魔王の三男だけど、備考欄に『悪役令嬢の兄(尻拭い)』って書いてある?

北川晶

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105 魔王の玉座に座る、ぼく。

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     ◆魔王の玉座に座る、ぼく。

 サリエル・ドラベチカ、十三歳。ぼくはっ。
 いま、魔王の椅子にチョコリーンと座っております。
 魔王の玉座に座る、ぼく。
 そうです。イガイガの、なにやらおどろおどろしい彫刻がなされた、あの玉座ですよっ?

 学園から帰ったばかりで、衣装は、あの、いつもの白い制服ですしぃ。
 大きなお椅子ですので、低身長のぼくが膝をそろえて座っていると。チマッと。マルッと。していてぇ。
 全く、威厳はございませんが。
 それは良いのです。問題はそこではないので。

 ここはあの、一番大きい謁見の間でございます。
 全体的に真っ白なお部屋で、クリスタルの柱が豪華絢爛。
 赤い絨毯が、謁見の間の真ん中を突っ切っている。白地に赤いラインが、ひときわ目を引きます。

 以前この部屋に来たときは。その大きさに驚き。
 トゲトゲデザインの透明な柱は、ガラス製。白く濁った床は、氷のよう。なんて思っていましたが。
 ほぼ全部クリスタル製だと聞き。恐れおののいております。
 お値段がお高そうですぅ。
 それは良いのです。問題はそこではないのです。

 ぼくの横には、アリスティア嬢がおりまして。
 魔王となって玉座に腰かける、ぼくはっ。アリスと、けけけ、結婚んーーっ?
 するわけもなく。

 ぼくもアリスも、ジト目でスンとしているわけなのです。

 一体、どうして、こんなことになってしまったのでしょう??
 それをご説明するには、一時間ほど前にさかのぼらなければなりません。

     ★★★★★

 一時間前のこと。
 ぼくはいつものように、学園からファウストの馬車で屋敷まで送ってもらい。帰宅したところでした。

 ちなみに。
 ディエンヌが大騒ぎを起こして、中止になってしまった魔獣狩りイベントから。一ヶ月が経っております。
 その日、行方不明になったディエンヌは。まだ見つかっていません。

 ディエンヌがいなくなって、一番に探されたのは。母上のいるクレスタ領でした。
 子供は、母の元へ帰りたがるものですからね?
 クレスタ領は、魔王様が母上に下賜した古城と、湖と、村があるだけの小さな領地なのだが。

 その中にある村は、壊滅しておりました。

 村人も領主も、全員干からびていたのです。
 クレスタ領は、ファウストの実家があるエーデルリンク、そのお隣の領であるカージナルの中に組み込まれていたが。
 領の端の、奥の奥に位置していたことから。その発見が遅れてしまったようだった。
 ディエンヌ捕縛のため、騎士団が向かわなければ。
 もしかしたら、いまだに死の村であったかもしれない。
 ちょっと、ホラー。

 で、ディエンヌも。そして母上も。クレスタにはいなかったのである。

 村人は二百人余りで、ディエンヌは三百人の生気を取り込んだと言っていたから。
 もしかしたら被害のある地域が、さらにあるのかもしれません。
 それで夏休みに、ファウストの実家に遊びに行ったとき言われていた。干からび事件は。

 どうやらディエンヌと母上の犯行なのではないかと、言われ始めています。

 いえ、まだ村人の干からび事件が、ディエンヌたちのせいだと決まったわけではないのですがぁ。
 生気を取り込むことのできるふたりが、領から姿を消しているということで。
 嫌疑は限りなく濃厚、という感じですね。

 その話を聞きつけて。人族の国でも。魔族が人族を襲ったらしい、と息巻く者が多くなっているとのこと。
 しばらく反目しながらも、安寧に過ごしていた、人族と魔族の関係も。一波乱ありそうな雲行きになってきています。
 あわわ。なんてことでしょう。

 魔獣狩りでディエンヌに操られていた生徒たちは。じきに正気を取り戻しましたが。
 百人ほどが、生気をちょっと吸われる『チョイ吸い』をされていたようです。
 ディエンヌが言った三百という数が、クレスタの村人二百人プラス生徒のチョイ吸い百人という数なら。被害は少なく済むのですけどねぇ?
 しかし、この村人の干からびがディエンヌのせいならば。
 死者の数が膨大なので。
 厳重な処罰がくだされることには、なりそうです。

 それでチョイ吸いされた生徒は、なんとなくディエンヌの指示に従いたくなるのですって。
 朦朧とした中、ディエンヌの声しか聞こえなくて。彼女の声の通りに動いてしまった、とか。

 その話を聞いた兄上は。
 ディエンヌは生気を吸った者を、自在に動かせる能力があると断定いたしました。

 村人の干からびの件と、生気を魔力に変換できる、という憶測は。
 彼女を捕縛した後の事情聴取で、明らかにしなければならない。

 ぼくの殺害未遂の件では、未遂ゆえに、まだ若干ディエンヌをかばっていた、魔王様も。
 一連の報告を聞いて、ディエンヌとエレオノラ母上の指名手配を認めるしかなかったようだ。
 すべての罪が明らかになるまでは、王族の籍を抜かない姿勢だが。
 とにかくみなさまが、ディエンヌとエレオノラ母上を逮捕することに専念しているというところだった。

 ぼくが屋敷に戻ると、レオンハルト兄上がエントランスで慌ただしく外出の用意をしておりました。
「サリュ、王都の隣の領で干からびた者が数人出たようだ。ディエンヌの捜索とともに調査をしてくるので、今日は屋敷を留守にする。しっかり戸締りをして、夜は外へ出てはいけないよ?」

 ぼくの命を狙ったディエンヌが、まだ捕まっていないので。
 兄上は、とてもぼくを心配しています。

 今まで日替わりだった、学園の送り迎えも。
 再び、ファウストが一任するようになり。
 あ、アリスは、マルチェロが護衛をしていて。
 シュナイツとマリーベルが、婚約者同士ということで一緒に登下校していて。
 エドガーだけひとりで、拗ねていますが。そんな感じで。
 とにかく。ぼくの護衛が、現在結構厳しめの多めになっております。

 ですが。みなさまがぼくを心配しているのですから。
 ぼくは、そのことをしっかりと受け入れるだけです。

「わかりました、兄上。しかしその調査は、兄上が行かなければならないのですか?」
 怖いから、言っているのではなく。単純に疑問に思って、聞いたのだ。

「すまない、さみしい思いをさせて。隣の領は。領内の事件は己の手柄だと言い、騎士団の介入を渋っている。私が出向いて、協力するよう説得する必要があるのだ」
 手柄とは、ディエンヌを捕まえたらうちの領の手柄になる、みたいなことですね?
 それはいわゆる。所轄と県警の縄張り争い、的な?
 しょか…つ? これは、前世の記憶です。この頃ぼくの脳みそは、刑事ドラマづいています。
 まぁ、でも。納得はいたしました。

「そういうことでしたら、仕方がありませんね。兄上、お気をつけて、いってらっしゃいませぇ」
 ぼくは兄上の腰に、プヨッと抱きついて挨拶をする。
 兄上は颯爽と、玄関を出て行ったのだった…。

 その十分後、くらいでしたかねぇ。魔王城から使者がやってきたのだ。
「サリエル・ドラベチカ様。魔王様がお呼びです。至急、謁見の間にお出でください」

 兄上の留守中に呼び出しなんて、と。
 屋敷の留守を預かる、執事もエリンも、オロオロしてしまうが。
 基本、魔王様のお達しには逆らえないのです。

「では支度を整え、一時間後に参上いたします」
 ぼくが使者に告げると。使者は、首を振った。
「いいえ、魔王様は至急と申されましたので。お召し物は、それで結構でございます」

 今、着ているのは。学校帰りなので、学園の白い制服です。
 ええぇぇ? 不躾になりませんかぁ?
 そう思うが。さぁさぁと使者に、追い立てられるトテコッコのように急き立てられて。

 ぼくはっ、魔王城に登城することになったのだった。
 急展開、すぎますっ。

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