上 下
151 / 180

111 立派でなくてもいいぞ?

しおりを挟む
     ◆立派でなくてもいいぞ?

 言わなければならないことを、言おうと思ったのですが。
 邪眼のせいで動けなかった兄上が。動けるようになったら、一目散に階段を駆け上がり。
 ぼくのところまで来てくれるようなので。それを待ちます。

 目の前まで来た兄上は、手に持っていたマントを広げて。裸んぼのぼくに着せ掛けてくれた。
 マントを後ろ前にして、ぼくの前面を隠し。首のところで、エプロンみたいに紐を結んでくれる。そして、余ったヒラヒラ部分も、腰に巻いて結んでくれました。
 すみません、ぼくは皮を持っていて、両手がふさがっているものですから…。でも。でもでも。

 そうだっ、これは、裸エプロン状態ですっ。

 インナーのエロ知識で、ぼく、知っていますっ。
 でも背中は、羽がビルビル動いているので。後ろが裸で無防備でも、仕方がないのですぅ。

 それはともかく。
 兄上は、そのまま。ぼくをギュッと抱きしめる。

「羽が生えても、飛んでいったら駄目だと。言っただろう?」
 優しい声音で、兄上がぼくの耳元に囁きます。ほわわーん。
 そうでした。いつかの朝食のときに、そう言っていましたね?
「大丈夫ですよ、兄上。空を飛べるようになっても。ぼくは、兄上の周りをくるくる飛んで、ウザいぐらいにフヨフヨするのです。その約束を、忘れてはいませんよ?」

 抱き締められて、兄上の体温や感触を、じっくり堪能します。
 あぁ、良かった。兄上がご無事で。
 それに、ぼくも。怖かったですし。兄上が来てくれたら、もう安心です。

 あとあと、なにやら。ぼくの身長も伸びているから。兄上の胸の中に、キュウと抱き込まれて。
 とっても、ベストバランスな感じです。
 今までは、兄上の腰にへばりつくのがせいぜいでしたがっ。
 そうです、これです。
 ぼくの目指していた、ダンスも踊れるベストな身長差は、これでぇすっ!!

 それから、裸を隠せたのもありがたいです。
 ぼくの白い制服は、皮と一緒にビリビリですので。
「サリュ、私の前以外で裸をさらしては、ならぬ」

 兄上に、そう言われましたが。
 えええぇぇぇえ?
 ぼくまだ、兄上の前でも、裸はさらしたことはありませんからぁ。
 そのような、そのようなぁ…は、破廉恥なことはぁ…。
 あ、あ、赤ちゃんのときに、三回ほどありましたけどね? 赤ちゃんは、ノーカウントですからぁ。

「わ、わかりましたけど。あの、兄上。ぼくは言うべきことがあります。聞いてください」
 兄上とともに階段を駆け上がって、ぼくの前まで来たみなさんへも向けて。
 ぼくは、両手に持つぼくの抜け殻をかざして。告げました。

「ポヨーン、お知らせです。これは、森羅万象を育みし聖衣である。乾かした後で、煎じて飲むと。人族は、寿命まで無病息災。魔族は、魔力が現状の二倍になります。ぼくに良くしてくださったみなさまへの、ご褒美でございます。差し上げます…けどぉ」
 なんか、言わなきゃいけないような気がしたから、とりあえず言ったけど。
 ぼくは、手に持ったぼくの皮をみつめ。
 キモっ、って思い。
 いくら聖衣って言ってもさぁ、皮だよぉ? キモっ。って思って。
 こんなもの、煎じて飲めるぅ? って思って。
 でも、一応。
「いる?」
 って聞いてみた。

「なんか、いきなり美少年になっちゃったし。言葉もおごそかぶってて。その変容っぷりに驚きっぱなしだけど。最後の方は、いつものサリーだね?」
 マルチェロが、つぶやいた。
 えぇ、中身はあまり変わっていないと思いますけどぉ。
 それに、ぼくは。今でもぽっちゃり気分なのです。十三年、ぽっちゃりでしたから。
 あのクリスタルに映った美少年が、自分だとか。
 全くのみ込めておりませんので。

「このお知らせは。なんか、心の中の、どこかの誰かに言えと言われたので、口にしましたが。なんというか、遺伝子レベルの記憶のような、とっても古いものですから。ぼく自身はなんにも変わっておりませんよ? ただ、羽化しただけ。みたいです」
「羽化…」
 みなさんが考え込むように、つぶやくのですが。

「それはともかく、これ、いるのですか? いらないのですか?」
 皮をブルブルさせながら、聞いたら。

 勇者が階段の下から、チャチャを入れてきた。
「はーい、いらないのなら俺がもらいまーす。無病息災、ありがたいでーす」

「こちらは、ぼくに良くしてくれた方へのご褒美なので。今日初対面のあなた方には、あげられません」
 告げたら、勇者はチェーっと言って。拗ねた。
 軽いテイストですね?

 つか、勇者以外の仲間の方は。兄上に吹き飛ばされて、みなさん気絶しているのに。
 勇者だけ、無傷なんですけど?
 そして、仲間を心配する様子がないんですけど?
 ドライ、なのですね?
 やっぱり勇者クラスは、どこかネジがぶっ飛んでいるのでしょう。

「サリエル、もちろん欲しいに決まっている。よくはわからないが、人族には渡せない貴重なものなのは、ひしひし感じる」
 ラーディン兄上がそう言うので。
 ぼくは彼に抜け殻を渡した。

「では、えっと…いい感じにみなさんで分けてくださいね? あ、ディエンヌには絶対にあげないでくださいね? 嫌な予感しかしません」
 っていうか、彼女はぼくに、やらかししかしていないので。
 ぼくの恩恵の資格はなしです。
 むふん、と。鼻息荒く。口をへの字にして、思っているとき。
 兄上が言った。 

「それはおまえたちと、アリスティア嬢の五人で分けなさい。私はサリュから、別のご褒美をもらう」

 ぼくは。兄上にこそ、ぼくの最高のご褒美を差し上げたかったのに。
 違うものが欲しいと言われ。ちょっと動揺した。
 いえ、ぼくにできることでしたら、なんでも。兄上には、なんでも差し上げたいのですがぁ。

「兄上、その前に。一番肝心なことを知りたいです。サリエルはいったい、何者なのかっ。そしてなんで、アレがないのかっ!!」
 ラーディンに、指をさされたのが。ぼくの股間だったから。

 ぼくは、へえぇぇぇぁああ? となるのだ。

 いえ、マントで今は見えないはずですが。
 シュナイツも、マルチェロも、ファウストも。
 アレがなかったと、ひそひそコソコソしています。
 むきぃぃ。
 兄上が人前で裸をさらすなと、マントを貸してくださいましたが。
 時すでに遅し、だったようですぅ…。

「アレは、ないのではないのですぅ。羽化直後は、まだ性的未分化なので。その気になったら立派なモノが、ババーンと生えてくるのですぅ!!」

 そうです。アレは、いわゆる男の子が股間に息づかせている、アレでございますが。
 クリスタルに映ったぼくには。なかったのです。アレが。
 でも、どうしてないのか。理由はなんでか、ちゃんとわかっていました。

「サリュ…立派でなくてもいいぞ? 適度に、な?」

 兄上に言われ。
 ぼくはまた、へえぇぇぇぁああ? となるのですが。
 あぁ、もしかしたらぁ。
「あ、あ、兄上は、やはり。女性体の方がお好みですか?」
 どちらにもなれるので。聞いてみる。
 でも兄上は、首を横に振った。

「いや? サリュはずっと、男の子だったから。まぁサリュが、なりたいものになればいいよ? 私はどんなサリュも、サリュだから大好きなのだ」
 そう言われて。ホッとした。
 十三年間、男として育ってきて。
 いえ、淑女教育もバッチリではありますが。
 でも、なんとなく。ぼくは、ぼくでありたかったので。
 男でも、女でも。ぼくであれることは、とても嬉しいことだし。
 兄上は、どんなぼくでも好きでいてくれるって。

 それが一番、重要だからね?

「それに、サリュは。男性体でも、子をなせるだろう?」
 レオンハルト兄上の言葉に、ぼくは、息をのむ。
 兄上は、聡明なお方だから。
 ぼくの正体を、知っていたの…でしょうか?
 ぼくだって、つい先ごろ気づいたことだというのに。すごいですね?

 そう、ぼくは。とうとう、ぼくが何者なのか。それを理解したのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす
BL
異世界転移に巻き込まれた憐れな俺。 騎士団や勇者に見つからないよう、村人Aとしてスローライフを謳歌してやるんだからな!! *********** 異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、ヒラリヒラリと躱す村人A(俺)の日常。 イケメン(複数)×平凡? 全年齢対象、すごく健全

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...