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GWおまけ ディエンヌ紅茶ビッシャー期
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◆ディエンヌ紅茶ビッシャー期
ぼくはサリエル・ドラベチカ、十歳。もっちりぽっちゃり我が儘ボディの魔王の三男でございます。
相変わらずのツノなし魔力なしの落ちこぼれながら、今日も元気いっぱい張り切っています。
季節は十一月になりまして、ぼくは兄上とおそろいの冬服衣装をビシリと身につけ、宴もたけなわないつもの子供会に参加しているところです。
先日、新しいお仲間が増えたのですよぉ。ファウストです。
彼は兄上と同じくらい大きな体だから。ぼくはファウストのことを、兄上みたいに大きくてたくましくて頼もしくて素敵だなぁって思っているのです。
えぇ、むっちりでチビ助で手も足も短いぼくですから。
内心、ハンカチを噛んでむぎーっと、なっている。なんてこともありますがっ。
嫉妬心は、ほんのちょびっとでございますよ。
だってぼくはっ、もうすぐ手も足もピョーーって伸びるしぃ。
だってぼくはっ、成長期なのです。絶対、身長も伸びますっ。これは決定事項ですからぁぁ。
それはともかく。
ぼくは御友達のみなさまに、大切なお知らせをしなければなりません。
えぇ、恐ろしいお知らせです。
いつものサロンの円卓で優雅にお茶を飲んでいる、高位貴族のお子様たち。
魔王の四男、シュナイツ。公爵子息のマルチェロとマリーベル兄妹。同じくファウスト。宰相の子息であるエドガーは本を片手にお茶会です。
そのみなさまに向かって、ぼくは高らかに告げました。
「みなさん、大変です。ディエンヌに、紅茶ビッシャー期が到来しました」
ぼくの声に。円卓に座るお友達のみなさんは、目を丸くしてこちらを見ました。
そ、そんなに、ちゅ、注目されると、ちょっと照れます。
ほっぺを揉みましょう。
「サリー、なんだい? 紅茶ビッシャー期って。ま、想像はつくけど」
いつも冷静なマルチェロが、ハニーイエローの前髪をさらりと揺らして聞いてきます。
ぼくは視線をキリリとさせて、神妙に答えます。
いえ、糸目でキリリは伝わっていないでしょうがっ。
「マルチェロ、たぶん想像の通りです。ディエンヌは貴族の御子息の素敵なお衣装に紅茶をぶっかける遊びにはまっているようです。えぇ、ぼくは犠牲者を、もう二人も目撃いたしました」
あ、ディエンヌというのはぼくの妹で、ぼくは兄としてディエンヌのやらかしの尻拭いをいたしておるのです。
よくわからないけど、なんとなく説明してみました。
説明ついでに、さらに説明しますと。
来年学園に入学するファウストは十一歳。
ぼくと同じ年のマルチェロは十歳。
その一個下のシュナイツとマリーベル、エドガーは九歳でございます。はい。
「というわけで、今日はディエンヌ紅茶ビッシャーから逃げる練習をいたしますっ」
「サリーちゃん、もし紅茶ビッシャーされたら、ディエンヌを燃やしてもいいのではないですか?」
そう、ファウストに問われましたが。
も、燃やす?
と、ぼくは驚きの表情を向けます。糸目なのであまり変わり映えはしませんけど。
「そうだよねぇ、私も常々そうしたいって思っていたところだよ。ファウスト、私たちは気が合うねぇ」
マルチェロまでそう言い出した。
新しいお友達と仲良くなることは良いことですが。
そのような物騒なことで意気投合しないでいただきたい。
でも、仕方がないのかもしれませんね。ここは魔族が住まう国、アストリアーナ魔王国なのですから。
「いいえ、燃やすのはいけません。ディエンヌは腐っても魔王の娘なのです。魔王が目に入れても痛くないらしい娘なのです。燃やしたらきっと、ファウストも魔王に燃やされてしまいますよ?」
そうです。たぶん、怒られます。
なので、燃やしてはいけません。たぶん。
ファウストとマルチェロは、ディエンヌを燃やせないことに残念そうにはしながら、庭に出て行き。
マリーベルは面白そうだと言って、スカートをルンルンで揺らし。
シュナイツとエドガーは若干面倒くさそうに部屋を出て行くのだった。
そしてぼくは芝生の庭に立ち、ティーカップと水の入った紅茶ポットを両手に持ちますっ。
水の入ったカップを持ち、ブブブと震わせるぼくを、みんなは囲んで身構えます。
むふーん、みなさん、油断していないようですね、いいですよ、いいですよぉ。
「こちらは水ですので、無色透明で熱くもないですが。ディエンヌの紅茶は、アッツアツで渋みがかった色がついていますからね? かかったら、その衣装は死ですよ、死っ!!」
そしてぼくは振り返りながら、カップを差し出す。
「そこぉぉっ」
ビッシャーの最初の餌食は、マリーベルでした。
ぼくのカップの水をよけられずに、ピンクのスカートが濡れてしまいましたぁ。
「ひ、ひどいわぁ、パンちゃぁぁぁん」
マリーベルの緑の瞳がうりゅっと潤んで。
ぼ、ぼ、ぼくは。あ、あ、慌ててしまいました。
まさか、ぼくが女の子を泣かせてしまうなんてぇ。
「ま、マリーベル、ごめんね? でもこれはすぐに乾くからね? ね?」
マリーをなだめようとしていたら。なにやら頭に水がかけられ。ぼくのトレードマークの赤い髪が、ぺショッとなってしまいました。
こ、これはぁぁ?
「パンちゃんも気をつけなくては駄目よぉ? ディエンヌはパンちゃんには、きっとマグマのようにあっつい紅茶を用意してくるはずですものぉ??」
そういうマリーベルは後ろ手にティーカップを持っていたみたい?
ぼくはマリーベルのビッシャー攻撃を受けてしまいました。
「これは、やられました。マリーベルにはかないませんねぇ…」
はっはっは、と笑いつつも。そこぉぉ!! と、カップを差し出す。
そこにはファウストがいて。水を頭からもろかぶりです。
続けてぼくは、そこぉぉ、そこぉお!! と続けてもっちりした体をイナバウアーのごとくモチィとひねりながら水をまき散らかしていく。
イナバウアー…これはインナー用語ですね
そして、マルチェロとシュナイツもビッシャーになるのだった。
ファウストは、水がかかった前髪を手でかきあげる。
すると、水も滴るイケメンが現れるではあぁりませんかぁ??
そしてさらにさらに、マルチェロもシュナイツも、髪をかきあげるのだった。
「もう、サリーのせいで濡れちゃったじゃないかぁ」
顔に水の雫をきらめかせながら、麗しい笑みを浮かべないでください。
もっちり相手にやっても、イケメンの無駄遣いです。
それにこれは真剣な、逃げる練習ですよ?
なのに、彼らは逃げることをしないで、なんでかぼくの後ろについてくるのだった。
「な、な、なんでぇ? 来ないでぇ」
ぼくは短い足でざっざかざっざか芝生の上を走り、そうしてイケメン軍団から逃げつつ。
最後の獲物であるエドガーを追いかける。
エドガーは本を片手に面倒くさそうにぼくから逃げた。
ぼくは紅茶ポットからカップに水をそそいじゃ、投げ、そそいじゃ、投げ、を繰り返す。
「エドガー、いい加減、ビッシャーされなさぁい」
「嫌ですよ、本が濡れるじゃないですか」
そう言って、ぼくのビッシャー攻撃を長い足で巧みによけるのだった。
ううぅぬぅ、勉強漬けで一番運動神経がなさそうなのに、エドガーはなにげに足が速いのだ。
「そ、そのような、本を片手にしてますけど、読んでいないでしょ? ぼくをよけるのに全集中でしょ?」
「なんのことですかぁ? 無駄な時間なのでぼくは本を読んでいるのです」
きぃぃ、エドガーめ、ツンツンめっ。
『ぼくよ、知らぬ間にビッシャー攻撃を受けているぞ? ちゃんとダイエットしないから、足が遅くてびっちゃびちゃになるんだっつーの』
心の中で、インナーがぼくに言うが。
なんですってぇ??
ぼくが振り返ると、そこでは紅茶ポットとカップを持って、ファウストとマルチェロとシュナイツが、本気の水かけごっこを繰り広げているのだった。
カップから放たれた水は弧を描いて、太陽の輝きにプリズムを反射する。
なんて、綺麗に言ってみたけど。
マルチェロの攻撃をファウストがよけた、その水がぼくの尻にかかり。あぁあ。
ファウストの攻撃をシュナイツがよけた、その水がくるりと回ったぼくの顔にかかり。あぁあ、あぁあ。
そうしてぼくは、いつの間にかびしょびしょにぃぃぃ?
「むむぅ、やりましたねぇ。ぼくはオコです!」
そうしてカップに水をそそいでマルチェロにビシャー、シュナイツとファウストにもビシャーするけど。全然当たらないよぉ。
「あぁ、サリーちゃん、逃げてぇ」
ファウストに注意されるけど。マルチェロの水がぼくに降りかかり。
「へええぇぇぇぇぁあぁああ?」
「あはは、サリー。ちゃんとよけて、あはは」
マルチェロは笑いながらぼくにビッシャー攻撃し続けるのだった。
「やめてぇ、あはは、やめてぇ、マルチェロぉ」
「サリーちゃんをいじめるなぁ」
そうして、ぼくは芝生の上をニワトリのごとく逃げ惑い。
それをマルチェロが追い、ぼくをかばうためにファウストがマルチェロを追う。
という、いつものわちゃわちゃがぁ??
つか、彼らの攻撃ばかりが、なぜぼくに降りかかるのですかぁ?
これはみなさまがディエンヌのビッシャーから逃げる練習のはずなのに、なんでぇ??
はっ、しかしこれはっ…ただの水遊びではぁ??
「サリエル様、これはいったい??」
さすがに黙っていられなくなったミケージャと、子息たちの従者が。ぼくを睨みます。
ズモモという迫力に押されて。ぼくはっ。
「す、すすす、すみませぇぇぇええん」
と情けない叫びを上げるのだった。
エドガーは本を死守して、無傷だが。
それ以外の者も、ちょっと濡れた程度で。
なんでかぼくだけ、びっしょりんぬなんですけど? どういうこと?
「あ、サリエル兄上、そのポットとカップはぼくが片付けておきますよ」
ぼへぇ、と立ち尽くすぼくから。シュナイツがティーカップをいそいそ回収する。
ありがとう、と言いながらも。なにやらゾクリとするのはなんででしょう?
風邪? びちょって、風邪?
いいえ。十一月ですけど、魔国の冬は寒くないので、まだ風邪をひく季節ではありませんし。ぼくはなにげに強いので病気知らずです。
ゾクリは…まぁ、いいです。
つか。その日の子供会はミケージャのお説教で半分潰れました。むっきーーーっ。
ちなみに、ディエンヌ紅茶ビッシャー期は。
普通に、被害にあわれた子息の親からクレームが入り。
怒り心頭のレオンハルト兄上がエレオノラ母上に支給される生活費二ヶ月分で弁償し。
生活費を削られた母上が、兄上に文句たらたら言ったら。兄上がバリバリどっかーーん、程ではないが。ドーンと怒って。
それで母上が失神して、てんやわんやで。
ディエンヌもお小遣いがカットされたから、もうめんどくさーいってなって。
無事に紅茶ビッシャー期は終了したのだった。
ディエンヌには、やらかす前に、これをしたらどうなるのかっていう想像力を働かせていただきたいものです。
しかしなにはともあれ、今回の尻拭いも無事ミッションコンプリートしたのだった。
ぼく、ただびちょって遊んだだけで、特に…なにもやっていませんけど。
いいのですっ。
被害が大きくならないうちにおさまって良かった良かった。むっふーん。
ぼくはサリエル・ドラベチカ、十歳。もっちりぽっちゃり我が儘ボディの魔王の三男でございます。
相変わらずのツノなし魔力なしの落ちこぼれながら、今日も元気いっぱい張り切っています。
季節は十一月になりまして、ぼくは兄上とおそろいの冬服衣装をビシリと身につけ、宴もたけなわないつもの子供会に参加しているところです。
先日、新しいお仲間が増えたのですよぉ。ファウストです。
彼は兄上と同じくらい大きな体だから。ぼくはファウストのことを、兄上みたいに大きくてたくましくて頼もしくて素敵だなぁって思っているのです。
えぇ、むっちりでチビ助で手も足も短いぼくですから。
内心、ハンカチを噛んでむぎーっと、なっている。なんてこともありますがっ。
嫉妬心は、ほんのちょびっとでございますよ。
だってぼくはっ、もうすぐ手も足もピョーーって伸びるしぃ。
だってぼくはっ、成長期なのです。絶対、身長も伸びますっ。これは決定事項ですからぁぁ。
それはともかく。
ぼくは御友達のみなさまに、大切なお知らせをしなければなりません。
えぇ、恐ろしいお知らせです。
いつものサロンの円卓で優雅にお茶を飲んでいる、高位貴族のお子様たち。
魔王の四男、シュナイツ。公爵子息のマルチェロとマリーベル兄妹。同じくファウスト。宰相の子息であるエドガーは本を片手にお茶会です。
そのみなさまに向かって、ぼくは高らかに告げました。
「みなさん、大変です。ディエンヌに、紅茶ビッシャー期が到来しました」
ぼくの声に。円卓に座るお友達のみなさんは、目を丸くしてこちらを見ました。
そ、そんなに、ちゅ、注目されると、ちょっと照れます。
ほっぺを揉みましょう。
「サリー、なんだい? 紅茶ビッシャー期って。ま、想像はつくけど」
いつも冷静なマルチェロが、ハニーイエローの前髪をさらりと揺らして聞いてきます。
ぼくは視線をキリリとさせて、神妙に答えます。
いえ、糸目でキリリは伝わっていないでしょうがっ。
「マルチェロ、たぶん想像の通りです。ディエンヌは貴族の御子息の素敵なお衣装に紅茶をぶっかける遊びにはまっているようです。えぇ、ぼくは犠牲者を、もう二人も目撃いたしました」
あ、ディエンヌというのはぼくの妹で、ぼくは兄としてディエンヌのやらかしの尻拭いをいたしておるのです。
よくわからないけど、なんとなく説明してみました。
説明ついでに、さらに説明しますと。
来年学園に入学するファウストは十一歳。
ぼくと同じ年のマルチェロは十歳。
その一個下のシュナイツとマリーベル、エドガーは九歳でございます。はい。
「というわけで、今日はディエンヌ紅茶ビッシャーから逃げる練習をいたしますっ」
「サリーちゃん、もし紅茶ビッシャーされたら、ディエンヌを燃やしてもいいのではないですか?」
そう、ファウストに問われましたが。
も、燃やす?
と、ぼくは驚きの表情を向けます。糸目なのであまり変わり映えはしませんけど。
「そうだよねぇ、私も常々そうしたいって思っていたところだよ。ファウスト、私たちは気が合うねぇ」
マルチェロまでそう言い出した。
新しいお友達と仲良くなることは良いことですが。
そのような物騒なことで意気投合しないでいただきたい。
でも、仕方がないのかもしれませんね。ここは魔族が住まう国、アストリアーナ魔王国なのですから。
「いいえ、燃やすのはいけません。ディエンヌは腐っても魔王の娘なのです。魔王が目に入れても痛くないらしい娘なのです。燃やしたらきっと、ファウストも魔王に燃やされてしまいますよ?」
そうです。たぶん、怒られます。
なので、燃やしてはいけません。たぶん。
ファウストとマルチェロは、ディエンヌを燃やせないことに残念そうにはしながら、庭に出て行き。
マリーベルは面白そうだと言って、スカートをルンルンで揺らし。
シュナイツとエドガーは若干面倒くさそうに部屋を出て行くのだった。
そしてぼくは芝生の庭に立ち、ティーカップと水の入った紅茶ポットを両手に持ちますっ。
水の入ったカップを持ち、ブブブと震わせるぼくを、みんなは囲んで身構えます。
むふーん、みなさん、油断していないようですね、いいですよ、いいですよぉ。
「こちらは水ですので、無色透明で熱くもないですが。ディエンヌの紅茶は、アッツアツで渋みがかった色がついていますからね? かかったら、その衣装は死ですよ、死っ!!」
そしてぼくは振り返りながら、カップを差し出す。
「そこぉぉっ」
ビッシャーの最初の餌食は、マリーベルでした。
ぼくのカップの水をよけられずに、ピンクのスカートが濡れてしまいましたぁ。
「ひ、ひどいわぁ、パンちゃぁぁぁん」
マリーベルの緑の瞳がうりゅっと潤んで。
ぼ、ぼ、ぼくは。あ、あ、慌ててしまいました。
まさか、ぼくが女の子を泣かせてしまうなんてぇ。
「ま、マリーベル、ごめんね? でもこれはすぐに乾くからね? ね?」
マリーをなだめようとしていたら。なにやら頭に水がかけられ。ぼくのトレードマークの赤い髪が、ぺショッとなってしまいました。
こ、これはぁぁ?
「パンちゃんも気をつけなくては駄目よぉ? ディエンヌはパンちゃんには、きっとマグマのようにあっつい紅茶を用意してくるはずですものぉ??」
そういうマリーベルは後ろ手にティーカップを持っていたみたい?
ぼくはマリーベルのビッシャー攻撃を受けてしまいました。
「これは、やられました。マリーベルにはかないませんねぇ…」
はっはっは、と笑いつつも。そこぉぉ!! と、カップを差し出す。
そこにはファウストがいて。水を頭からもろかぶりです。
続けてぼくは、そこぉぉ、そこぉお!! と続けてもっちりした体をイナバウアーのごとくモチィとひねりながら水をまき散らかしていく。
イナバウアー…これはインナー用語ですね
そして、マルチェロとシュナイツもビッシャーになるのだった。
ファウストは、水がかかった前髪を手でかきあげる。
すると、水も滴るイケメンが現れるではあぁりませんかぁ??
そしてさらにさらに、マルチェロもシュナイツも、髪をかきあげるのだった。
「もう、サリーのせいで濡れちゃったじゃないかぁ」
顔に水の雫をきらめかせながら、麗しい笑みを浮かべないでください。
もっちり相手にやっても、イケメンの無駄遣いです。
それにこれは真剣な、逃げる練習ですよ?
なのに、彼らは逃げることをしないで、なんでかぼくの後ろについてくるのだった。
「な、な、なんでぇ? 来ないでぇ」
ぼくは短い足でざっざかざっざか芝生の上を走り、そうしてイケメン軍団から逃げつつ。
最後の獲物であるエドガーを追いかける。
エドガーは本を片手に面倒くさそうにぼくから逃げた。
ぼくは紅茶ポットからカップに水をそそいじゃ、投げ、そそいじゃ、投げ、を繰り返す。
「エドガー、いい加減、ビッシャーされなさぁい」
「嫌ですよ、本が濡れるじゃないですか」
そう言って、ぼくのビッシャー攻撃を長い足で巧みによけるのだった。
ううぅぬぅ、勉強漬けで一番運動神経がなさそうなのに、エドガーはなにげに足が速いのだ。
「そ、そのような、本を片手にしてますけど、読んでいないでしょ? ぼくをよけるのに全集中でしょ?」
「なんのことですかぁ? 無駄な時間なのでぼくは本を読んでいるのです」
きぃぃ、エドガーめ、ツンツンめっ。
『ぼくよ、知らぬ間にビッシャー攻撃を受けているぞ? ちゃんとダイエットしないから、足が遅くてびっちゃびちゃになるんだっつーの』
心の中で、インナーがぼくに言うが。
なんですってぇ??
ぼくが振り返ると、そこでは紅茶ポットとカップを持って、ファウストとマルチェロとシュナイツが、本気の水かけごっこを繰り広げているのだった。
カップから放たれた水は弧を描いて、太陽の輝きにプリズムを反射する。
なんて、綺麗に言ってみたけど。
マルチェロの攻撃をファウストがよけた、その水がぼくの尻にかかり。あぁあ。
ファウストの攻撃をシュナイツがよけた、その水がくるりと回ったぼくの顔にかかり。あぁあ、あぁあ。
そうしてぼくは、いつの間にかびしょびしょにぃぃぃ?
「むむぅ、やりましたねぇ。ぼくはオコです!」
そうしてカップに水をそそいでマルチェロにビシャー、シュナイツとファウストにもビシャーするけど。全然当たらないよぉ。
「あぁ、サリーちゃん、逃げてぇ」
ファウストに注意されるけど。マルチェロの水がぼくに降りかかり。
「へええぇぇぇぇぁあぁああ?」
「あはは、サリー。ちゃんとよけて、あはは」
マルチェロは笑いながらぼくにビッシャー攻撃し続けるのだった。
「やめてぇ、あはは、やめてぇ、マルチェロぉ」
「サリーちゃんをいじめるなぁ」
そうして、ぼくは芝生の上をニワトリのごとく逃げ惑い。
それをマルチェロが追い、ぼくをかばうためにファウストがマルチェロを追う。
という、いつものわちゃわちゃがぁ??
つか、彼らの攻撃ばかりが、なぜぼくに降りかかるのですかぁ?
これはみなさまがディエンヌのビッシャーから逃げる練習のはずなのに、なんでぇ??
はっ、しかしこれはっ…ただの水遊びではぁ??
「サリエル様、これはいったい??」
さすがに黙っていられなくなったミケージャと、子息たちの従者が。ぼくを睨みます。
ズモモという迫力に押されて。ぼくはっ。
「す、すすす、すみませぇぇぇええん」
と情けない叫びを上げるのだった。
エドガーは本を死守して、無傷だが。
それ以外の者も、ちょっと濡れた程度で。
なんでかぼくだけ、びっしょりんぬなんですけど? どういうこと?
「あ、サリエル兄上、そのポットとカップはぼくが片付けておきますよ」
ぼへぇ、と立ち尽くすぼくから。シュナイツがティーカップをいそいそ回収する。
ありがとう、と言いながらも。なにやらゾクリとするのはなんででしょう?
風邪? びちょって、風邪?
いいえ。十一月ですけど、魔国の冬は寒くないので、まだ風邪をひく季節ではありませんし。ぼくはなにげに強いので病気知らずです。
ゾクリは…まぁ、いいです。
つか。その日の子供会はミケージャのお説教で半分潰れました。むっきーーーっ。
ちなみに、ディエンヌ紅茶ビッシャー期は。
普通に、被害にあわれた子息の親からクレームが入り。
怒り心頭のレオンハルト兄上がエレオノラ母上に支給される生活費二ヶ月分で弁償し。
生活費を削られた母上が、兄上に文句たらたら言ったら。兄上がバリバリどっかーーん、程ではないが。ドーンと怒って。
それで母上が失神して、てんやわんやで。
ディエンヌもお小遣いがカットされたから、もうめんどくさーいってなって。
無事に紅茶ビッシャー期は終了したのだった。
ディエンヌには、やらかす前に、これをしたらどうなるのかっていう想像力を働かせていただきたいものです。
しかしなにはともあれ、今回の尻拭いも無事ミッションコンプリートしたのだった。
ぼく、ただびちょって遊んだだけで、特に…なにもやっていませんけど。
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ありがとうございます。
turarinさま、感想をくださりありがとうございます。
とても長い話を完走してくださり、そして多くの作品がある中でビコ尻(魔王の三男のこと)をみつけてくださり、本当に嬉しいです。
ディエンヌの末路は読者様の御想像に委ね、本編ではのほほんを貫かせていただきました。眼福なメンズの誰がお気に入りですか? 気になります♡
ビコ尻もたまにおまけを出していますが、よろしければ他の作品も覗いていただけたら幸いです。
ビコ尻も書き終わってそろそろ一年になりますが、たびたび感想をくださる方がいて、作者はとても嬉しいです。引き続きご愛顧のほどよろしくお願いします✨
初めまして、こんにちは。大樹と小枝ちゃんの物語を読んで、同じ作者の物語を読んでみました。サリーの物語、とても面白かったです。
一番面白かったのは、スズメガズス。キャラクターが際立っていた。名前の末尾がズスなのでパズスみたいで、実はヤバイ存在なのかなと思いました。
あと、意外な展開だったのは、魔王様、ディエンヌがパワーインフレ状態なのを一蹴する強さ。最強と思われた存在がパワーアップした敵役にやられると言うのが多いのに、魔王様、全然効いてないよ状態なのは、面白かったです。
今年のGWくらいからここのサイトの小説を読んでます。面白い所で執筆中断状態の物語が多々あるのを残念に思います。無理のない範囲でぜひとも物語を書いてほしいです。執筆の継続を応援いたします。
operahouseさま、感想をくださりありがとうございます。
はじめまして。異世界転移パパからこちらの作品も見てくださり、本当に嬉しいです。とても面白かったは最高の誉め言葉で、作者は天にも昇る気持ちです(笑)
スズメガズスは感想をいただく中でみなさん好きになってもらった魔獣です。今でも解せぬ思いです(苦笑)。
私はアルファポリス様で書いていながら、他の作家さんのものはあまり読んでいないというか。なので他の方のことは存じ上げないのですが。私に関しましては、完結保証とは豪語できませんが(ほら、病気になったりすることもあるからね)物語は最後まで書ききるという主義です。完結作はもちろん、連載中のパパ枕も最後まで執筆予定ですので、北川晶作品は安心してお読みくださいと申し上げさせていただきます✨
応援のお気持ち、本当に嬉しいです。よろしければ他の作品も覗いてみてくださいませ💕いろんな作品が多々ある中で魔王の三男~をみつけてくださり、そして長い作品を最後まで完走してくれたことこそが、とても私の励みになります。ホントにホントにありがとうございました。
な、なんとww!明日ビコ尻のオマケをアップしてくださるとのニュースが飛び込んできましたぁぁ〜。ズンチャカ、ズンチャカとない胸を期待に膨らませ、出ている腹を更に出しながら舞い踊ってみました。
楽しみですっ。
興奮が抑え切れず読む前なのに感想に投稿してしまいましたぁ〜。
獣人2号さま、いつも感想、ありがとうございます。
フライングながら、楽しみにしてくださるお気持ちがとても嬉しいです。
おまけを読んだら、また感想ください(強欲)
おさえておさえてぇ(笑)ではGWおまけをおたのしみに。よろしくお願いします♡