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エピローグ ① インナーside ①

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     ◆エピローグ ① インナーside ①

 昨日はいろいろありましたが。巻き込まれた私は、いい迷惑でしたね。
 しかし、ディエンヌの脅威が去り。
 私は侯爵家の馬車を使って、普通にのんびり学園に登校しております。

 えぇ、普通の学生に。昨日の出来事は、休む理由になりません。

 とはいえ、ずっとお友達という名の無口な男性陣に、豪華な馬車で送り迎えされるという。窮屈で不快極まりない事態は、解消されて。ヤレヤレです。
 つか、あいつら。攻略対象のくせに。
 主人公に話しかけるくらいの気遣いも見せられないとは。

 でも、まぁ仕方がない。
 やつらは子供のときから、サリエルしか見えていないのだからね?
 それでなくても、ぽっと出の転生ゴミくず主人公なのに。 
 そんなぁ、天使ちゃんには太刀打ちできないよぉ。

 いやいや、別にぃ? 攻略する気はなかったですわよぉ?
 空気読めない、腹黒、猟奇、むっつりサムライ、勉強オタなんてっ。
 兄上以外は、願い下げですぅ。

 ま、兄上も。ちょっとアレだけどね。
 溺愛すぎて、溺れる未来しか見えない。
 一言で言うと、激重げきおも
 アレはやはり。サリエルに任せよう。サリエルしか、操縦も制御もできないだろうし。うん。

 だけど彼らは。サリエルが天使だから、彼を好きになったんじゃない。
 あの、ふんわかのほほんの愛らしい性格や。
 仕草やフォルムを…フォルム、を? 好きになったんだからね?
 そうそう、ぽっちゃりとかどうでもよくなるくらい。サリエルの性格が良いってことよねぇ!!
 と、心の中で声を大にして言ってみる。

 ダイエット、推奨していた私は。余計なお世話だったのかしらねぇ?

 いえ、うすうす感づいてはいたのよ。
 だって、あの子。なにをしても、やせないし。
 むしろ、シワるし。
 げっそり感が半端ないから。そりゃ兄上も心配するわよね?
 だから、私も。最後の方では、あまり口うるさくダイエットって言わなくなったわ?
 前世のときみたいに、食事制限と運動でスレンダーボディ。という体質じゃなかったのだもの。

 とはいえ。まさかの、イモムシだったとはねぇ…いえ、天使だけど。
 あの羽化シーンを見たら。
 あぁ、イモムシだったんだなって。なんか、納得しちゃったわ?
 だって、やせたイモムシなんか、いないものね?

 そんなことを思っていたら。学園についたわ。
 学園の、馬車のロータリー。降車口に降り立っても。誰もいないわね?
 ちょっと早く来すぎたかしらぁ。
 なんだか、目が冴えちゃって。昨夜はあまり寝られなかったからぁ。

 なんといっても。ディエンヌが国外退去になったのが。嬉しくて。
 嬉しくて。嬉しくて。
 なんでか『ロンディウヌス学園、どんな悪魔と恋しちゃう?』通称、ロンちゃう。の、主人公なんかに転生しなきゃならなくてぇ。
 私の命も風前の灯火だったがぁ。
 転生直後に、死が決定。みたいなところがあったけどぉ。

 ディエンヌ退場で。私の人生はこれで安泰。あざっす。

 まぁ、彼女がどうなっちゃうのか。考えると。ちょっとブルーになるけど。
 そこは、華麗にスルーよ。
 私がなにをしても、変わらないことだしね?

 一応処刑ルート、断頭台の露に消える場面は回避したのだから。
 彼女にとっても、最悪ではないはずよ?
 うん。そういうことにしておこう。

 まぁ、でも。そんなこんなで。
 学園には、私の…というか、サリエルのお友達連中は、ご登校していないようだけど。
 もしかしたら、みんなお休みかもねぇ?
 とりあえずサリエルは。今日は来ないんじゃないかしら?

 だって。制服ビリビリになっちゃったし。
 つか、身長も、二、三十センチくらい伸びたんじゃないかしら? 足も手も長くなったし。
 私の身長と、体形に、ほぼ近いんじゃない?

 いわゆる、サイズの合う制服がないってことよ。

 あ、私の制服を貸してあげれば良かったのかしらぁ?
 でも、スカートだけど。ふぇふぇふぇ。

 それに、あのビラビラしていた羽も、どうするのかしらねぇ?
 魔族みたいに格納できるのかしら?
 つか、天使って言ったら。多くても、羽は十二枚じゃないの?
 それが、常識だったんだけど?
 二十四枚羽って、なに? 多すぎで、イソギンチャクみたいにしか見えなかったわ?

 いやいや、こずえ。それは地球の人間の想像と思い込みであって。
 天使の姿なんて。当時も、誰も、見たことがなかったに決まっているわ?

 なんか、サリエルの説明だと。神様も、結構癇癪かんしゃく持ちだったし。
 癇癪持ちの完璧主義って。扱いづらそうじゃね?
 サリエル、ブラック企業戦士だったんじゃね?
 パワハラ上司系じゃね?

 まぁ、でも。なんでか私をここに送り込んだのは。たぶん神様みたいな大いなる力のせいだったのだろうから。
 転生は感謝してます。あざっす。罰当たりなこと思って、すんませぇん。

 あぁ、そうそう。
 私の本体、アリスティアちゃんは。
 今も心の奥の方で、テレビを見ています。

 ディエンヌがザマァされて、よっしゃあと拳を突き上げていましたが。
 出る? って聞いたら。出ないって。

 でも、侯爵家に戻ると。
 ちょろちょろ出てくるから。
 あと、もうちょっとかしらね?
 急がない、急がない。
 こういうのは、焦らせちゃダメなのよ?

 そんなことを思っていたらねぇ。来たわよ。
 あの、入学式のときに使った、ヤー…が使っているような、黒塗りのドラベチカ家の紋章の付いた馬車がね?
 その後ろには、王族の馬車と公爵家の馬車が、きらびやかに列をなして、やってきたよぉぉ?

 もう、派手だなぁ。

 これはレオンハルト兄上のせいでしょう。
 えぇ。あの、溺愛過保護ボンバーの兄上が。サリエルを送ってきたに決まっているわぁ。

 げっそり。
 想像通り、黒塗りの馬車からは、まず兄上が降り…。

 はあぁぁああ、サリエルに任せるとはいっても。やはり兄上はカッコイイっつーの。

 黒い衣装の上に、黒いマントを羽織って。バサリとひらめかせる。
 藍色の長い髪がつややかで。しっとりしていて。
 とにかく、目力が圧倒的というか?
 魔王様はエロっぽいけど。
 兄上の切れ長の目は、同じ流し目でもストイックで。華麗で、シャープで。

 エレガントスパダリ、最っ高ぉぉぉ。

 私もやはり、うっとりしちゃうわぁぁ? 眼福。
 私の目が、狂喜乱舞している。好きぃぃぃ。

 そして兄上の差し出した手を取って。
 サリエルが、フワワンと降りてきた。
 えぇ、例の、あれです。ちゃんと踏み段を使いなさいよ、と毎回思うのだけど。
 空を飛ぶ感覚が好きなのか、サリエルは兄上がエスコートするときは、馬車から飛んで降りるのよね?
 兄上も甘やかして、サリエルがこけないようにフォローするものだから。
 サリエルったら、調子に乗っちゃって。飛ぶのよね?
 つか、天使の羽で、もう好きなだけ飛べるんだから、馬車から飛び降りなくてもいいでしょうにっ。

 あ、白い制服着てるじゃん。どゆこと?
 昨日は細かいウェーブの、赤い髪だったのに。
 今日は、超ストレートのロングヘアだわ?
 蛍光色でキラキラして、サラリンと風になびいている。

 そして、その細面の白肌に。
 歩いてご登校中の男子生徒が、目を奪われていますよぉ。

 君たち、今見惚れてるそれ。サリエルだからね?
 陰で、もっちりニワトリって、呼んでいた人だからね?

「あ、アリスぅ、おはようございまぁす」
 その言い方は、まぎれもなくサリエルだけど。
 兄上と並んでにっこりするのは、まるで別人。

 サリエルがやせたらこんな感じ…という片鱗すらないんだよねぇ?

 だけど。兄上の胸のあたりに、頭が来る身長差。
 ベストバランスっ!!
 これよぉ、私が子供のときから目指していたやつぅ。

 私は、親戚の世話焼きババアのように。目を細めて、うんうんと感慨深くうなずくのだった。

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