魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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113 素晴らしい御褒美

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     ◆素晴らしい御褒美

 ホントにホントに、空気の読めないラーディン兄上が、ちょっと待ったーーっと声をかけ。
 ぼくと、こめかみをヒクヒクさせる兄上のそばに、婚約破棄虎視眈々勢のみなさんが寄ってきました。

 ななな、なんですかぁ?

「兄上、それをご褒美と言ったら、サリエルの気持ちがわからないではありませんか? サリエルが真に愛する者に、その御褒美を与えるべきで。つまり。生涯の伴侶は、サリエルに選択させるべきですっ。サリエル? おまえは誰が好きなんだ? 本当のところを教えろ!」

 ラーディン兄上が、ぼくをジッとみつめて。他のみなさんも、ジーっです。
 ぼくはフヨフヨ浮かびながらも、オロオロになりますが。
 ここは、はっきり言わなければなりません。

「…ラーディン兄上、ではないことは確かです」

 これはっ。ぼくの言い方が、悪かったのかもしれません…。
 ラーディン兄上は、一瞬喜びましたが。
 すぐに、ズッコケました。
 そして牙をむいて、ガッと怒ります。

「っなんでだよっ?? おまえは、わかっていないな? 好きな子をいじめてしまう男心が」
「好きな子をいじめるとか。ラーディン兄上は、お子様です。いまどきそのようなアプローチでなびく人など、いませんよ??」
 つか、皆まで言わずともわかりますよね? ラーディン兄上は、ないって。
 涙をのんだ、ラーディン兄上が下がり。マルチェロたちが前に出る。

「私は、サリーに優しくしてきたつもりだよ?」
「私もです。サリエル兄上を愛する気持ちは、誰にも負けません」
「……」
 マルチェロとシュナイツが、ぼくにアピールして。
 でも、ファウストは。無言だった。
 ぼくがファウストをみつめると。ようやく、口を開く。

「私は、サリエル様を生涯守るお役目をいただきたいだけです。あなたのそばにいられれば。伴侶でなくても構わない。あなたの笑顔を、そばで見守る栄誉をお与えください」

「ファウスト。その願いは、叶えます」
「ありがたき幸せ」
 ファウストは床に膝をつくと。一歩下がった。

「そして。シュナイツ、マルチェロ。ふたりとも大好きだよ?」
 ぼくの、一番はじめのお友達、マルチェロ。
 そして、血のつながりはないのに、ぼくに懐いてくれた可愛い弟のシュナイツ。
 君たちが大好きだし、愛している。もちろんだよ? でも。

「だけど、ごめんね? ぼくは…レオンハルト兄上が好きなのです」
 告げると。ふたりは眉尻を下げる、ちょっと切ない表情になった。
 でも、唇は。微笑みをかたどっている。

「兄上は、ぼくにいっぱいの愛情を注いでくれました。だからぼくは、実の母や妹にうとまれても。心が傷ついても。この世界で生き抜くことができたのです。それに…」

 ぼくは、言葉の続きを言う前に、兄上をみつめる。
 優しく、強く、気高く、愛にあふれた、兄上を。

「それに、ぼくを抱き上げてくれたあのときから。ぼくにとって、兄上は特別なのです」

 ぼくを、ニワトリと間違えたけど。
 兄上のお庭で、まだ赤ん坊のぼくは、彼に抱き上げられた。
 このままでは生きていけない。そんなときに、出会い。
 ぼくを助け、守ってくれた。ぼくの救世主。
 兄上は、ぼくの特別な。大切な、愛おしい人。

「兄上。そばに生涯いてほしい。それを褒美としてくれと、言いましたね? でも、それでは。ぼくがあなたから受けた数々の愛情を、返し切ることはできません。なので…」
 ぼくが言い淀むと。兄上は、どこか不安そうな顔をした。

 却下されると、思っているのですか?
 そのようなことは、いたしませんよ。
 どころか。もっと。もっとを。ぼくは考えているのです。

「兄上、お約束しましょう。ぼくは、あなたが永遠の眠りにつくまで、ずっと共にいます」

 ぼくの言葉に。兄上は、驚きに目をみはった。

「そして、あなたが眠ってしまったら。ぼくもしばし、英気を養うために眠ることにいたします。そしてあなたの魂が、再びこの世界に巡ってきたら。ぼくも目覚めて、もう一度あなたと恋をする」

 未来永劫、兄上と共にいる約束を。ぼくは、言葉につむいだ。

「ぼくが元の力を取り戻し、神に許されて、本当の故郷に旅立つまでは、途方もない時間がかかるのです。それこそ、月を小石と感じるくらいに、力も体も、大きく、大きく、ならなければなりません。だから、そうなるまでの間。ぼくは、何度も、何度も、あなたと恋をします」

 ぼくが微笑みかけると。
 兄上も、麗しいお顔を優しげに微笑ませます。
 ぼくの好きな、兄上のお顔です。

「レオンハルト。あなたがぼくに注いでくれた愛情への返礼は。これでも、全然足りていないように思います。だから、ぼくは。兄上がもうお腹いっぱいだと思うくらいに、これからいっぱいの時間をかけて、愛を返します。そしてあなたを、いっぱい幸せにする」

 でも、ぼくの言葉に。兄上は小さく、首を振る。
「そんなに、張り切らなくて良いんだよ? サリュ。おまえが私のそばで笑ってくれる。これ以上の幸せは、私にはない」
「兄上、ぼくの御褒美を受け取ってくださいっ。ぼくは、あなたの花嫁になって、ずっとあなたのそばにいる。そして、笑うから。ずっと、ずっと」

 そう言って、いつもの感じで、ニパッと笑う。
 前の顔ではないけれど。ぼくの中身は、変わっていないから。
 ぼくは、いつもの通りに笑いかけるんだ。

 そうしたら、兄上はぼくをギュっと抱きしめてくれた。

「あぁ。なんて。なんて、素晴らしい御褒美だろう。サリエル。喜んでこの御褒美を受け取るよ」
 良かった。兄上は、ぼくの精いっぱいの御褒美を、受け取ってくれました。
 そして、喜びに声を弾ませて言うのです。

「私はきっと、この先何度もおまえに恋をする。どんな立場だろうと、どんな姿だろうと、必ずサリュを探し当て、熱い、熱い、恋をするのだ。それが運命さだめになるのなら、きっと死すらも怖くなくなる」
「それはいけません。長生きしてくださいませ?」
 ぼくがたしなめると。
 兄上は、それでも嬉しそうな顔をして、ぼくの額にチュウするのだった。

「あ、欲を言うのなら。あとひとつだけ。人も大地も生み出した、高位生命体のサリエルなら。私の子供くらい簡単に産み出せるだろう? 産んでくれ。私とおまえの、可愛い子を」
「はいぃ、兄上っ。ぼく、兄上の御子を、う、う、産みまぁす」

 みんな、ぼくと兄上の話を、微笑ましく見守っていたというのに。
 ぼくの宣言を、聞いた途端。
「えええぇぇぇえ? 産めるのぉ??」
 と、ラーディンも、シュナイツも、アリスティアも、驚きの声をあげ。
 マルチェロとファウストは、納得顔で、うんうんとうなずくのだった。

 だけど、そんなに驚くことではないはずですよ? 特にっ。
「アリスっ、君は以前、サリエルが産めばぁ? と言っていたではありませんかっ。だからぼくは、産むのですっ。ぼくの力は、ほとんど大地に吸いつくされてしまったけれど。ぼくは、地上のあらゆる物質の源なのですから。兄上の御子を、産みますっ。決定ですっ」

 ぼくは拳を握って、力の限りに言います。
 大事なことなので、二度、言いましたっ。

 するとアリスは、呆れたようにため息をつき。肩をすくめる。
「はぁっ、まさか、ツノなし、魔力なしのサリエルが、なんでもありの天使チートだったとはね? こんなの、予想できるわけないっつーの。でもさ、天使のあなたがどうして、冷血ババァのサキュバスから生まれたの?」
 もうちょっと人を選んで生まれてきなさいよねぇ、なんてアリスが言うのに。

「はーい、それ、俺のせいかもしれねぇわ」
 そう言って、手をあげたのは。

 ひとり蚊帳の外にいた、勇者だった。

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