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序章(仮)
戻れないんですね
しおりを挟むゆっくり深呼吸をして、振り返る。
今日も景色は輝いて、太陽はあの子を照らしてくれる。
「おーい、あかりー」
なんて笑いながら手を振ってくれるから、にへぇっと笑いそうになるのを必死で堪えた。
「あかり、玉川さんには会えた?」
「うん、電話して」
「ちゃんと謝れたんだ。えらいえらい」
「もう、ゆずははあたしのなんなのさ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でる手が心地いい。その優しさがうれしい。
近い距離にドキドキするから、その音が聞こえていないことをぜひとも願いたい。
「まぁ玉川さんも怒ってなかったんだけど、二人のお邪魔だったかなぁなんて言ってたから、謝らないといけないのは私なんだけどね」
「えっ、ほまな、そんなこと言ってたの?」
「うん。だから悪いのは割り込んじゃった私の方。ごめんね?」
「いやそんな、全然‥‥逃げちゃった私が悪いんだし」
誰が悪いとかの言い合いは、正直不毛なやりとりだと思っていたけど、昨日のは間違いなくあたしが悪くて。
「ちゃんと謝るよ」
「うん。そういえば昨日はなんで逃げ出したのか聞いてもいい?」
「ぇう?」
あ、変な声出た。
「なんか、玉川さんが私の名前を読んでから様子がおかしいなーって感じはしたけど」
「え、あ‥‥いや、」
な、なんて言えばいいんだろう。ほまながゆずはのことをあたしより先に呼び捨てで呼んだからって?いや、そんな重いこと言えんでしょうが。
「お、お腹が‥‥痛くなって」
「あんなタイミングで?」
「朝ごはん、傷んでたのかなぁ」
「朝はピンピンしてたじゃない」
ピシャリ。絶妙な間で言い返してくるゆずはに何も言えない。というか、ぐいぐい近づいてくるのほんとやめてほしい。心臓に悪い。
「‥‥ま、言えないならいいけど」
「い、いつか‥‥いつかちゃんと言うから!」
「はいはい、期待せずに待ってる」
「あぅぅ」
意地悪な笑み。本当に聞きたかったわけじゃなくて、どうやらからかわれたみたいだ。
「そんなに気にしてなかったんだけど、そこまで慌てられると逆に気になっちゃうな」
「そ、それは本音で?」
「さぁ、どうでしょう」
「意地悪だよゆずはぁ‥‥」
「内緒話してたお返しっ。ほら、早く学校行こうよ」
「わっ、ひっぱらないでよぉ」
握られた手が温かい。自分の顔に、熱がどんどん集まっていく。
知ってしまったら戻れない、甘い感情をあたしはもう、知ってしまった。
「好きだ‥‥」
下を向いて小さな声で呟いて。なぁに?と聞き返すゆずはに、なんでもないと笑ってみせた。
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