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おまけ ⑥ 新米パパのたくらみ

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     ◆おまけ 新米パパのたくらみ

 私、こと。マルチェロ・ルーフェンは。
 この度、親子の名乗りを交わし。円満にマミの父として認められた。

 マミが宿やどったっんももの実は、なかなか熟さなくて。
 私とサリーの子は生まれでてくれないのかと、気を揉んだ日々が長く続いた。
 しかし、ピンクの髪をした可愛い子が生まれて来てくれて。
 私は本当に嬉しくて。
 人前で泣いたことなどなかったのに。このときばかりは、涙を止めることができなかった。
 しかし父親というものは、そういうものなのだろうね?
 私はマミをこの手に抱いたときに。ただのマルチェロではなく、父親という生き物に生まれ変わったのだろう。そんな実感をしたものだ。

 しかし私は。すぐにマミと暮らせなかった。
 子育てをしたことのない、独り身の男親に、サリーも子供を任せることができなかったし。
 屋敷には使用人がいるが。
 魔王城での仕事が山積みの私は、マミの子育てが使用人任せになるのが目に見えていた。
 半年前にファウストの子供が生まれたときも、そのような理由でサリーが育てることになったから。
 私のマミも。魔王と魔王妃の子供として育てることに決まったのだ。
 苦渋の決断だったが。
 いつでも会いに来て良い、ということであったし。
 実際に、自分ひとりでは満足のいく子育てはできないからな。

 しかしマミの物心がついて。
 御子たちが、自分の出自に疑問を持ったことで。

 本当の父親が誰かを明かしたと、レオンハルトに知らされた。

 急な話だったから、私はとても驚いたし。まだ早いのではないかと、憤りも感じたが。
 でもレオンハルトが、本当の父ではないと知って。
 たまに遊びに来る私が本当の父と知って。
 マミは、心細かったり、悲しかったり、戸惑ったりしているのではないかと思い。
 その足で、すぐに魔王の屋敷に向かったのだった。

 案の定マミは。混乱していた。
 というより、もっちりの自分が私の子で良いのかと。戸惑ってもいた。

 なにを言う。マミは、私の子。私のたったひとりの子だというのに。

 マミは私のことを、王子様だと思っているみたい。
 絵本などを見て、マミは美醜に関しての意識が高いようだった。
 そうだな。王子様やお姫様は、綺麗な顔立ちで、手も足も長くて、大きな御ツノが生えている。
 そして悪い魔女や姫をさらう悪の親玉は。意地の悪い顔をしていたり、大きなお腹をしていて、指に趣味の悪い宝石をじゃらじゃらさせているものな?

 だけどね。
 私はサリーがもっちりしているという理由だけで、実の母や妹に忌避されていたところを見ている。
 確かに、もっちりではあったが。心優しく、聡明で、可愛らしいサリーを。そんな理由で貶める彼女たちを。
 私はいつも腹立たしいと思っていた。
 許せない。黒い魔力が暴走するほどに。不快極まりなかったのだ。
 そんな私が、マミがもっちりだからって忌避するなど。ありえないのだ。

 というよりも、もっちりなマミは可愛い。
 いや、もっちりでも、そうでなくても可愛いのだ。私の子だもの。

 私は魔族の人々の、魔力量や、ツノの大小や、容姿の美醜に、好感度を上げ下げする悪い慣習が嫌いだ。
 その基準で人の良し悪しを決めつける者を、頭が悪いと思うし。
 そんな頭の悪い者が、私には寄ってきたから。そのせいで人嫌いの気があるけれど。

 マミは、別。私の子だというだけで、無条件に愛があふれてくるものなのだな?

 それはマミが私に教えてくれた、はじめての感情だ。
 とても、尊く。心地よい、気持ち。
 マミが、ただ元気で、生きているだけで。嬉しくて。世界が鮮やかに色づくのだ。

 まぁ、そんなわけで。
 マミの父親として。マミと親子の仲を深めるべく尽力する、私の戦いの日々が始まった。

 マミのお部屋に招待された私は、そこで馬車のおもちゃを渡された。
 床にべたっと座って、ご機嫌で、もうひとつの馬車のおもちゃを動かして遊ぶマミ。
 床の上で車輪をコロコロさせる。それにならって、私もやってみる。

 あぁ、私は。こんな遊びをしていた覚えはないな。
 六歳の頃には、もうレオンハルトの右腕になろうと決めていて。
 子供の遊びがバカみたいに思えて。ひたすら勉強をしていたからなぁ。
 物心つく前は、こういう遊びをしていたのだろうか? 今度、母上に聞いてみよう。

「マルチェロおじちゃん、そちらはガケでぇす。ああぁぁぁあ…」
 どうやら私の馬車は、崖から転落してしまったらしい。
 デンジャラスな世界観なのだな? マミ。

「なぁ、マミ? マルチェロおじちゃんではなくて、私のことはお父様と呼んでくれないかい?」
「おとしゃま」
 前回は恥じらって、究極にまぁるくなっていたのだが。
 今回はあっさり言った。
 基準がわからないぞ? マミ。

「おとしゃま、ではなくて。お父様、だよ?」
「おとしゃま」
 言い慣れているのか、父上ははっきり言えるのに。お父様は、おとしゃまになってしまう。
 うーん、と思っていると。
 廊下を通りがかったミケージャが、スススと寄ってきて。言うのだ。

「サリエル様が、さーぅと。自分の名を舌足らずに言っていた時期は。ほんの。ほーんの。短い期間でございました」
 しみじみ、というように。かみしめて言うと。ミケージャは廊下を歩いて行ってしまった。

 え? サリーが自分のことを、さーぅって舌足らずで言っていたの? なにそれ。超可愛い。
 そして、私は。マミを見下ろすのだ。
 このように、可愛い可愛い時期は。ほんの一瞬、だとぉ??

「…マミ? ずーーーっとおとしゃまでいいぞ?」
「あぁっ、おとしゃま、アブナーーイ」
 そうして、マミは。自分の馬車と私の馬車を、ガシャコーーンとぶつけるのだった。
 うーん、デンジャラス。

 ★★★★★

 別の日。今日、私は。とっておきのものを持ってきた。
 マミが喜んでくれるといいのだが。
 それに、きっと。マミの疑問も、これは晴らしてくれるだろう。

 マミの部屋に行き。今日は絵本を大人しく読んでいるマミの元へ、私は向かう。
 そして背中に隠しておいたものを、マミの目の前に置いた。
「マミ? ほぉら、サリー七歳の等身大ぬいぐるみだよぉ? マミは母上が自分と似ていたって、知らなかっただろう? でもサリーは七歳のとき、これくらいもっちりだったんだよぉ??」

 マミが絵本から顔を上げ、ぬいを見る。
 すると、ズモモという気配とともに、マミの顔色が悪くなり。
 みるみる眉間がムニョムニョと動いて。
 ピギョーーーーッと泣き出した。なんでぇ?

「え? マミ? サリーだよ? これ、母上」
「母上、なーーーい」
 さらに、ピギョーーーーーッと泣くので。
 私はどうしたらよいのやらで。
「サリーーーッ、助けてぇ」
 と貴族にあるまじきで、屋敷の中で大声を出してしまったのだった。

 その後、サリーがマミの部屋に飛んできて。ヨシヨシと抱っこしてあやして。そのまま寝かしつけてしまう。
 おおぉぅ、母の貫禄である。
 マミはそのまま昼寝してしまったので。私はサリーと移動して。サロンでお茶をいただいた。

「大声を出して、すまない。まだマミのことがよくわからなくて」
「お昼寝の時間が近かったから、寝グズもあったんじゃないかな? あと、あのぬい。マミより圧倒的にでかかったから、単純にビビったんじゃなぁい? 今のリィファと同じくらいの身長で、横幅は超丸いものね?」
 そうしてサリーはケラケラと笑うのだ。
 つか、アレが自分だって、覚えていますかね?

「レオンハルトは御子にぬいを取られたくなくて。とある場所に大事にしまっているみたいだよ? サーシャがぬいに興味を持たなくなるまで、あと十年くらいは、ぼくのぬいがレオンハルトの隣で寝ることはなさそうだな?」
 レオンハルトは、子供にぬいを渡したくなくて封印していたのか。
 大人げない。
 それで、マミは。誰にも似ていないというふうに思ってしまったのだな?
 このぬいを見せれば、一発なのにね?
 いや、マミは。あのぬいが母上だとは、認めていなかったか…。

「母親のぬいで、マミにギャン泣きされたサリーの気持ちは、どんな感じ?」
「複雑だなぁ。でもマミにそっくりだよね? なんで泣くかな??」
 そう言って、サリーは紅茶をひと口飲んでから首を傾げるのだった。

「母でもわからないことがあるのかい? 創世神なのに?」
「そんなの、わからないことだらけだよ。創世神なんて偉そうなこと言ったってぇ、子育てははじめてなんだからね。それに御子は、みんな違うから。二人目でも三人目でも、全く同じってことは絶対にないんだ」

 新米おとしゃまな私は、なにもかもがはじめてで、あたふたと右往左往してしまう。
 サリーは母の貫禄が見えるのに。
 そんなサリーでも、わからないことがあるなんて。
 子育ては、奥深いな。
 私は、勉強や世のことわりや。魔国の中のことなど、なんでも知っていると自負していたが。
 マミのことだけはお手上げなのだった。

「だからね? わからなくていいんだよ。大人だから、なんでもできるわけじゃないでしょう? 特に、子育てに正解はない。その子が幸せなら、ある意味それが正解ってことになるんじゃないかな? わかんないけどぉ」

 サリーは曖昧あいまいなことを言うけれど。
 ひとつだけ、わかったのは。その子が幸せならいいってこと。
 私はマミが幸せになるように、マミの手助けをすればいいのだなって。
 なんとなく、わかった。

「そうだ。目が覚めたときにあのぬいがあったら。またギャン泣きするかもしれないね? 今のうちにぬいを回収しておこう」
 そう言って、サロンから出た。そしてマミの部屋に行ったら…。

 マミがベッドから抜け出ていて。
 サリー等身大ぬいを背もたれにして、寝ていた。

 サリー七歳の股の間に、小さいサリーがいるみたいに見えるんですけど?

 っていうか、さっきギャン泣きしたぬいと一緒に寝ているなんて。
 ホント、子供はよくわからない。
 だけど、そこが可愛い。

 マミを見ていると、自然と優しい笑みが浮かぶ。
 私は無防備に寝ているマミの体に、毛布をかけてやった。

 マミは、私とサリーの子供。
 なんという、奇跡だろう。
 なんという、愛のかたまりだろう。
 サリーは私に、かけがえのない宝物をもたらしてくれたのだ。

 私の恋心が成就することはない。それは、悲しいこと。
 おそらく、ファウストも。同じ気持ちだろうけど…。

 子はかすがいと、言うだろう? 私に、マミがいる限り。
 私とサリーの絆は、決して失われることはないのだ。
 マミやリィファは。サリーと私とファウストをつなぐ、三人の、愛と友情の結晶。
 それこそが、最高の贈り物。

 だから、私は。幸せなのだ。

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