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世界が変わるとき
知らないんですが
しおりを挟む申し訳ないけど少しだけ気まずい初登校を終え、おそらく人生で一番遠く感じた距離を歩ききった。
「わぁ……!」
「すごいね……」
見た瞬間、さっきまでの無言がウソのようにお互い声がもれた。試験で一度きたことはあるけどその時は余裕なかったし。じっくり見るのは初めてかも。校舎が大きくて、まだ少し新しい。数年前に 新設したばかりだって言ってたっけ。
「大きい!広い!」
「きれいだし、よく整備されてるね」
「整備?」
「ほら、あの庭園とか花壇とか丁寧にしてる」
「ほんとだ。花とか好きなの?」
「うん、好き」
あたしには名前も分からないような花を見つめながら、幸せそうな顔で笑う朝波さん。けっこう一緒にいたつもりだったけど、花が好きだなんて知らなかった。あたし、朝波さんのこと何も知らないんだなぁ。美人でかっこいいから、ファンが多いっていうのは知ってるけど。
あたしは花とか嫌いじゃないけど、見るより描く方が好きかな。葉っぱとか描くの好きだ。
「星崎さんは見るより描くほうが好きでしょ」
「え、顔に出てた?」
「んーん。なんとなく」
ー好きそうな気がしたから。
少しいたずらっぽく微笑まれて、ドキッとしてしまった。
「ん……?」
「どうしたの?」
ドキッとって、なに。なんか変な感じが。胸のあたりに手を当てる。
「いや、なんか」
なんなんだろう。顔が熱くて、心臓がうるさくて、そして。
「うん?」
「世界、が」
世界が、輝いて見える。朝波さんの周りの世界が輝いて、風が彼女のために吹いているみたいに。
「あれ?」
「どうしたの星崎さん。なんか変だよ」
たしかに変だ。周りを見渡してもなんともないのに、朝波さんの周りだけ世界が変わって少し眩しい。これってなんだろう。まだドキドキうるさい心臓に静まれと願いながら胸を掴むけど、悲しいことになにも変わらない。
「んー、少し歩いたから暑くなっちゃったのかも」
「大丈夫?保健室いくなら付き合うよ」
「いやいや、そこまでじゃないよ」
「そう?」
大丈夫、何にもないよ。自分にも朝波さんにも言い聞かせるように。別に身体は悪くないし、熱だって朝は平熱だった。よく寝たし、朝ごはんもちゃんと食べたんだ。
間違いだと思いたい。気の迷いだと言い切りたい。だけどどうしても無理みたいで。
「顔、紅いよ?」
漫画の世界でおなじみのセリフを言われ、無防備にもおでこにコツンと彼女のそれを当てられる。取り繕う言葉とか、この場をやり過ごすきっかけさえ見つからない。だけど、答えだけは はっきりしていた。
「それはあたしがよく知ってる」
どうやらあたしは単純にも、朝波ゆずはに"恋"をしてしまったらしい。
だれでも最初は初心者で、分からないことはない方が珍しい。だけどこれは難しすぎる。友達というのも少しためらうような存在。そんな相手に恋をして、どう接すればいいものか。
「知ってるけど……知らないや」
「なにそれ」
こんな感情の収め方をあたしは全く知らないんだ。分からないことだらけの中で、あたしは"友達に恋をした"という事実だけがあたしの胸に残された。
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