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おまけ ⑦ 今更ハーレムエンドと言われてもぉ【終】

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     ◆おまけ 今更ハーレムエンドと言われてもぉ

 日当たり燦燦さんさんサンルームである、一階のサロンに。
 ぼく、サリエルは。サーシャを抱いてソファに座っています。
 対面には、アリスティアが。一歳になる御子のアンジーを抱いて、座っています。
 アンジーとサーシャは同級生になる予定ですね?

 ちなみにいつもサーシャを抱っこしているレインは。今は別室で、家庭教師に勉強を教わっています。
 レインは、サーシャを抱っこしていないと調子が出ない、とか言いますけど。
 いけませぇん。勉強のときは集中してくださぁい。

 アリスの赤子であるアンジーは。もちろん、魔力垂れ流しですが。
 サーシャはそれをものともせず。
 しかしサーシャの魔力に、アンジーは反応しません。
 サーシャは果たして、魔力があるのでしょうか?
 なんといっても、魔力なしのぼくの御子なのでね? ちょっと心配。
 まぁ、でも。アンジーがギャン泣きしなくて、良かったです。

「…ってことがあって、もうわちゃわちゃで、大変だったのですけどぉ」
 ぼくはこの前、ぼくの家で起こった騒動。
『マルチェロとファウストが魔王の屋敷に住むぅ? 事件』の話を。アリスティアに語った。

「レオンハルトは結局。マルチェロとファウストに後宮内に屋敷を構えることを許したのです。後宮は、空き家が多くありましたからね?」
「そりゃ、そうでしょう。王と王妃の住む屋敷に、男が住むとか、どんな修羅場よ??」
「絶妙にいんを踏んでて面白いですが。間男ではありません。ふたりは純粋にお友達で、御子の父親です」

 ぼくは冷静にツッコみます。
 全く、もう。アリスティアの口の悪さは、インナー時代から変わっていませんね?
 アンジーが毒舌にならないことを祈ります。

「でも後宮は、御子が遊びに行ける範囲でもありますし。マルチェロとファウストが顔を出すのにも。苦にならない距離感です。屋敷も人が住まう方が、いたみをおさえられますしねぇ」

 それに彼らと一緒に住むのは、さすがに気を使います。
 レオンハルトとのラブラブぅを、屋敷ではできなくなりますから。
 ラブラブが制限されて、レオのストレスがたまったら、魔王の凶悪魔力が垂れ流されて政務官に死人が出かねませぇん。

 でもまぁ、普段から。ぼくら、人の目はあまり気にしていませんけどぉ。
 そんなところから、魔国の国民にも、魔王様は愛妻家と知れ渡っているみたいですぅ。
 ひえぇぇ、お恥ずかしい。

「でも、レオンハルトは。周りの者が『サリエルハーレム』と言っても私は知らぬからな、って。笑って言うのですよ。もう、笑い事ではありませんん」

 それでなくても、ふたりに御子を授けたぼくは。
 レインが疑ったように。
 ふたりとの浮気を疑われてもおかしくないのです。
 一般常識では、性行為を経て御子を授かるのですからね?
 えぇ、それが自然なことなのですけど。
 男性体のぼくが御子を授かること自体が、もう一般常識ではないでしょう?

 当然ぼくには、やましいところはなく。
 レオンハルトがその内情をわかっていれば。それでいいことではあるのですけれど。
 夫婦仲は、極めて円満。なのですがぁ。

 悪い噂や誹謗中傷、おとしいれ、なんでもござれの魔国ですから。
 ぼくはともかく。魔王であるレオンハルトの尊厳が崩れるようなことには、なって欲しくはないのですよ。

「それって、もしかしてハーレムエンドってやつじゃね?」
 アリスは聖母のような顔で、御子を抱っこしてあやしているというのに。
 なにやら不穏な言葉をつぶやくのだった。

「ハーレムエンドって、なんですかぁ?」
「ほらぁ、子供のときに散々振り回された、ロンちゃうのやつよぉ」
 ロンちゃう、と言われ。
 ぼくは久しぶりに、十三歳の、あのときのことを思い出しました。
 ロンディウヌス学園、どんな悪魔と恋しちゃう? 通称、ロンちゃう、というゲームに振り回されていた、あの頃が。一番ハラハラドキドキで。
 ロンちゃうの主人公に兄上を取られたらどうしようって。オロオロいたしました。
 その頃からぼくは、兄上一筋なのでしたね? 照れ照れ。
 あれから、もう十年も経ちます。懐かしいねぇ。

 そう言えば、先日レインが、ぼくの横に備考欄が出ているって言っていましたね?
 なにか関係があるのでしょうか? 心がざわざわします。

「ハーレムエンドは、主人公が攻略対象を複数、あるいは全員攻略したときに出るレアルートよ。主人公はイケメンハイパースパダリたちにちやほやされて、うふふのウハウハよ」

 美人だと評判のアリスであるのに、なにやら悪い顔でゲヘゲヘ笑う。
 もったいない。

 つか、レインが言っていたハイパースパダリというワードが、アリスからも出ましたよ?
 これはやはり、先日の備考欄と関係があるのではぁ?
 ハイパースパダリがなにかは、知らんけど。
 たずねる気にもならないけど。

「ぼくは主人公じゃありません。主人公は、アリスでしょ?」
「なに言ってんのかしらぁ? アリスが現れる前から攻略対象を無双した人が、そんなこと言わないでくださるぅ?」
 アリスにそう言われると、弱いのですがぁ。
 シナリオを大幅改変してしまって、すみませぇん。

「まぁ、家庭を持っている人もいるけど。魔王城でサリエルが公務をすれば。攻略対象がわらわら寄ってきて、そこはもうハーレム状態でしょう? みんなが…うちの旦那も含めて、サリエルにちやほやするじゃなぁい?」
「エドガーにはいつも怒られていますけど」

 宰相になったエドガーは、ぼくがのほほんとしていると、シャッキリしてくださいって難題の領地案件を突きつけてくるのだ。
 ぼくはそのたびに。へぇぇぇぁああ、となっている。
 まぁ、ぼくがぐったりしているとケーキをそっと差し出してくれるけど。

「アレは、ツンデレがデフォルトなのよ。ツンのあとには、必ずデレてるじゃない? つか、妻にデレないで、サリエルにデレるの、むかつくわぁ」
 アリスはエドガーのことを、そんな風に毒づくが。なんだかんだ、夫婦仲は良いのである。

 アリスの本体のアリスティアは。
 庭師のジュールくんが結婚してしまったときに、やさぐれて。またまた心の奥に引きこもってしまったのだが。
 エドガーに慰められて、彼の優しさに触れて。心を徐々に開いていったのだ。
 だけどやっぱり、外の世界は。アリスティアは、怖かった。
 エドガーはインナーが好きで、私のことは好きではないのではないか?
 そんな疑心暗鬼に囚われて…。
 アリスティアはエドガーを好きになったけれど。恥ずかしがって、素直に彼と話すこともできなかった。

 だからインナーが。アリスティアの心を抱っこして。心を寄り添わせて。外に出たのだ。
 私がいるから、大丈夫。あなたは、愛されている。
 そう、何度も励まして。

 そしてアリスティアは、彼女の心のままで。父と弟と話をすることができて。
 家族に、愛されていることを知った。
 そしてエドガーとも話すことができて。
 自分の気持ちを彼に打ち明けることができて。
 満足したみたいで。
 ゆっくりと、インナーの心の中に溶け込んでいったのだ。

 消滅したのではなく、融合だと。インナーは言う。
 自分の中に、本当の自分が同化したのだ。
 たぶん。アリスティアは、心が弱くて、ひとりでは生きていけなかった。
 アリスティアには、心の強靭なインナーが必要で。
 ふたりの心が、互いを支えることで。ようやく人生を歩む、したたかさを身につけられたのだろう。
 アリスティアにとってインナーは。
 彼女が生きるために、つかわされた、神の贈り物だったのかもしれないね?

 なんでか、六歳のぼくの中に寄り道しちゃったみたいだけど。
 そういうところが、がさつで迂闊うかつなインナーらしいよ。

 というわけで。アリスティア本体もエドガーが好きだから。特に問題はなく。
 ふたりが結婚する前に。アリスティアは、しっかりと融合を果たしたのだった。
 つまり、今ぼくの目の前にいる彼女は。
 アリスティアとインナーが混ぜこぜになった、アリスティア完全体なのです。

 魔国をさまよっていた野口こずえの魂は。ぼくの中のインナーという時期を経て、魂のあるべき場所にたどり着き、本当の心と体を手に入れて、今は幸せを謳歌しているんだね?

 大冒険、だったね?
 でも、よく頑張りましたインナー。もうひとりの、ぼく。

「…ま、彼はともかく。これは確実に、ハーレムエンドよ。間違いないわ」
 融合による混乱もなく、いつもの通り元気いっぱいなアリスに、そう言われるが。

「今更ハーレムエンドと言われてもぉ」
 ぼくは困り顔で。サーシャをあやすのだった。

 でも、まぁ。
 気の良い仲間に囲まれて。優しい主人に愛されて。可愛い御子もいっぱいいますしね?
 ハーレムは、ともかく。
 のほほん気分で、幸せは、幸せです。

 end

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