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108 勇者がやってくる…らしい。

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     ◆勇者がやってくる…らしい。

 ディエンヌに父上を人質に取られた、ぼくは。
 魔王の玉座にプヨッと、腰かけております。
 これから魔王城に、勇者がやってくる…らしい。
 どうやら森で人族が干からびていた件について、勇者は詳細を聞きに…いえ、問いただしにくるのだと思うのですが。
 勇者に相対するのが、めんどくさいというディエンヌは、ぼくに丸投げをした。という次第でございます。
 っていうか、干からびさせたのはディエンヌなのですよぉ?
 なんでぼくが、それを勇者と話さなければならないのですかぁ?
 悪役令嬢の兄(尻拭い)も、ここに極まれりですっ。
 いえ、もう、ラスボスの兄(尻拭い)でございますぅぅぅ。

 兄上は、隣の領に干からびが出て、それを調査しに行ってしまったがぁ。
 兄上ぇ、帰ってきてくださぁい。ディエンヌは魔王城にいまぁすっ。

 そして、魔王城に勤める他の人たちは。
 みんなディエンヌに生気を吸われて、動けないか。操られて、ディエンヌの味方になっている模様。
 ぼくの味方は、いません。
 隣にいるアリス以外はね。

「サリエル、私がシュナイツとかラーディンとか呼んできてあげましょうか? この部屋を出ちゃいけないのは、サリエルだけですものね?」
 にこりとして、アリスが言うけど。
 怪しい笑みですっ。

「ええぇっ、ここにぼくひとり、残す気ですかっ? 嫌です。ダメです。そんなの、怖いんですけどぉ? つか、アリスがここを逃げたいんでしょ? 人を呼びに行くていで、ここから遠ざかりたいのでしょぉぉ?」
「はぁっ? そこまで鬼畜じゃないわよ? 私ぃ」
「いいえ、ぼくは離しませんよ、アリス。それにきっと、ここから出たら、操られた衛兵がうーようよですよ? 危ないです。やはりここにいるべきです」
 ぼくはアリスの腕をつかんで、離しませぇん。
 ひとりで勇者は、むーりー。

「もう、わかったわよぉサリエルぅ。ここにいるってば。こうなったら、七年分の心の居候、恩返し的な? 一蓮托生、とことん付き合ってやりますよっ!」
 頼もしく請け負ってくれたアリスを。ぼくはヒシッと抱きしめる。
 いえ、はたから見たら、コアラがアリスの腕に抱っこちゃんしている感じでしかないでしょうがっ。
 でもでも、ありがとうアリスっ。って、思っていたら。

 謁見の間の扉が、開いたのだ。

 ぼくを呼びに来た人と同じ人が、勇者もここに連れてきちゃったよぉ。
 いやぁぁぁ、あの人きらーい。

 勇者らしき、マントを羽織ったおじさんと、杖とか剣を構える人、数人。計五名のパーティーが、赤い絨毯の上をダカダカっと走ってきた。

 勇者? ホントに勇者、キターーーッ。

 彼は階段の下で止まると。告げた。
「俺は、人族のエクバラン国で召喚された勇者、トモキだ。おまえが魔王か?」
 玉座の上に座るぼくをみつめて、言うけど。
 魔王じゃないので、答えられないんですけどぉ?

 勇者は、人族の年齢で三十過ぎくらいに見える、無精ひげのおじさんだ。
 目元がくっきりしているから、おしゃれしたらイケオジになりそう。
 イケオジ…いえ、ここで引っかかっている場合ではありません。

 勇者って、もっと若いかと思っていた。
 でも、エクバランが勇者を召還したのは、ぼくが生まれる二年前。
 以前ミケージャが教えてくれました。
 そうしたら、当時は若くても、今はやはりおじさんだね?

「つか、これって罠? 魔王城に誰もいないとか? ここまでするっと通してもらえて。まぁ、無血で済んだのは、ありがたいけどさ」
 ディエンヌのやつ、勇者が来るとか言って。
 誘い込んでいるじゃないか?
 ぼくの元に、誘導しているじゃーん?
 もう勇者にぼくを殺してもらいたくて、仕方がないんだね?
 でも、そこまでするぅ?  

「アリスぅ、これってぼく、なにか言った方がいいの?」
 コソコソとアリスに聞くと。アリスはブブブと首を横に振るのだ。
「わっかんないわよぉ? そんなの。どうすんのよ、これぇ??」

 そうして、ふたりで話していたら。ブビーブビーとブローチの警報音が鳴って。

 勇者の後ろにいた、剣を構えていた若い剣士が。
 階段を駆け足で登ってきて。ぼくら目がけて、剣を振り上げた。

 するとブローチの防御魔法が働いて。瞬時に、結界が発動。
 剣士は結界に弾かれて、階段の下に落ちていった。
 物理攻撃が無効化されたぁ。

 ぼくは、彼が落ちていくのを見て。思った。
 崖の上でディエンヌと対峙したとき。
 魔力のないぼくを、アリスがかばってくれたけれど。
 思い切ってぼくが前に出ていたら、ディエンヌに崖から落とされずに済んだのでは?
 あまつさえ、ディエンヌに勝てた、のではぁ?

 ああぁぁーぁ、臆病ゆえの失態ですぅ。
 あのときディエンヌをおさえられていたら、このような面倒なことにはならずに済んだかもしれないのにぃ。

 ほっぺを揉み込んで、ぼくがひとりで反省会をしていたとき。
 勇者側もなにやら揉んで、いや、揉めていた。

「バカ野郎、なにいきなり攻撃仕掛けてんだっ? 俺は今回は、魔王と話をするだけだって言っておいただろうがっ」
 勇者は怒るが。
 彼が従えてきた若者たちは。ぼくを警戒して、剣や杖を構え持ち。しっかり戦闘態勢になった。
 血気盛んで、イケイケゴーゴーです。

「つか、こんな丸くてプヨプヨのいたいけな幼児相手に、問答無用で斬りつけるとか。考えられないっ」
 勇者は、無理無理ありえないと首を振って、仲間の若者を非難するが。
 剣士は勇者の言葉を鼻で笑う。

「勇者よ、あなたはこの世界の住人じゃないから、そんなことを言うのだ。丸かろうと、いたいけだろうと、彼は魔王なのだ。てか、幼児なら好都合じゃね? 無害なときなら、俺でも殺せる! あなたは召喚された時点から、勇者で。俺は、今はあなたの従者に過ぎないが。俺が魔王を殺したら…一躍名をあげて、俺が勇者になれる。ここの手柄は俺がもらったっ!!」

 そう言って、こちらをギラリと睨みますが。
 それって剣士さんが勇者になりたいだけの、そちらの都合ですよね?
 つか、ヒーローになりたい願望が、痛いです。
 てか、丸い丸いとみなさん失礼ですねぇ。

「そうよ、勇者様。丸さに騙されてはいけないわ? あの子あんなに丸いのに、隣に美女をはべらせているもの。魔王だから、きっと丸くてもモテるんだわぁ? 美女に囲まれてウハウハなのよぉ。それにアランが跳ね返されたのは、なにかの魔法よ! 攻撃されたのよ。丸くても、アレは魔王だわっ」

 ビシッと杖をぼくに向けて言い放つ。赤い頭巾をかぶっているのは、たぶん魔法使いの少女。
 つか、全然、ウハウハなんかしていませんしぃ。
 てか、やはり丸いが引っかかるのですね?

 でもね、お嬢さん。
 剣士が跳ね返ったのは、魔法攻撃ではなく。ブローチの防御結界のせいで…。

 ぼくはっ、なにもしていませぇん。

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