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番外編

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 このところ、魔王様が妙にあどけなく見えることがある。

 おにいと話をしてから、わたしの生活は元に戻った。
 朝起きて、魔王様を見送り、帰ってきたら夕食をともにして、風呂に入り。隣り合ったベッドで眠る。
 たまに、同じベッドで眠ることもある。
 うん、まぁ、そういう感じになりまして。えへへ。

 まるでサラリーマン夫を家で待つ妻のようだ。
 そう思ったらなんだか面白くなって、一度、冗談で魔王様が出かけるときに「いってらっしゃい、あ・な・た」とにっこりと上目づかいをした。
 ほっぺたにちゅうもしたかったが、さすがに背が届かないのであきらめた。
 魔王様は無言で部屋を出ていったが、次の朝から、扉から出ていく直前にわたしの前に立ち、そわそわと待っているようになったのだ。
 なんだかかわいくてキュンとしてしまう。

 そんな朝の一場面もあってアツアツラブラブかと思いきや、わたしたちの関係はけっこうドライだ。
 魔王様ったら、ヤることヤッてるのに、わたしに対して甘いことは一切言わない。
 いまだにしょっちゅうジト目を向けられる。
 魔王様のジト目けっこう好きだから、まぁいいけど。


 そういえば、魔王様かわいい逸話で、こんなこともあった。

 わたしがメイド美少女に採寸をされて、ドレスを作ってもらった話。
 出来上がった服は、わたしの希望通り、襟ぐりが胸ぎりぎりまであいていて、胸のふくらみの三分の一は出ているし、谷間も見えるドレスだった。
 胸のすぐ下で切り替えしがあって、ウエストがキュッと絞られている。そこから腰までは身体のラインに沿うように、腰から足首まではたゆたうように、滑らかな生地が落ちていく。

 腰と胸がバーンなわたしの体型が生きるドレスで、とても気に入った。
 なので、報告とお礼を兼ねて、夕食のときに着ていくことにしたのだ。

 夕食は、寝室の隣の隣、ダイニングルームへ移動する。
 部屋と部屋が室内の扉でつながっているので、廊下へ出る必要もない。

 魔王様は先に席についていた。

 ダイニングルームに入り、席に向かって歩き出そうとしたら、裾を踏んづけてしまい、ドレスの、ただでさえ開いていた襟ぐりが、ぐん、と下に引っ張られた。
 ぶるん、とおっぱいが、飛び出した。
 なんてタイミング。
 あわてて顔を上げると、魔王様はしっかりこちらを見ていた。
 魔王様、ラッキーすけべだな、なんて思う心の余裕はなかった。
 なにごともなかったかのように、そそくさと乳をしまって、魔王様の正面に腰かけた。

 だからブラが必要なのに!
 いや、ここで怒ってはいけない。見せられたほうもいい迷惑のはず。

「お待たせしました。」
 わたしは普通にあいさつをしたが、魔王様の視線は、いまだわたしの胸の位置に釘づけである。
 まさか、あんな安っぽいシチュエーションに、この魔王様がハマってしまうわけはあるまいに。
 そんなに熱っぽく見られると、居心地が悪い上に乳首が固くなってしまいそうだ。やめてくれぇー。

 おい、ほんとにいつまで見てんだよ。
 お返しに魔王様の股間のあたりを凝視してやろうか。あ、テーブルに隠れて見えないか。

 しかしわたしは大人だ。それとなく「見んなよ」と指摘してやることにした。
 魔王様の視線を追って自分の胸に視線を落とし、何かおかしいことがありましたか?とでもいうように首を傾げて見せた。

「お前、胸の位置が少し下がったか。」

 暴言だ。暴言である。
 言うに事欠いて、わたしが気にしていることを言いやがった。

 これは巨乳の懸案事項の一つである。
 巨乳と垂れない張りのある乳は永遠の二律背反であり、テーマ、いや、テーゼである!

「ふぅん?」
 わたしは魔王様からの挑戦(?)に奮い立った。

 この余裕の魔王様の表情を崩してやりたい。
 いま魔王様が垂れたと評したこの胸を、どうか触らせてくださいと懇願させ、ひざまずかせてやりたい。

「下がったかどうか、触って確かめてみます?」
 わたしは身を乗り出して、谷間を主張した。

 魔王様は少し考えるふりをしてから「そうさせてもらおう」と返事をして席を立った。

 かかったな!
 わたしは目を光らせた。

 女のパイパイをモミモミするために、いそいそと机を回り込んでくる魔王様は、まるでおもちゃを前に気がはやる子どものようで、間抜けでありながらどこか可愛らしい。
 魔王様が目の前に来たところで「やっぱりダメェー」と突っぱねて、ふふんと鼻で笑ってやろう。
 そう企んでいたのに、魔王様は一枚上手だった。
「やっぱ」と口にした途端、身体が宙に浮いた感覚があり、ドサッと寝台の上に落とされていた。

「え?え?ちょっ‥‥」
 戸惑っているうちにドレスを首元までまくりあげられ、思う存分堪能されてしまうのだった。

 最初はいやいやと身をよじっていたが、一心に胸にむしゃぶりつく魔王様の様子に、なんとも言えないあどけなさを感じ、わたしは「もう!」と呆れたふりをして溜飲を下げた。


 結局、最後はいつもの通りノリノリでした。ちゃんちゃん。

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