モブに光あれ〜私の推しは身近にいるので毎日幸せです〜

山奈みちかは天に誓う

雨が、降っていた。
別にザーザー降りじゃない、ちょっとした雨だ。ただ、濡れて帰れるようなものでもない。

「かすみ、傘ちゃんと持ってるの？」
「もちろんだよ、りあちゃん」

私、山奈みちかは天に感謝しました。
私の友達、小泉かすみとクラスの人気者、和泉りあは今日も一緒に帰るらしい。
雨よ、ありがとう。そして推しは当然のように一緒に帰りだすから息するのがつらい。尊い。

「ゴンちゃん」
「……私はゴンって名前じゃないって何回言わせんのよ……」
「ゴンちゃん今日、傘もってる？」
「傘？　持ってないよ。持っていこうとしたらいらないって言ったのみちかじゃない」

ごめんなさい、私は今日……悪い子になります。

「私、忘れちゃったんだ」

自分の持ってきた折りたたみ傘を、見えないようにカバンの奥へと押し込む。
あぁ、ごめんなさい。我ながらなんて罪深いウソなんだ。

「はあぁ？！　み、みちかが今日は傘いらないって教えてくれたのに……」

ゴンちゃん、大丈夫だよ。
私は悪い子だけど、ちゃんとゴンちゃんを雨から守ってあげるから。

「かすみちゃん！」
「どうしたの、みちかちゃん」
「あの……ごめんね？　私、傘忘れちゃって……」
「えぇっ？　みちかちゃんちってけっこう遠かったよね？」
「うん……そうなの、だからーー…！」

傘を、貸していただけないでしょうか。
推しが並んでいる空間に飛び込むのは容易ではなくて、思わず敬語になってしまった……。

「それは大変だね…りあちゃん、傘一緒に入れてくれる？」
「まぁこの雨だし……その子も困ってるよね。いいよ」
「ありがとうりあちゃん！」
「ちょ、抱きつかないでよっ」

あぁぁぁぁ。
どうしたことですかこれは。
夢か、これは夢ですか。
尊い……ありがとう、ございます。

「助かりました……かすみちゃん、和泉さん。ありがとう……」
「え、なんで泣いてるのみちかちゃん！」



今日も今日とて雨は降る。
私、山奈みちかは天に誓う。

たとえウソをついて悪い子になってしまおうとも、推しの存在だけは守り抜いてみせますと。