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視線のさき
2話ー2[清水の視線]
しおりを挟む葛城つららのことを、昔から見ていた。見ていたからこそ、不思議だった。
「お嬢さま、楽しそうですね」
「そうね、悪くない気分だわ」
悪くない、どころではなくかなり楽しそうだ。本人には抑えているつもりらしいが残念ながら隠せていない。
「へー、車 大きいね。ちょっとした電車みたい!」
「こちらで体をお拭きください。えっと……」
「あ、ゆうみです。雨谷ゆうみ」
「ではこちらを、雨谷 様」
ゆうみは清水からタオルを受け取ると嬉しそうに頭を拭きだした。まずその制服をどうにかしなければ変わらないと思うのだが‥‥ゆうみが幸せそうなので黙っておいた。
「清水、制服はいつ届くの?」
「学園に着く頃には届くかと」
「あはは、何から何まで……ありがとうございます」
幸せそうなのはいいことだけど、あのまま学園に行っていればゆうみは間違いなく風邪を引いていただろう。主人が誰かに興味を持ってくれたことは嬉しいが少し不安な人材かもしれない。はたから見れば自ら濡れに行く趣味嗜好を持った変人だった。
「それで、あなたはなぜ濡れながらも走っていたの?」
そこ切り込みますか。ツッコミたくなるのを抑えて主人の言葉に耳を向ける。質問だけ聞けば変な感じだけどそれが清水たちの見たゆうみの姿だ。雨の中 神様と太陽、雨に感謝し、笑顔で走る衝撃映像。なかなか見過ごせるものではなかった。
「なんでって……家をでたら素敵な1日になりそうだなーって思って。雨が降ってしまったならそれも運命かなって」
笑顔で少し照れたように。そう話すゆうみに清水は呆れ気味な視線を向けたがつららは違った。
「そう……すごいのね」
まるで宝物を見るかのように、ワクワクしたような輝かしい瞳をゆうみへ向けていた。
「いやぁ、へへ」
笑うところなのだろうか。照れるところなのだろうか。清水にはいまいちわからなかった。
「あなた、あたしと同じ学校でしょう?よかったら話を聞かせていただけないかしら」
「私の話?面白いのあったかなぁ」
いやもう登場からおもしろかったと思いますよ。弾けそうなくらいのポジティブ思考だったのになぜそこで自信が持てないんだろう。
「えぇ、きっとあなたの話を聞けたらあたしの世界は変わると思うの」
言いたいこと、聞きたいこと、ツッコミたいこと。出したい言葉はたくさんあるがとりあえず。
「お嬢さまはいつもつまらなそうですもんね」
大好きな主人が目を輝かせて笑っている。その事実に感謝しよう。
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