22 / 27
カストルとポルックス
しおりを挟む
冬空の双子星を眺めながら、愛坂狂次と慧三は歓談していた。
狂次がコーヒーを飲み、慧三は酒を飲んでいる。
「家に、サンタが来たことはなかったね~」
「そうですね」
「いつも、きょーちゃんがサンタの代わりにプレゼントくれてさ。だから、今はオレがサンタの代わりやってんだけどね」
「ありがとうございます」
慧三は、クリスマスイブや当日は女と過ごすが、それが過ぎたら、兄にプレゼントを渡しに来た。
今年は、黒革の手帳である。狂次は、それを読書記録にでも使おうかと考えていた。
「きょーちゃんには世話になってるから、それくらいはね~」
慧三は、歯を見せて笑う。
狂次は、双子の弟の気遣いが嬉しかった。慧三とそっくりの笑顔を見せる。
両親がサンタクロースになったことはないし、ふたりの誕生日を祝われたこともない。しかし、もうそんなことは、ふたりともどうでもよかった。
狂次には、贈り物をくれる弟や同僚がいて。慧三には、世話焼きな兄やカノジョがいて。
かつての愛坂家での閉塞感。閉じた世界にふたりきりでいるしかなかった過去。
子供の頃に感じていた惨めさは、遠くなっている。
だが、顔と首にある消えない傷痕を見る度に、狂次は思い出す。
己の無力さを。慧三を守らなければならない重責を。
もう二度と、自分たちを害する存在には容赦しないと決意を新たにした。
その想いは、慧三も同じである。何者にも負けるつもりはない。
「きょーちゃんは、仕事納めた?」
「30日まで仕事です」
「そっか。がんばってね」
「はい」
大晦日と正月三が日は休むが、仕事が好きなので、狂次はあまり休まない。協会から、「有給休暇を消化しろ」とせっつかれることもあった。
一方、慧三は、ヒモとしてカノジョと年末年始はのんびり過ごす予定である。カノジョが、年越し蕎麦もおせちもお雑煮もお年玉も用意してくれると言う。
「オレ、明日はカノジョと大掃除するんだ~」
「そうですか」
「きょーちゃんは、普段から綺麗にしてるから、大掃除しないでしょ?」
「はい」
「えらーい。オレは、真面目にコツコツとか無理」
「そうでしょうね」と、笑う狂次。
狂次は、夏休みの宿題をきちんとやる子供で、慧三は、宿題をやらない子供だった。
宿題をやろうがやるまいが、ふたりが爪弾きにされるのには変わらなかったが。
いくつもの軛から解放された兄弟は、お互いを照らしながら生きている。
狂次がコーヒーを飲み、慧三は酒を飲んでいる。
「家に、サンタが来たことはなかったね~」
「そうですね」
「いつも、きょーちゃんがサンタの代わりにプレゼントくれてさ。だから、今はオレがサンタの代わりやってんだけどね」
「ありがとうございます」
慧三は、クリスマスイブや当日は女と過ごすが、それが過ぎたら、兄にプレゼントを渡しに来た。
今年は、黒革の手帳である。狂次は、それを読書記録にでも使おうかと考えていた。
「きょーちゃんには世話になってるから、それくらいはね~」
慧三は、歯を見せて笑う。
狂次は、双子の弟の気遣いが嬉しかった。慧三とそっくりの笑顔を見せる。
両親がサンタクロースになったことはないし、ふたりの誕生日を祝われたこともない。しかし、もうそんなことは、ふたりともどうでもよかった。
狂次には、贈り物をくれる弟や同僚がいて。慧三には、世話焼きな兄やカノジョがいて。
かつての愛坂家での閉塞感。閉じた世界にふたりきりでいるしかなかった過去。
子供の頃に感じていた惨めさは、遠くなっている。
だが、顔と首にある消えない傷痕を見る度に、狂次は思い出す。
己の無力さを。慧三を守らなければならない重責を。
もう二度と、自分たちを害する存在には容赦しないと決意を新たにした。
その想いは、慧三も同じである。何者にも負けるつもりはない。
「きょーちゃんは、仕事納めた?」
「30日まで仕事です」
「そっか。がんばってね」
「はい」
大晦日と正月三が日は休むが、仕事が好きなので、狂次はあまり休まない。協会から、「有給休暇を消化しろ」とせっつかれることもあった。
一方、慧三は、ヒモとしてカノジョと年末年始はのんびり過ごす予定である。カノジョが、年越し蕎麦もおせちもお雑煮もお年玉も用意してくれると言う。
「オレ、明日はカノジョと大掃除するんだ~」
「そうですか」
「きょーちゃんは、普段から綺麗にしてるから、大掃除しないでしょ?」
「はい」
「えらーい。オレは、真面目にコツコツとか無理」
「そうでしょうね」と、笑う狂次。
狂次は、夏休みの宿題をきちんとやる子供で、慧三は、宿題をやらない子供だった。
宿題をやろうがやるまいが、ふたりが爪弾きにされるのには変わらなかったが。
いくつもの軛から解放された兄弟は、お互いを照らしながら生きている。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
よんよんまる
如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。
音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。
見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、
クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、
イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。
だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。
お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。
※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。
※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です!
(医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)
伊賀忍者に転生して、親孝行する。
風猫(ふーにゃん)
キャラ文芸
俺、朝霧疾風(ハヤテ)は、事故で亡くなった両親の通夜の晩、旧家の実家にある古い祠の前で、曽祖父の声を聞いた。親孝行をしたかったという俺の願いを叶えるために、戦国時代へ転移させてくれるという。そこには、亡くなった両親が待っていると。果たして、親孝行をしたいという願いは叶うのだろうか。
戦国時代の風習と文化を紐解きながら、歴史上の人物との邂逅もあります。
羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜
長月京子
キャラ文芸
自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。
幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。
時は明治。
異形が跋扈する帝都。
洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。
侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。
「私の花嫁は彼女だ」と。
幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。
その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。
文明開化により、華やかに変化した帝都。
頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には?
人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。
(※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております)
第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞をいただきました。
ありがとうございました!
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

後宮の才筆女官
たちばな立花
キャラ文芸
後宮の女官である紅花(フォンファ)は、仕事の傍ら小説を書いている。
最近世間を賑わせている『帝子雲嵐伝』の作者だ。
それが皇帝と第六皇子雲嵐(うんらん)にバレてしまう。
執筆活動を許す代わりに命ぜられたのは、後宮妃に扮し第六皇子の手伝いをすることだった!!
第六皇子は後宮内の事件を調査しているところで――!?

下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる