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世界が変わるとき
初めてなんですが
しおりを挟む新学期って心が踊って、通学路さえワクワクしてしまう。
あたし、星崎あかりはなんとも言えない高揚感に浸っていた。
知らないことばかりの中で自分を学校に連れて行ってくれる目印とか、これがいつか思い出になるのかぁなんて軽く考えたら、少し笑みがこぼれる。
「はぁ、これで友達が隣にいたら最高なんだけど」
制服が可愛いからとか、部活が強いからとか。あたしにはそんなオシャレ願望も高い目標とかもなくて。ただ、絵が描けたらいいななんて工業高校を選んだ。
合格して喜んだはいいものの、仲良い子だけでなく少し話すくらいの子まで違う高校を選んでいて。結局、あたしと同じ中学校からきた新入生はごくわずかだった。
「朝波さんは一緒だっけ‥‥同じクラスだといいなぁ」
同じ中学の朝波ゆずは。彼女は中学1年の秋に転校してきたからそこまで仲は深くないけど、今のあたしにとっては貴重な話し相手だ。連絡先の交換してなかった自分の迂闊さをのろってしまう。おかげで高校生活 最初の1日は一人で登校することになってしまった。
「まぁ家とか行ったことはあるけど、道や家の形おぼえてないし‥‥学校で会えるか」
残念ながら記憶力があまり良くないあたしは一度や二度遊んだくらいじゃ相手の家を思い出せない。あたしの家から遠かったのは覚えてるけど。
周りを見渡せば大きな木々と穏やかな公園。ハトがいるのって平和な感じするよね。スケッチしてる人がいたから、何を描いていたのかまた今度きいてみよう。
「あたしもスケッチブック持ち歩こうかな。この辺、猫とか多いし」
白っぽいのに、黒いの、あとシバトラ?あんまり詳しくないけど、ここらへんはのどかで好きだなぁ。
「あれ?」
寝転がる猫たちに癒されながら歩いていると、前方に同じ制服を着た女の子が歩いていた。腰まである長い綺麗な髪、背筋を伸ばした上品な歩き方。
「あれって‥‥もしかして」
癒されていた猫たちに手を振って、その背中を追いかける。少しだけど、その背中には見覚えがあった。
走りながら近づくと、その女の子は不審に思ったのか強い目つきで振り向いた。顔を見て確信する、やっぱりそうだ。
「朝波さん!」
「あれ?星崎さん?」
手を振って駆け寄ると、彼女__朝波ゆずは は柔らかい表情で手を振り返してくれた。
「びっくりした‥‥新学期 早々に闘わなきゃいけないのかと」
「あはは‥‥大人しく逃げることも大切だよ?」
冗談やとっさの態度とか少し男勝りなところもあるけど、友達と話したりする時に見せる笑顔は女の子らしくて可愛いと思う。ギャップって言うのかな、ちょっと憧れるかも。
「会えてよかったよー、一人じゃ心細くてさぁ」
「私も。星崎さん、この近くなの?」
「んーん。けっこう離れてるかな」
「そっか、じゃあ偶然だね」
本当によかった。あのままずっと歩いてたら独り言しか言えなかったし、何より景色の綺麗さとか話せなかった。クラス表も一人で見るのはなんかさみしいし。
「朝波さんのおかげで良いスタート切れた気がするよ」
「大げさだなぁ」
そんな笑い話をしながらあたしたちは並んで。
「じゃあ一緒に行こうか」
「そうだね」
ゆっくり学校へ向かった__ん、だけど……。
「‥‥」
「‥‥」
「あのさ」
「うん?」
「あー……なんでも、ないや」
「そっか」
そういえば知ってる人に会えた嬉しさで忘れてたけどあたしたち、"二人きりで話すの"は初めてだった気がする……。
どうしよう、何はなしたらいいのかわかんないし朝波さんの趣味もよく知らない。
「(き、気まずい……)」
なんとも言えない空気の中、いつのまにかあたしは景色の良さとかを話すことも忘れて、ただ学校へだけ目指して歩いていた。
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