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結
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※ ※ ※
ベッドのクッションに背を預けた王太子の裸の胸に頬をつけて、くたりともたれかかっていた。
シーツに覆われたその下で、裸のまま寄り添っている。
お互いに無言のまま、たまにいたずらに背中をくすぐる彼の指に「んっ」と身をよじる。
その指は、わたしの髪も気まぐれにもてあそぶ。
普段開かない位置まで股を開かされていたので、股関節がギシギシになっていたけれど、満ち足りた気持ちだった。
満腹の猫のように、身体のどこにも力を入れてない状態で王太子に預けきる。
王太子の胸は広くて力強くて、すっぽりと包まれるようで安心する。
マリアの話をしようと口を開きかけて、そのまま閉じた。
現実的な話をするには、もったいないほどゆったりとした時間だ。
ここで他の男の名前を出すのは、ひどく場違いに感じた。
マリアのことなんか考えたのが悪かったのか、ちょうどそのとき、そんな気持ちを無にする声がした。
「あーあ、もう仲直りしちゃったの?」
唐突に、王太子とわたししかいないはずの部屋に第三者の声がしたのだ。
王太子はバッと身体を起こして、わたしを背後に隠す。
彼の手にはいつの間にか抜き身の短刀が握られていた。
身を守るために常に身近に置いてあったのだろう。
「マリア!」
いつの間に部屋に入ってきたのか、部屋の入り口近くの壁にもたれかかり、腕を組んでいるマリアがいた。
「せっかく引っ掻き回したのに。案外早かったね」
ニヤッと笑って、
「〝お嬢さま〟ったら俺のベッドを抜け出して、こっちのベッドでも試すだなんて、好きものだなあ。で、どっちがよかった?」
わざと王太子を煽るようなことを言うマリア。
こちらも負けていなかった。
短剣の構えを解かないまま、
「そちらのベッドから逃げ出してきたようだが?よほど悪かったようだな」
とわたしの代わりに王太子が答える。
マリアは壁から背を離して、
「殿下ったら、あたしにメロメロかと思ってたのに」
と唐突に女の声を出した。
男だと知っていても、少し低いハスキーボイスは色っぽい。
「気持ち悪い声を出すな」
王太子は言い捨てて、腕を伸ばしてわたしにかけたのは別の布を引き寄せ、下半身を隠す。
それから、わたしをシーツでぐるぐる巻きにして抱(かか)えた。
かろうじて目鼻口が出ているが、それ以外はマリアの目から隠れている。
「知ってる。殿下の嘘なんてお見通しだもん。それに付き合ってあげたのよ」
ふふ、とマリアが笑う。
再び男の声に戻って、
「でもかわいかったなあ、落ち込む〝お嬢さま〟」
とウットリと目を細めた。
婚約者に冷たくされても平気そうに振舞っちゃって。でもよく見ると肩が落ちてショボンてしてるんだよね。殿下とおしゃべりする俺を涙目でじっとりと睨んでくるとこなんて、すっごくムラムラきたね。
マリアの告白にドン引きした。
「もっと助長してやればよかった。うまい具合に亀裂が入ったと思ったけど、足りなかったみたいだね」
「いい加減にしてちょうだい。おもしろがってやっていいことじゃないわ!」
みのむし状態では迫力も出ないが、わたしは精一杯胸を張って怒鳴った。
「おもしろがってなんかないよ!本気であんたが好きなんだ」
マリアの語気が予想外に強かったので、たじろんでしまって「だって、そうは見えないわ」と返す声が思わず弱くなった。
すでに身体の秘密の場所をあばかれた相手に対して、無意識に弱くなってしまっているのかもしれない。
王太子がわたしの身体を抱く力が強くなって、少し痛い。
手の力を緩めてもらおうと身体をよじると、今度はしっかりと抱え込まれて、王太子の肩に頭を押し付けるかたちで後頭部を固定された。
身体は痛くはなくなったものの、これではなにも見えない。
「ねえ、ほんとに王太子でいいの?」
ささやく声は、すぐ後ろで聞こえた。
振り返ろうにも、後頭部を押さえつけられていて振り返れない。
マリアがすぐ後ろに来ている。
その証拠に、わたしの後頭部と背中をおさえる王太子の手とは別に、わたしの両肩に置かれている手の感触がある。
「だってさあ。俺はさ、お嬢さまのショボンて姿だとか涙目で睨んでくるとことかにムラムラしちゃうわけ。でも殿下はさ‥‥」
一度言葉を区切り、間をあけるマリア。
「怒りで滾(たぎ)っちゃうタイプでしょー?」
いかりでたぎる?
マリアの言っている意味がよくわからない。
わたしに対してしゃべりかけている態(てい)で、実は王太子に向けた言葉なのだろう。
(わたしを素通りして2人で会話をしているなら、わざわざ気にする必要もないのか)
わたしは、ふう、とため息をついた。
どうせもう運命に抵抗する気力はない。
大人しく破滅を待つ身なのだから、彼らがなにを思うかにわずらわされず、最期くらい心静かに過ごしたい。
(思えば、ずっと気を張った生活だったわ)
城に上がって記憶が戻ってからこれまで、気が休まるときがなかった。
苦しかった日々も、今となっては懐かしい。
わたしはやれるだけのことはやったのだ。
ベッドのクッションに背を預けた王太子の裸の胸に頬をつけて、くたりともたれかかっていた。
シーツに覆われたその下で、裸のまま寄り添っている。
お互いに無言のまま、たまにいたずらに背中をくすぐる彼の指に「んっ」と身をよじる。
その指は、わたしの髪も気まぐれにもてあそぶ。
普段開かない位置まで股を開かされていたので、股関節がギシギシになっていたけれど、満ち足りた気持ちだった。
満腹の猫のように、身体のどこにも力を入れてない状態で王太子に預けきる。
王太子の胸は広くて力強くて、すっぽりと包まれるようで安心する。
マリアの話をしようと口を開きかけて、そのまま閉じた。
現実的な話をするには、もったいないほどゆったりとした時間だ。
ここで他の男の名前を出すのは、ひどく場違いに感じた。
マリアのことなんか考えたのが悪かったのか、ちょうどそのとき、そんな気持ちを無にする声がした。
「あーあ、もう仲直りしちゃったの?」
唐突に、王太子とわたししかいないはずの部屋に第三者の声がしたのだ。
王太子はバッと身体を起こして、わたしを背後に隠す。
彼の手にはいつの間にか抜き身の短刀が握られていた。
身を守るために常に身近に置いてあったのだろう。
「マリア!」
いつの間に部屋に入ってきたのか、部屋の入り口近くの壁にもたれかかり、腕を組んでいるマリアがいた。
「せっかく引っ掻き回したのに。案外早かったね」
ニヤッと笑って、
「〝お嬢さま〟ったら俺のベッドを抜け出して、こっちのベッドでも試すだなんて、好きものだなあ。で、どっちがよかった?」
わざと王太子を煽るようなことを言うマリア。
こちらも負けていなかった。
短剣の構えを解かないまま、
「そちらのベッドから逃げ出してきたようだが?よほど悪かったようだな」
とわたしの代わりに王太子が答える。
マリアは壁から背を離して、
「殿下ったら、あたしにメロメロかと思ってたのに」
と唐突に女の声を出した。
男だと知っていても、少し低いハスキーボイスは色っぽい。
「気持ち悪い声を出すな」
王太子は言い捨てて、腕を伸ばしてわたしにかけたのは別の布を引き寄せ、下半身を隠す。
それから、わたしをシーツでぐるぐる巻きにして抱(かか)えた。
かろうじて目鼻口が出ているが、それ以外はマリアの目から隠れている。
「知ってる。殿下の嘘なんてお見通しだもん。それに付き合ってあげたのよ」
ふふ、とマリアが笑う。
再び男の声に戻って、
「でもかわいかったなあ、落ち込む〝お嬢さま〟」
とウットリと目を細めた。
婚約者に冷たくされても平気そうに振舞っちゃって。でもよく見ると肩が落ちてショボンてしてるんだよね。殿下とおしゃべりする俺を涙目でじっとりと睨んでくるとこなんて、すっごくムラムラきたね。
マリアの告白にドン引きした。
「もっと助長してやればよかった。うまい具合に亀裂が入ったと思ったけど、足りなかったみたいだね」
「いい加減にしてちょうだい。おもしろがってやっていいことじゃないわ!」
みのむし状態では迫力も出ないが、わたしは精一杯胸を張って怒鳴った。
「おもしろがってなんかないよ!本気であんたが好きなんだ」
マリアの語気が予想外に強かったので、たじろんでしまって「だって、そうは見えないわ」と返す声が思わず弱くなった。
すでに身体の秘密の場所をあばかれた相手に対して、無意識に弱くなってしまっているのかもしれない。
王太子がわたしの身体を抱く力が強くなって、少し痛い。
手の力を緩めてもらおうと身体をよじると、今度はしっかりと抱え込まれて、王太子の肩に頭を押し付けるかたちで後頭部を固定された。
身体は痛くはなくなったものの、これではなにも見えない。
「ねえ、ほんとに王太子でいいの?」
ささやく声は、すぐ後ろで聞こえた。
振り返ろうにも、後頭部を押さえつけられていて振り返れない。
マリアがすぐ後ろに来ている。
その証拠に、わたしの後頭部と背中をおさえる王太子の手とは別に、わたしの両肩に置かれている手の感触がある。
「だってさあ。俺はさ、お嬢さまのショボンて姿だとか涙目で睨んでくるとことかにムラムラしちゃうわけ。でも殿下はさ‥‥」
一度言葉を区切り、間をあけるマリア。
「怒りで滾(たぎ)っちゃうタイプでしょー?」
いかりでたぎる?
マリアの言っている意味がよくわからない。
わたしに対してしゃべりかけている態(てい)で、実は王太子に向けた言葉なのだろう。
(わたしを素通りして2人で会話をしているなら、わざわざ気にする必要もないのか)
わたしは、ふう、とため息をついた。
どうせもう運命に抵抗する気力はない。
大人しく破滅を待つ身なのだから、彼らがなにを思うかにわずらわされず、最期くらい心静かに過ごしたい。
(思えば、ずっと気を張った生活だったわ)
城に上がって記憶が戻ってからこれまで、気が休まるときがなかった。
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わたしはやれるだけのことはやったのだ。
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