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番外 スズメガズスというものは

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     ◆スズメガズスというものは

 我は、スズメガズス。個体名は、ない。
 しいて言えば。我が目をつけている清らかな魂が、我のことを『すずめぇ』と呼ぶので。
 それで良い。
 まぁ、本来は。下等な生物に馴れ馴れしく呼ばれたりしたくはないがっ。
 アレは、清らかな魂だからな。
 我らは清らかな魂の親となって、その魂を長く育てることが使命だからな。
 清らかな魂は、言わば我が子も同然。
 なので、清らかな魂に名を呼ばれるのは。やぶさかではない。

 そう、スズメガズスというものは。
 この星の中で一番えらく。高貴な生物なのである。

 ゆえに、この星にはびこる、下等で、醜く、汚泥おでいにまみれた魂の者は。
 我の姿を見るのも、おこがましいのである。

 偉そうに、だとぉ? そうではない。
 我がこのように威厳があるのは。そこに理由があるからなのである。
 なぜなら。我らスズメガズスは。

 この星ができて、一番に形作られた生物。始祖鳥しそちょうだから、なのである。

 どうだ? 偉いだろう? 尊いだろう?
 この、丸くてプルンとしたフォルムは。神が手ずから御作りになった、究極の美である。
 だから一番偉くて、高貴なのだ。

 さらに、大きなわざわいが降ってきた、あの未曽有みぞうの大惨事をも乗り越えた、唯一の生物でもあるのだっ。
 どうやってアレを生き延びたのか?
 それは。スズメガズスの性質によるのだ。

 神が手ずから作りたもうた、スズメガズスは。清らかな英気を食事にしている。
 今で言えば、赤子の中でも、特に清廉な親から生まれた、優れた清らかな魂。それを育てている間、英気を浴びることで。食事としているが。

 災いが落ちてくる前の時代は。まだ、人間は誕生していなかった。
 当時の食料は、木の実であった。
 満足など出来なかったが。体も小さかったから、それでまかなえたのだ。
 しかし災害が起きて。
 どこもかしこも焼けてしまった。あのとき。

 我らは、元々の資質であった清らかな英気を求めて、飛んだ。

 そして、たどり着いた先は。精霊の元。
 水や、木や、大地に根づく精霊が発する気は。我らには最高の御馳走であり。
 精霊のあるところには、災いが届かなかった。もしくは精霊が災いを退けたのである。

 そうして、あの生きづらい時代を。精霊の英気を浴びることによって。
 ブクブクと太…いや、体も能力も大きくなって。だな?
 スズメガズスだけが、乗り越えられたのであった。

 と、スズメガズスたちの間で言い伝えられている。
 はぁ? 見てきたように言うな? なん千年も前の話だぞ。生きてねぇわ!!

 とにかくっ。我らはそういう生き物。
 ゆえに。この星で一番偉くて、高貴なのだっ。

 ところで、我が目をつけていた、あの清らかな魂であるが。
 なにやら、ここ最近。気配に変化があったのだ。

 あの者の英気は、格別でな?
 本来、赤子を養っているときは、一日一回は英気を浴びたいところであるが。
 あの者は、一年に一回、ちょっとやり取りしただけでも。

 一年はゆうに活動できるほどの、極上の英気が吸えるのだぁ。

 あの者を、我が育てられたら。
 この星にいるスズメガズスの腹を、すべて満たすことができて。
 我は、スズメガズスの王になれるかもしれないな? げへげへげへ。

 そんな欲望を秘めているから。
 なんとか、あの者を巣に連れ帰りたくて。毎年いろいろやるのだが。
 でも。一年に一回会うだけで。我は満足してしまうのであった。腹が。

 しかし、そんなあの者も。なにやら変容したようで。
 でも魂が清らかな気配は、変わっていないので。
 魂が汚れたわけではなさそうだが。
 まさか、童貞喪失かぁ?
 まぁ、詳細は。行ってみなければわからぬな。

 というわけで。
 以前会ってから、一年は経っていなかったが。
 我は、あの者の元へ様子を見に行くことにしたのだ。

     ★★★★★

 早朝は、下等な汚い魂の者が外を出歩いていないから。魔国でも空気が美味い。
 そして、あの者の極上な英気を浴びられると思うと。気分も上々で。
 チュンチュンと、気持ちも晴れやかに歌いたくなるというものだ。
「ううううぅうぅうぅうるさぁぁぁあああい、ごぉらぁああ! スズメガズスぅぅう。まだ誕生日、来ていないんですけどぉお???」

 スパーンと窓を開けて言い放った、あの者。
 しかし、しかし。その変容に。
 我はっ。我はーーっ。
 ぱたり。

「ああぁぁあ? す、すずめぇ? エリーン、大変。スズメが死んだぁ」

 死んでねぇわっ。
 ただまぶしすぎて、目が焼かれそうになっただけなのだ。

 あの者の変容は。言うなれば。
 今までは、半透明の膜の中でキラキラしていた、清らかな魂が。
 き身になって、ビカビカーンみたいな感じである。

 そうなのだ。実は。我ら、スズメガズスは。
 人の形が見えない、生き物なのだ。

 同胞や魔獣の姿は、見えるのだがな?
 人族や魔族や獣人などは、魂の色と形だけが見えるのである。
 だからよく、あの者が。我を『ぽっちゃり好きなのに決まっている』とか。『身長が伸びたから』とか、言っていたが。
 我には、清らかな魂がフルフル震えて怒っているみたいにしか、見えないのだ。
 まぁ、怒っているとか心配しているとか。そういうのは。魂を見れば、大体わかるが。

 つか、今あの者は。
 すずめぇ、と我の名を呼びながら。な、泣いている、のかぁ?
 我のような通りすがりの者にまで、魂をこのように震わせるなんて。こ、これは…。

 これは、使えるっ!

「わ、我は…もう、駄目だぁ…」
 と、いかにも、もう死にそうな演技をしてみる。

「さ、最後の、頼みだ。我の巣に来て、我を看取ってくれないかぁ?」
「すずめぇ…あぁ、どうしたらいいのぉ? すずめぇ」
 ギラギラしく輝く魂が、我のそばに座って。
 心配して、我をゆさゆさと手で揺さぶる。

 だから、我の白い布におとなしく乗ればよいのだっ。
 と思って。ちらりと、目を開けてみたら。

「サリエル様、あぶなーーい」
 よもや、感情のない声で叫んだオオカミ形の魂が。炎で我の布を燃やしやがった。
 クッソぉ。またもや邪魔をしおってぇ、オオカミめ。

 我にも火が移りそうになったから。シュタッと立ち上がる。
「あぁっ、死んだふりしていたのかっ! すずめのくせに、姑息な真似をしてぇ」
 それにしても、この者は。毎年思うが。

 ちょろいな?

「つか、スズメガズスぅ。ぼくのこの姿を見て。どうよ? この、長ーくなった手足。そして細面な顔。もうスズメガズスの好きな、ぽっちゃりではなくなったのです」
 清らかな魂が。魂的に胸を張って、言う。
 つか、どう変わったのか、見えていないし。
 ぽっちゃり好きなわけでもないっ。

「でも、まだ童貞であろう?」
 言うと、この者はハウッと息をのんだ。
 図星のようである。
 そして、ちょろい。

「我は何度でもやってくるぞっ? 貴様が童貞の内はなっ」
 羽でズビシと差して、明言すると。
 清らかな魂は、ワナワナとしている。
 ふふふ、動揺しおって。まだまだ未熟な、羽化したての魂のようだな?
 でも、まぁ。これならまだ清らかな魂は、当分は清らかなままであろう。

 我は満足して。主に、お腹が。
 そして、意気揚々と飛び去ったのであった。
「もう、来ないでぇーーーぇぇぇ」
 あの者の情けない声が、後を引いていた。

 しかし。実を言うと。
 童貞を失うと清らかな魂が汚れる、というのは。嘘である。
 あの者が『恋をして、エロエロで、魂は真っ黒』とか。嘘を言うから。
 それっぽい話をして、からかってやっただけだ。

 人間が清らかな英気を発する時間は、ごくわずかである。
 そういうモノが、性的なものに目覚めるまで清らかな英気を発したという、前例がない。
 しかし、あの者は。言葉を交わす年になっても、魂が清らかなまま。
 それは。

 元々、魂が清らかな生き物、ということだ。

 だから。あの者が童貞を失っても。
 たぶん。魂が汚れることはないだろう。

 つか。あの者は。童貞を失う機会には、恵まれないような気がする。
 なんとなく、そんな気がするなぁ?

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