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あの日の話

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昔から、よく転ぶ子だった。
小さな石につまずいて、よそ見をしていて、時には何もないところでの時もあった。

「おねぇちゃんはもっと私を見るべきだと思うなぁ」
「はいはい」
「む、子ども扱いはやめて」
「わ、分かったから前見て歩いてよ‥‥」

トテトテと私の後を小さな足で一生懸命付いてくる姿が可愛かった。そんな姿が残っているから、最近のみゆはなんだか苦手だ。

「なんでそんな離れて歩くの?」
「みゆの距離感近すぎるの!帰ったらどうせベタベタしてくるんだから外では離れてて」
「ベタベタって‥‥ほんとムードないなぁ」

平凡に生きてきた20年。まさか、20歳の誕生日に妹のように可愛がってきたお隣さんに求婚されるなんて、誰が予想できただろう。

「みゆのこと、嫌いじゃないのに‥‥」

小さな、小さな声で本音が漏れた。
まだ私は、昔みたいに一緒にお菓子を買いに行ったり、公園で遊んだりしたいと願ってしまう。
恋とか、結婚とかを抜きにして。

「はぁ‥‥あれ?」

どうやらボーッとしていたらしい。気付けばみゆはけっこう先に行ってしまっていた。あぁ、追いかけなきゃなんて、走り出そうとしたとき。

「!!」

しゃがみ込むみゆの姿。もしかして、まだ転けちゃうクセは直っていないんだろうか。

「みゆ!」
「‥‥りいなちゃん?」

急いでみゆの元へ駆け寄って、声をかけた。すると、みゆの手元には、靴紐が握られて‥‥。

「靴ひも、結び直そうとしただけ」
「っ!」

ボンっなんて、顔から火が出そう。なんだか勘違いをしてしまったみたいだ。

「そ、そっか」

恥ずかしいからと急いで距離を取ろうとしたけど、その瞬間に、ガシッと手を掴まれてしまった。

「み、みゆ?」
「転けちゃうクセはもうずっと前から直ってるよ」
「わっ」

ぐんっと手を引かれ、勢いのままキスされる。それだけでもう、身体が熱くなるから変だ。

「っ!」
「大丈夫、誰も見てないよ」

べっと舌を出して笑うけど、やっぱり外ではやめて欲しい。‥‥いや、家でもやめてほしいけど。

「な、直ったならいいよ」
「だっておねぇちゃん‥‥りいなちゃん、私のこと心配してワンワン泣いちゃうんだもん」
「う、だ、だってみゆ、いっぱいケガしちゃうし!」
「そういうとこ、可愛い」
「ん、んん‥‥」

うっとりした目で見つめられて、またキスをされる。だから、外ではやめていただきたい。

「好きだよ、りいなちゃん」
「‥‥外ではキス禁止」
「えぇ~?」

急に何するの。しかも2回も。
もうって怒りながら頰をつねる私を見つめながら静かに笑うから調子が狂う。

「じゃあ最後にもういっかい」
「ダメだってば!」

ちぇー、なんて笑うその顔は、無邪気で可愛くて、守りたいとさえ思うのに。

「はぁ‥‥」

早くこの関係を終わらせて、昔みたいに遊べたらいいのに。


そんなことを今さら、願ってしまった。
私が一番それを望んじゃいけないと知っているから、今日もこの気持ちは隠していこう。


「みゆ、早く帰ろ」


冷たい風が、後ろめたい私を押してくれているみたいだった。
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