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世界が変わるとき
痛いんですが
しおりを挟む少女マンガならよく読んだ。青春マンガだって、ライトノベルだって読んできた。主人公が恋におちたり、好かれたりするものもある程度 読んできた私だったんだ。
「う、うーん……」
だけど、いざ自分が恋をしたとなるとイマイチ分からない。こう、ピンとこないんだ。朝波さんがそこにいるだけで世界は輝いて見えるしドキドキする。でも、そこからどうすればいいのかが分からない。
「星崎さん、やっぱり保健室に行った方が……」
「あ、あはは。大丈夫、です」
第一、あんまり親しいってわけじゃないんだよね。朝波さんは友達の友達で、一緒に遊んでたってだけだし。名前だって名字に"さん"付けなくらいだ。恋したのも初めてなのにこの絶妙な距離感のせいで混乱してしまう。
とにかく今日は家にある少女マンガ全部読もう。なにかヒントがあるかもしれないし。
「そういえば朝波さんは席 一番前だよね?」
「そーなの。ちょっと憂鬱」
「あたしは一番後ろだし、ちょっと離れちゃったね」
「ほんとだ。慣れるまではこっちに遊びにこよっかな」
それはありがたいようなありがたくないような‥‥。いや、嬉しいんだけどドキドキしちゃって休めない気がする。今でさえ心臓は休みなく脈打ってるわけで。朝波さんの存在はあたしにとって癒しでもあると同時に緊張の対象になってしまった。
「遊びにきてくれるなら助かるよ。あたしも心細いかもだし」
まぁそんなこと言えるはずもないので無難に返しておいた。ほんと、あたし弱いなぁ。
「一番前だし、出席番号も一番だし。自己紹介とかなに話そう」
「好きな食べ物とか?」
「星崎さんてチョイスが無難だよね」
「はは……」
おっしゃる通りです。
「でも好きな食べ物かぁ。食べるの好きだから選べないな」
「美味しいものって多すぎるよね」
「お菓子とかだとじゃーりことか冷蔵庫に入れたの好き」
「え、じゃーりこってあのじゃーりこ?」
「そうそう、中の空洞部分に冷気がたまってガリって食べるの。夏とか最高だよ」
へー、そうなんだ。また試してみよう。それにしても朝波さん、好きなことに関してよく喋るし幸せそうだなぁ。これは明日の登校は大丈夫そうかな。
「星崎さん、緊張してる?」
「へ?!あ、う…うん」
あなたに、ですが。
余計なことを言いそうになるからすぐ口を閉じる。変にツッコまれでもしたら大変だ。
「なら特別に私のとっておきなおまじないを教えてあげる」
「おまじない?」
「そ。まず胸に手を当ててー」
「ちょ、ち、近いよ」
「気にしない気にしない」
いや、気にするよ!ここら辺って教えてあげた方がいいでしょ?って笑いながら朝波さんはあたしの胸の近くへと手を伸ばす。正直、緊張をほぐすどころじゃない。
「深呼吸して、息を止めて」
「(だから近いってばもう!)」
「私の目を見る」
「へっ……?ぁて!」
まさかの手順に少し驚にながら彼女に目を向けると、それはそれはきれいなデコピンをかまされた。
「星崎さん、せっかく可愛いんだからその眉間のシワ、取っといた方がいーよ」
「な、え……だましたの?!」
「失礼な。緊張とれたでしょ?」
そうだけど。そうだけど、そうじゃない。鳴り響くチャイムにやばっなんて声出して席へと戻る後ろ姿を、引き止めたくなってしまう。抱きしめたいと思うなんて、あたしはちょっとおかしいのかな。
「痛い……」
おでこに残る鈍い痛み。でもそれ以上に、心臓がドキドキしすぎて痛かった。
「あたし、好きすぎでしょ……」
高鳴る胸に少し落ち着いてほしいと願いながら、ほんのり甘いこの気持ちが少し幸せだななんて考えた。
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