有毒ツインズ

霧江サネヒサ

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カストルとポルックス

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 冬空の双子星を眺めながら、愛坂狂次と慧三は歓談していた。
 狂次がコーヒーを飲み、慧三は酒を飲んでいる。

「家に、サンタが来たことはなかったね~」
「そうですね」
「いつも、きょーちゃんがサンタの代わりにプレゼントくれてさ。だから、今はオレがサンタの代わりやってんだけどね」
「ありがとうございます」

 慧三は、クリスマスイブや当日は女と過ごすが、それが過ぎたら、兄にプレゼントを渡しに来た。
 今年は、黒革の手帳である。狂次は、それを読書記録にでも使おうかと考えていた。

「きょーちゃんには世話になってるから、それくらいはね~」

 慧三は、歯を見せて笑う。
 狂次は、双子の弟の気遣いが嬉しかった。慧三とそっくりの笑顔を見せる。
 両親がサンタクロースになったことはないし、ふたりの誕生日を祝われたこともない。しかし、もうそんなことは、ふたりともどうでもよかった。
 狂次には、贈り物をくれる弟や同僚がいて。慧三には、世話焼きな兄やカノジョがいて。
 かつての愛坂家での閉塞感。閉じた世界にふたりきりでいるしかなかった過去。
 子供の頃に感じていた惨めさは、遠くなっている。
 だが、顔と首にある消えない傷痕を見る度に、狂次は思い出す。
 己の無力さを。慧三を守らなければならない重責を。
 もう二度と、自分たちを害する存在には容赦しないと決意を新たにした。
 その想いは、慧三も同じである。何者にも負けるつもりはない。

「きょーちゃんは、仕事納めた?」
「30日まで仕事です」
「そっか。がんばってね」
「はい」

 大晦日と正月三が日は休むが、仕事が好きなので、狂次はあまり休まない。協会から、「有給休暇を消化しろ」とせっつかれることもあった。
 一方、慧三は、ヒモとしてカノジョと年末年始はのんびり過ごす予定である。カノジョが、年越し蕎麦もおせちもお雑煮もお年玉も用意してくれると言う。

「オレ、明日はカノジョと大掃除するんだ~」
「そうですか」
「きょーちゃんは、普段から綺麗にしてるから、大掃除しないでしょ?」
「はい」
「えらーい。オレは、真面目にコツコツとか無理」

「そうでしょうね」と、笑う狂次。
 狂次は、夏休みの宿題をきちんとやる子供で、慧三は、宿題をやらない子供だった。
 宿題をやろうがやるまいが、ふたりが爪弾きにされるのには変わらなかったが。
 いくつもの軛から解放された兄弟は、お互いを照らしながら生きている。
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