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109 その男は、ぼくのものっ。

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     ◆その男は、ぼくのものっ。

 魔王の玉座に座る、ぼく。その横にアリスが寄り添い。
 大きな謁見の間でぼくの前に対峙しているのは。人族の、勇者御一行。
 なんか、仲間内で揉めているのですが。
 もう、早く帰ってくださーい。

「しかしあの幼児は、ツノも魔力もないじゃないか? 魔王ではない」
 勇者はそう言うが。剣士も仲間も首を振る。
「玉座にいるんだ、魔王じゃなくても、次期魔王なんじゃね?」
「子供が遊びで座ってんだ。俺も子供の頃、親父のゲーミングチェアに座って、コロコロ動かしてよく遊んだもんだ。危ねぇっつって、拳で殴られたけど」
 カカカッと笑って、勇者がなにやら、まったりと昔話を始める。
 でも若者は、またじじぃの長い話が始まった…みたいな顔になっていますよぉ?
 もう、そうじゃなくてぇ。

「幼児とか、子供とか、丸いとか言っていますけど。ぼくはっ、十三歳ですっ」
 胸を張るつもりで、腹を突き出し、ぼくは断言します。
 どうです? 結構な大人でしょう? 少なくとも、幼児ではありません。

 でも口を出したぼくを見て、勇者は仲間に言うのだった。
「ほら見ろ、まだ声変わりもしていない。ほんの子供だ」

 はぅっ、勇者にとって、十三歳は子供カテゴリーのようです。
 大人の階段を、ぼくは駆けあがっている最中だというのに。
 でもおじさんだから、仕方がないです。

     ★★★★★

「サリエルっ、無事かっ!?」
 勇者御一行がぼくの処断について揉めているところに。
 謁見の間の扉を開けて、ラーディン兄上が入ってきました。
 その後ろにはシュナイツと、マルチェロとファウストもいます。
 みなさん翼を出しているから、急いで駆けつけてくれたのですね?
 ありがとうございます。助かりましたぁ。

 そう思って、ぼくはホッとして。ニッコリになりました。

 でも、そのとき。ゴゴーンと地響きがして。
 バリバリドッカーンという大きな音とともに、雷が落ちてきて。
 ラーディン兄上の前に、レオンハルト兄上が現れたっ。
 現れ…っていうか、て、天井が、開いています。
 兄上は、上から…空からの、登場ですっ。
 ついに兄上が、バリバリドッカーンしてしまいました。
 そして、天井にっ。魔王城の天井にぃ、穴がぁ…。

 いえ、でも。ぼくを助けに来てくれたのでしょう。ありがとうございます。
 天井は…きっと、なんとかなります。はい。

「私のサリエルを攻撃した者は、誰だぁっ!!」
 雷鳴のごとき、低く、危機感を覚える兄上の雄叫びに。
 そこにいる者はみんな、威圧感に怖気おじけづいた。

「あの威厳、あの迫力。黒髪に、まさかのツノが四本? 間違いない。あれが、魔王だっ。子供をおとりにしてはさみ撃ちするなんて、魔王、なんと姑息な真似を…やはりこれは、罠だったのだっ」
 勇者が、そう叫ぶ。
 ぼくと兄上の間に挟まれ、パニック状態の、勇者御一行。
 
 しかし驚いたのは。兄上も同様だった。
「なんだ、これはいったい、なんの騒ぎだ? なぜサリュが、玉座に座っているのだっ」
 うすうす、いろいろ、漠然と、ディエンヌのせいなのは承知しているのだろうが。
 この舞台の状態が、みなさんはさっぱりわからないようだった。
 そうでしょうね? ぼくも、いまだによくわかりませんから。

「なんだっていい。魔王をれば、俺が勇者だぁーーっ」
 腰の引けていた剣士が。我を取り戻して、剣を振り上げた。
 兄上に向かって行くっ。

 駄目だっ。その男は、っ。レオンハルトには誰にも手出し、させませーん。

「剣士よっ、魔王は、ぼくですっ!!」
 玉座から立ち上がったぼくはっ。思い切って、宣言しますっ。
 その声を聞いた剣士は。殺意をぼくに向けて、階段を駆け上がってきました。

「アラン、それは囮だっ。子供に剣を向けるんじゃねぇ!」
「子供でも魔王だ」
「バカヤロー、その子には魔力もツノもない、魔王じゃなーい」

 勇者の静止の声も聞かず、アランはぼくに、剣を振り下ろします。
 ディエンヌも、大概人の話を聞きませんが。
 アランとやら、雇い主の勇者の言葉を無視したら、あかんよ。

 えぇ、わかっています。
 これは恐怖から逃れるための、脳内逃避です。よくやります。
 本当なら兄上の防御結界で、剣士は先ほどのように弾かれるはずですが。
 ぼくはブローチを外し。玉座に置いているので。
 結界は、発動しません。

 すべて、剣士の剣をぼくに向けさせるためです。
 本当は兄上なら、剣士も勇者も指先ひとつで跳ねのけるでしょうが。
 ぼくは、見たくなかったのです。
 兄上が危険な事態は。なにもかも。

 だけど、剣先がぼくのそばまで来ると。
 やっぱ、怖くて。
 兄上の代わりに剣を受けようと思ったけど。

「殺されるの、やっぱ、怖ーーいっ!」
 って、思ったら。
 ぼくの目が。糸目の目が。

 ガビーーンと、開いた。

 カカッと目が見開いている感触が、ぼくにもわかりました。
 そうしたら、謁見の間にいるみなさまの動きが、なんでかピタリと止まりました。なんでか。

「動かねぇ…まさか、石化か? 邪眼?」
 剣士は、ぼくの二十センチほど手前で、固まり。信じられないとばかりに。つぶやく。
「魔王級の魔法を、あらかた中和できる俺を、押さえ込むなんて。なんて、力だっ」
 勇者も、恐怖を笑いで誤魔化して、ニヤリとする。
 シリアスなムードで、みなさんが固まっているというのに。

 そこに空気を読まない、ラーディンの声が響いた。
「おまえ、やっぱり…やっぱりっ、サリエルはコカトリスだったのかぁぁっ!!」

 コカトリスは、茶色いニワトリを大きくしたような魔獣で。
 息や唾液が猛毒。強力な魔力を持ち、目が合うと動けなくなるとか、死ぬとか、いろいろ言われていますけど。
 それは良いのです。問題は、そこじゃねぇっつーの。

「違いまぁすっ、ぼくはっ、コカトリスじゃありませぇーーんっ!!」

 謁見の間にワンワンと反響するくらいの大声で、ぼくは言い。
 そして続けて、目をぎゅっとつぶって叫びました。
「ラーディン兄上の、バカーーーっ」
「目をつぶるなっ、サリュっ!!」

 レオンハルト兄上の声に、ぼくはすぐに目を開けたけど。
 邪眼の効果が、一瞬解除されたみたいで。

 剣士の剣が、お腹にサクッと、当たった。

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