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世界が変わるとき
疲れたんですが
しおりを挟む甘くて鈍い恋の痛み。人はそれを幸せだと言ったりもするけど本当かなぁ。胸に手を当てて考えてみるけど、答えなんて帰ってくるはずもなく。
「早く漫画が読みたい……」
そこまで親しいとも言い難い友達を好きになってしまったらどうしたらいい?その友達が無自覚に迫ってきたらどうするのが正解なんだろう。
特に知識も経験もないあたしには、漫画だけが頼りの教科書だった。
「君も漫画、好きなの?」
HRもろくに聞かずにもんもんと考えていたら隣の席の女の子に話しかけられた。誰だろうなんて考えながら目をパチパチさせていると女の子は無邪気に笑った。
「ごめんごめん。私は玉川ほまな、この近くに住んでて漫画が好きなんだ」
「あぁ、あたしは星崎あかり、漫画はあたしも大好き」
「よろしく、あかり」
「えっ、名前……」
「あかりでしょ?ダメかな」
「ううん、嬉しい。よろしく、ほまな……さん」
呼び捨てで良いってばなんて笑われた。今は難しいけど、いつか呼びたいな。あたしが軽く挨拶をかえすと、ほまなさんは嬉しそうに身を寄せてきた。
「ね、あの子 可愛いね。同中だったの?」
「うん。朝波さんっていうの」
「名前は?」
「ゆずは だけど‥‥」
名前、初めて呼んだかも。しみじみ思っていたらどうやら声に出ていたようで。
「え、あかりたち苗字で呼びあってるの?」
しかもさん付け。信じられないものを見るような目で見られてしまった……。たしかに初対面で名前呼びに慣れてしまう人にはあたしたちの仲は不思議に映るかもしれない。
「けっこう仲良さげだったし、話してる時いい顔してたよ?」
「そ、そう?なんか友達の友達で友達になったって感じだから距離感とか分かんなくて」
「そんなんじゃだめだめ!距離感とか自然に縮まるもんなんだから考えたってキリないよ」
「そう、なのかな」
そういうものなのかな。中学生の時はみんな小学校からの仲だったから自然と仲良くなれたけど、朝波さんは少し遠い存在だった気がする。
「私もあかりともっと仲良くなりたいしゆずはさんとも話してみたい。友達ってそんな難しいもんじゃないんだよ」
「そう、か」
「友達作りも大事だが先生の話聞くことも大事だぞー?」
「「あっ……」」
気付けばクラスの視線はあたしたちに集まり、前には担任の先生が怖い顔の笑顔で立っていた。
「分かる分かる。私だって学生の頃は先生の話とか聞かなかったんだよなー」
「あ、じゃあ先生もおあいこってことで‥‥」
「最初のHRは高校生活のいろはが詰め込まれてるから覚えるの大変だったけど暗記してきたんだよ」
「ありがとうございます‥‥」
「玉川と、星崎な。放課後 草むしりで許してやろう」
「「えぅっ‥‥」」
高校生活の始まりは、いきなり恋をして、友達ができて、草むしりをするというなんともハードスケジュールとなって。
「でもなんか共同作業って楽しいでしょ?あかり」
「うーん。草むしりは楽しくはないけど……ほまながいるから楽しいかも」
「おっ、やればできるじゃん」
「改めてよろしくね、ほまな」
「もちろん。後でゆずはさんも紹介してよね」
「うん」
友達と一緒に、いい汗かいた気がする。朝波さんのことも名前で呼べるように頑張ってみよう。だって"好きなひと"だもん。
「朝波ゆずは……ゆずは、ちゃん」
なんにせよ今日は考えることが多すぎる。少し疲れてしまった脳と身体。これが終わったら朝波さんに癒してもらおう。
草むしりを淡々とこなしながら、そんなことを思っていた。
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