魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

文字の大きさ
上 下
150 / 184

111 立派でなくてもいいぞ?

しおりを挟む
     ◆立派でなくてもいいぞ?

 言わなければならないことを、言おうと思ったのですが。
 邪眼のせいで動けなかった兄上が。動けるようになったら、一目散に階段を駆け上がり。
 ぼくのところまで来てくれるようなので。それを待ちます。

 目の前まで来た兄上は、手に持っていたマントを広げて。裸んぼのぼくに着せ掛けてくれた。
 マントを後ろ前にして、ぼくの前面を隠し。首のところで、エプロンみたいに紐を結んでくれる。そして、余ったヒラヒラ部分も、腰に巻いて結んでくれました。
 すみません、ぼくは皮を持っていて、両手がふさがっているものですから…。でも。でもでも。

 そうだっ、これは、裸エプロン状態ですっ。

 インナーのエロ知識で、ぼく、知っていますっ。
 でも背中は、羽がビルビル動いているので。後ろが裸で無防備でも、仕方がないのですぅ。

 それはともかく。
 兄上は、そのまま。ぼくをギュッと抱きしめる。

「羽が生えても、飛んでいったら駄目だと。言っただろう?」
 優しい声音で、兄上がぼくの耳元に囁きます。ほわわーん。
 そうでした。いつかの朝食のときに、そう言っていましたね?
「大丈夫ですよ、兄上。空を飛べるようになっても。ぼくは、兄上の周りをくるくる飛んで、ウザいぐらいにフヨフヨするのです。その約束を、忘れてはいませんよ?」

 抱き締められて、兄上の体温や感触を、じっくり堪能します。
 あぁ、良かった。兄上がご無事で。
 それに、ぼくも。怖かったですし。兄上が来てくれたら、もう安心です。

 あとあと、なにやら。ぼくの身長も伸びているから。兄上の胸の中に、キュウと抱き込まれて。
 とっても、ベストバランスな感じです。
 今までは、兄上の腰にへばりつくのがせいぜいでしたがっ。
 そうです、これです。
 ぼくの目指していた、ダンスも踊れるベストな身長差は、これでぇすっ!!

 それから、裸を隠せたのもありがたいです。
 ぼくの白い制服は、皮と一緒にビリビリですので。
「サリュ、私の前以外で裸をさらしては、ならぬ」

 兄上に、そう言われましたが。
 えええぇぇぇえ?
 ぼくまだ、兄上の前でも、裸はさらしたことはありませんからぁ。
 そのような、そのようなぁ…は、破廉恥なことはぁ…。
 あ、あ、赤ちゃんのときに、三回ほどありましたけどね? 赤ちゃんは、ノーカウントですからぁ。

「わ、わかりましたけど。あの、兄上。ぼくは言うべきことがあります。聞いてください」
 兄上とともに階段を駆け上がって、ぼくの前まで来たみなさんへも向けて。
 ぼくは、両手に持つぼくの抜け殻をかざして。告げました。

「ポヨーン、お知らせです。これは、森羅万象を育みし聖衣である。乾かした後で、煎じて飲むと。人族は、寿命まで無病息災。魔族は、魔力が現状の二倍になります。ぼくに良くしてくださったみなさまへの、ご褒美でございます。差し上げます…けどぉ」
 なんか、言わなきゃいけないような気がしたから、とりあえず言ったけど。
 ぼくは、手に持ったぼくの皮をみつめ。
 キモっ、って思い。
 いくら聖衣って言ってもさぁ、皮だよぉ? キモっ。って思って。
 こんなもの、煎じて飲めるぅ? って思って。
 でも、一応。
「いる?」
 って聞いてみた。

「なんか、いきなり美少年になっちゃったし。言葉もおごそかぶってて。その変容っぷりに驚きっぱなしだけど。最後の方は、いつものサリーだね?」
 マルチェロが、つぶやいた。
 えぇ、中身はあまり変わっていないと思いますけどぉ。
 それに、ぼくは。今でもぽっちゃり気分なのです。十三年、ぽっちゃりでしたから。
 あのクリスタルに映った美少年が、自分だとか。
 全くのみ込めておりませんので。

「このお知らせは。なんか、心の中の、どこかの誰かに言えと言われたので、口にしましたが。なんというか、遺伝子レベルの記憶のような、とっても古いものですから。ぼく自身はなんにも変わっておりませんよ? ただ、羽化しただけ。みたいです」
「羽化…」
 みなさんが考え込むように、つぶやくのですが。

「それはともかく、これ、いるのですか? いらないのですか?」
 皮をブルブルさせながら、聞いたら。

 勇者が階段の下から、チャチャを入れてきた。
「はーい、いらないのなら俺がもらいまーす。無病息災、ありがたいでーす」

「こちらは、ぼくに良くしてくれた方へのご褒美なので。今日初対面のあなた方には、あげられません」
 告げたら、勇者はチェーっと言って。拗ねた。
 軽いテイストですね?

 つか、勇者以外の仲間の方は。兄上に吹き飛ばされて、みなさん気絶しているのに。
 勇者だけ、無傷なんですけど?
 そして、仲間を心配する様子がないんですけど?
 ドライ、なのですね?
 やっぱり勇者クラスは、どこかネジがぶっ飛んでいるのでしょう。

「サリエル、もちろん欲しいに決まっている。よくはわからないが、人族には渡せない貴重なものなのは、ひしひし感じる」
 ラーディン兄上がそう言うので。
 ぼくは彼に抜け殻を渡した。

「では、えっと…いい感じにみなさんで分けてくださいね? あ、ディエンヌには絶対にあげないでくださいね? 嫌な予感しかしません」
 っていうか、彼女はぼくに、やらかししかしていないので。
 ぼくの恩恵の資格はなしです。
 むふん、と。鼻息荒く。口をへの字にして、思っているとき。
 兄上が言った。 

「それはおまえたちと、アリスティア嬢の五人で分けなさい。私はサリュから、別のご褒美をもらう」

 ぼくは。兄上にこそ、ぼくの最高のご褒美を差し上げたかったのに。
 違うものが欲しいと言われ。ちょっと動揺した。
 いえ、ぼくにできることでしたら、なんでも。兄上には、なんでも差し上げたいのですがぁ。

「兄上、その前に。一番肝心なことを知りたいです。サリエルはいったい、何者なのかっ。そしてなんで、アレがないのかっ!!」
 ラーディンに、指をさされたのが。ぼくの股間だったから。

 ぼくは、へえぇぇぇぁああ? となるのだ。

 いえ、マントで今は見えないはずですが。
 シュナイツも、マルチェロも、ファウストも。
 アレがなかったと、ひそひそコソコソしています。
 むきぃぃ。
 兄上が人前で裸をさらすなと、マントを貸してくださいましたが。
 時すでに遅し、だったようですぅ…。

「アレは、ないのではないのですぅ。羽化直後は、まだ性的未分化なので。その気になったら立派なモノが、ババーンと生えてくるのですぅ!!」

 そうです。アレは、いわゆる男の子が股間に息づかせている、アレでございますが。
 クリスタルに映ったぼくには。なかったのです。アレが。
 でも、どうしてないのか。理由はなんでか、ちゃんとわかっていました。

「サリュ…立派でなくてもいいぞ? 適度に、な?」

 兄上に言われ。
 ぼくはまた、へえぇぇぇぁああ? となるのですが。
 あぁ、もしかしたらぁ。
「あ、あ、兄上は、やはり。女性体の方がお好みですか?」
 どちらにもなれるので。聞いてみる。
 でも兄上は、首を横に振った。

「いや? サリュはずっと、男の子だったから。まぁサリュが、なりたいものになればいいよ? 私はどんなサリュも、サリュだから大好きなのだ」
 そう言われて。ホッとした。
 十三年間、男として育ってきて。
 いえ、淑女教育もバッチリではありますが。
 でも、なんとなく。ぼくは、ぼくでありたかったので。
 男でも、女でも。ぼくであれることは、とても嬉しいことだし。
 兄上は、どんなぼくでも好きでいてくれるって。

 それが一番、重要だからね?

「それに、サリュは。男性体でも、子をなせるだろう?」
 レオンハルト兄上の言葉に、ぼくは、息をのむ。
 兄上は、聡明なお方だから。
 ぼくの正体を、知っていたの…でしょうか?
 ぼくだって、つい先ごろ気づいたことだというのに。すごいですね?

 そう、ぼくは。とうとう、ぼくが何者なのか。それを理解したのだ。

しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

処理中です...