聞けば聞くほど、頭がこんがらがっていく。脳みそは爆発寸前だ。
 そんな春馬を察した花蓮は、いった。
「今日は、もうこのまま帰って。そして、今言った出来事が、本当に起きたら、もっと詳しい話をあなたに話す。私たちとまた会ってちょうだい」
 花蓮はそれだけいうと、踵を返して歩いていく。
「じゃあ、また明日な。親父」
 花蓮の背中を潤が追いかけていくのを、ただ茫然と春馬は眺めていた。
 
 帰りの電車の中では、頭を働かせるための糖分が全部失われてしまったかのように、何も考えられなくなっていた。
 突飛なことを信じろと突きつけられているこの状況こそが、夢なのではないかと思えてくる。
 自分の頭がおかしくなってしまっているのではないだろうか。それとも、自分のことを親父と呼んでくるあいつらの頭がおかしいのではないだろうか。
 そんなことを悶々と考えていたら、危うく自宅最寄り駅を乗り過ごしてしまいそうだった。慌てて、電車を降りて、重くなった体を引きずりながら何とか家に帰る。
 玄関を開けるとリビングから、眩暈しそうな甲高い声が聞こえてきていた。

「お母さん! 私、斎藤先輩と付き合うことになったのよ!」
「え! 本当に? 芽依から告白したの?」
「それが、違うんだよ! 先輩も昔から私のこと好きだったんだって!」
 
 花蓮が予言していた会話が、そのまま繰り広げられていた。
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