有毒ツインズ

霧江サネヒサ

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人殺しと人殺し

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 誰でもよかった。
 俺は、道行く人間を狙って刺し殺した。
 あの日、若い女の胸にナイフを突き立てた感触が忘れられない。流れる鮮血を。あの時の快感を、もう一度。
 そう思って、今夜は、夜道を歩いているカップルをつけている。
 バーで狙いを定めた女が男と別れ、ひとりになったところで、俺はそいつに近付いた。
 無防備な獲物に忍び寄り、ナイフを振りかざす。

「はい、ストップストップ」
「なっ!?」

 女を刺そうとした瞬間。俺の腕を、別れたはずのチャイナ服の男が掴んでいた。

「怖いことさせて、ごめんね~。先に帰ってて」
「ううん。気を付けてね、慧ちゃん」

 そんな緊迫感に欠けるやり取りをし、女の方は走って逃げて行く。

「お前、サツを呼んだのか?」

 この男、別れた振りをしてやがった。わざと女をひとりにしたんだ。

「あーうん。呼んだことにしてる」
「は?」

 警察を呼んでいない? じゃあ、どうしてこんなことをしてる?

「分かるんだよね。お前、オレと同じでしょ? 殺しが好きなんでしょ~?」

 なんなんだ? この男は。
 へらへらしてる癖に、ただ者ではない雰囲気をしている。

「なんて言うの? 同業他社みたいな? まあ、邪魔なんだよね」

 男は、いつの間にかナイフを構えていた。

「ま、待て!」
「やだよ~」

 俺の制止を拒否し、軽薄そうな男は、胸部への正確な一突きを繰り出す。

「ぐぁっ……あ…………」

 刃が深く俺の胸に突き刺さった。
 痛みによるショックで、息が苦しい。

「運が悪いね。オレのカノジョを狙うなんて」

 そう笑いながら囁くと、男はナイフを捻り、引き抜いた。

「じゃあ、バイバーイ」

 倒れる俺を背にして、ひらひらと手を振り、男は去って行く。
 もう、まともに呼吸が出来ていない。目の前が、白んでいく。
 こんなところで終わるのか。
 やっと、何者かになれたと思ったのに。
 ああ、でも、そうか。
「誰でもよかった」なんて、嘘だった。
 俺は、弱者を選んで殺したんだな。
 きっと、あのチャイナ服の男は、俺よりも強者なんだろう。
 俺が人を殺した時、俺もまた弱肉強食の世界に足を踏み入れていたんだ。
 俺のしたことは、弱い者がより弱い者から奪っていただけか。
 ああ。何も見えない。聞こえない。
 ただ、自分の体が冷たくなっていくことだけを感じる。
 ただのろくでなしの、ろくでもない人生の結末だった。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

空き巣薔薇 亮司

Xの方から早速伺わせていただきました!

作品全体の印象として、ストーリー性を排除し各話毎に簡単なシチュエーションだけを設定した短編集、キャラクターの描写のみに特化した短編集という印象を受けました。

個人的にはキャラクターの内面がより深く掘り下げられる長めのストーリーがあった方が魅力的にキャラクターを見せられると思いますが、ネット小説という媒体に合わせサクッと読める作品に徹するのであればこのやり方も良いと思います!

読ませていただきありがとうございました!

解除

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