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学力向上計画〜勉強がしたいのにこの部屋の持ち主がやたらと話しかけてきて困ってます〜

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【登場人物】
朝景ひなた……高校1年生。勉強熱心で特待生の女の子。妹が大切で、バイトを週7で入れようとしたら止められた。

姫島あらた……高校1年生。勉強が得意でひなたの幼なじみ。クレープが好きでよく焼いている。



 雑音が耳に入る。
 静かにしてほしい。私だってそう暇じゃないんだよ。

「ねぇひなたぁ、ちょっとはかまってよー」
「うっさいわよ、あらた」

 私、朝景(あさかげ)ひなたはため息を吐いた。
 うるさい、本当に横でうるさすぎる。

「だってせっかくひなたがこの部屋にいるのにもったいないじゃん」
「あんたがいるって知ってたら来なかったよ」
「釣れないこと言うなよなー」

 姫島(ひめしま)あらた。
 幼なじみで同級生。こいつはいつも私の勉強の時間を邪魔してくる。
 程よいライトに参考書、広い部屋に大きな勉強机。学習するにはこれ以上にない好条件。
 正直、家で自分の部屋がない私にはありがたいものだった。

 ーーこいつあらたがいること以外は。

「てかここあたしの家だし」
「一人暮らしだから勉強したいならうちに来なよって言ったのは誰だったかしら」
「あたしじゃないな!」

 いや、あんたよ。
 妹と2人一緒の部屋じゃどうしても集中できないという悩みを解決してくれたのは感謝しよう。この部屋は勉強するには快適で、息抜きの音楽なんかも充実してる。
 ただうるさいのだ。この部屋の住人が。

「私は勉強しに来てるのにそう毎回話しかけられたらやってらんないわよ」
「2時間に一回くらいしか話しかけてないけど」
「私の集中力は5時間もつわ」
「えー? この前テレビで人の集中力はせいぜい1時間が限界って言ってたよ」
「テレビじゃなくて自分を信じれば限界なんて突破できるのよ」
「それ結局無理してるじゃん!」

 あぁうるさい。これなら図書室や図書館のほうがいいんじゃないかと思ってしまうほど騒々しい。

「あらたは勉強しなくていいの?」
「あたしはあんまりなぁ」
「なんであらたって勉強嫌いなくせに成績だけはいいのかしら」
「天才肌ってことかなぁ」
「黙りなさい」
「急に冷たい!」

 別に、私だって勉強は好きじゃない。遊んで騒いで、クレープ食べたりして青春を謳歌したい気持ちはある。
 だけど、そうもいかない人だっているのだ。いい成績をキープしないと、学費さえ払えない、とか。

「っと、じゃあそろそろ行くね」
「やっと行ってくれるのね」
「えー、ひどいなぁ」

 苦笑いして手を振りながら去っていく。     
 自分の部屋を幼なじみとはいえ誰かに貸すなんてどんな気持ちなんだろう。そんな余計なことすら考えてしまう。

「またあいつがくる前に進めておかなきゃ……」

 2時間に一回。それは、私がペンを置くくらいのタイミング。狙ってやってるのか分からないけど、ちょうど疲れてきたあたりに現れんだっけ……。

「まぁ、感謝してあげなくもないけどね」

 次来るときはもうちょっとかまってあげてもいいかもしれない。
 そんなことをふと思ってみたりした。


☆☆


 人の集中できる時間はそう長くない。好きなことなら別かもしれないけど、テストの勉強ともなれば余計にそうは持たないだろう。

「ひなたは無理ばっかりしちゃ言うからなぁ……」

 頑張るのはいい。無理をしてしまうのも、たまにはいい刺激になるだろう。
 でも、頑張り続けて、無理をし続けたら、いつか壊れてしまう。それをひなたは知らないんだ。
 小さい妹のためならと頑張り続けるひなたの背中は誰よりもかっこよくて眩しいけど、いつからか、見ていられなくなってしまった。

「さて、次のお邪魔時間まで何しようかなぁ…復習はもう終わったから…予習して、おやつでも作ってあげようかな」

 いつか、いつかでいい。
 小さかったあの日のように、人生の先なんて気にしないで純粋に“自分の人生”を謳歌できる日がきたら。
 もっとあたしを見て、たくさん笑ってよ。目に隈なんて作らないでさ。

「あたしもひなたに負けないようにしなきゃね」

 それまでこの気持ちは胸の奥にしまっておくんだ。
 温かい気持ちと高揚感。少しだけ、切なさを含んだ気持ちを抱きしめながら、1人で使うには大きすぎるダイニングテーブルへ。
 たくさんの参考書を開きながら、ゆっくりとペンを持った。
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